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逢海寛人 7月10日 午前8時19分 渡良瀬市 私立律明学園

 僕は今、食堂で朝食を待ち侘びていた。

 僕の隣には寝不足の雅人が覚醒しないまま、呆けた表情で箸を持っている。昨日、夜通しパソコンで情報を集めていたらしい。

 鈴は体育会系で早めの就寝を心がけているらしく、何時ものような顔で僕の右隣に座っていた。

 僕も昨日は疲れが溜まっていたので、早く寝てしまった。今、思えば見張りくらいは手伝えたのでは、と思う。


「なあ、雅人。いい情報は集まったのか?」


「……何か言ったか?」


「何でもない。後で構わないよ」


 僕は雅人の様子を察して、質問を切り上げた。

 朝食は何だろう。

 僕はそれ位しか考える事が無かった。こんな異常事態だというのに、緊張感がないのが自分でも不思議に思う。段々、一般人から遠ざかってきているという錯覚も覚える。


「おい、寛人。元気ねえな」


 そう呼びかけてきたのは怜汰だった。今、起きたらしく、頭には豪快な寝癖がついている。


「お前、さっきの集会に来なかっただろ?」


「ああ、寝過ごした。ま、大体の状況は把握出来てるつもりだぜ」


 僕はふ~ん、といった感じに会釈した。

 そこで気付いた事だが、何か向かいのテーブルでもめているようだった。

 一人の高校生が気弱そうな眼鏡の恐らく中学生に絡んでいる。理由は知る由もないが、あまり関わりたいことではない。


「おい!テメェ、謝れよ!」


「そ、そんな!貴方が勝手にこぼしたんじゃないですか!?」


 どうやら高校生の不良が飲み物をこぼされたらしい。くだらない喧嘩だ。


「ねえ、止めなくていいの?」


 鈴が僕の耳元で囁いた。


「まあ、喧嘩になっても勝てないでしょ。手出ししないほうが……」


 ガタン、とテーブルが揺れる音が響いた。続いて、食器が床に落ちる音。不良がテーブルをひっくり返したらしい。

 僕らが見ると、不良がその中学生を殴っているところだった。女子生徒からは悲鳴が上がる。


「おい!高野!いい加減にしろ!」


 そう叫んで、洋一が割って入った。

 金髪の不良少年にも見えるが、根は善人なので放っておけないのだろう。喧嘩っ早い怜汰もそれに参戦するべく、洋一の横に立った。

 二対一と不利な状況に立たされた高野たかの康平こうへいという不良生徒はポケットからナイフを取りだす。再び生徒からも悲鳴が上がった。


「テメェ、退けよ!怪我すんぞ!」


「ナイフかよ。卑怯な野郎だぜ」


 洋一が悪態を吐いた。

 僕は状況の重大さを漸く理解した。教師陣は校長室で話し合い中だ。警官たちは校内の巡回中。響夜さん達は家庭科室で調理中で、大人が一人も居ない状況だった。生憎、生徒会長も不在だ。

 しかし運良く助け舟が入った。


「君達、どうしたんだ?」


 武道館の扉から声が聞こえた。

 振り向くと響夜さんと準一さんが入ってくるところだった。


「悲鳴が聞こえたから来てみれば……何事だ?」


 準一さんが顔を顰めて、様子を窺う。

 とりあえず、響夜さんが二組の間に入り、仲裁しようとする。高野はナイフで洋一と怜汰に襲い掛かろうとするが、響夜さんが拳銃を突きつけたのでナイフを下ろした。その間に準一さんが中学生から事情を聞く。

 僕も中学生の傍で事情を聞く事にした。


「何があったんだ?」


 準一さんが中学生に尋ねる。

 中学生は必死に弁解していた。


「ぼ、僕は何もしてませんよ!向こうが勝手に騒いで、水をこぼして、それでこっちのせいにしたんです!」


「テメェ!余計なこと言うんじゃねえよ!」


 再び高野がナイフを振り上げる。

 響夜さんは高野の足下に発砲した。その銃声で生徒たちは皆、一斉に下がった。流石の高野もこれにはビビったようで、ナイフを取り落とした。

 響夜さんは険しい表情で高野の頭に拳銃を突きつけた。


「この中学生の話を聞けば、君が一方的に悪いと思うんだが?」


「だ、黙れよ!」


 高野は精一杯の虚勢を張り、ナイフを拾おうとした。響夜さんが拳銃の引き金に手を掛ける。


「両腕を頭上に挙げろ。言っておくが、二発目は外すなんて慈愛の心は俺にはないぞ」


 静かな声だが、十分な脅しになっていた。高野は悔しそうに歯軋りする。


「それにこれから食事の時間なんだ。この食卓をお前の汚い血で汚したくはないんだが……」


 高野はこれでもかという程、顔を歪ませた。そして捨て台詞を吐き出す。


「畜生!覚えてろよ!」


 高野はナイフを拾い上げ、武道館から出て行った。

 響夜さんは拳銃をホルスターにしまい、何食わぬ顔で両手を二、三度叩いた。


「さあ、飯だ。早く食っちまえよ。今日はやることが山積みだ」


 僕はこの時、響夜さんを男としてかっこいいと思った。冷たい態度だが、何処か温かみがある行動を見せる時は、女性なら一目惚れすると思う。

 そう思うのは人生の先輩としてであって、別に僕はホモではない。

 至って普通のノーマルだ。

 僕は自分の席に戻り、事態の収拾と同時に運ばれてきた朝食を口に運んだ。これからの生活、僕はどう生きていけばいいのだろうか。

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