逢海寛人 7月9日 午後11時46分 渡良瀬第三中学校 敷地内
更新が大分遅れました。これからも毎日更新はキツイかもしれませんので、まあ何とか生暖かい視線で見守ってやって下さい。
「腹減ったよ……」
僕は呟いた。鈴と雅人は無視して歩いていく。先ほどのKY発言のお陰で二人は僕を無視するようになった。今と同じように話し掛けても応えてくれない。相槌を打ってくれればいいほうだ。
「雅人君、律明学園まではどう行く?」
鈴が歩きながら、雅人に尋ねる。雅人は少し立ち止まった。
「そうだな。まずは学校から出よう。話はそれからだ」
鈴が頷き、歩き出す。僕など居ないように物事が進んでいき、僕は寂しくなった。せめて相手にしてほしい。僕はおずおずと話し掛けた。
「そうだ。近くにコンビニがあった。よって何か食べ物を……」
二人が同時にこちらを向く。その視線には敵意が篭っていた。
「何でも無いです……」
「そうか。じゃあ行くぞ」
漸く相槌を打ってくれた。でも積極的に話し掛けては来ない。何故か胸が締め付けられる思いがする。僕はそこまで空気を読んでいなかったのか?僕は溜息をついて、俯いた。
「きゃああああああ!」
突然の悲鳴。
僕は金属バットを構え、走り出した。雅人と鈴も数秒遅れで走り出す。悲鳴は校門の方から聞こえた。
「急げ!」
この中で一番足が速いのは鈴だ。鈴は僕と雅人を抜いて、どんどん走っていく。雅人は……言うまでもなく鈍足だ。
校門が見えるところまで来ると、二人の男女を確認した。奴らに取り囲まれている。万事休すだ。
「うおおおおおお!」
僕は叫びながら、敵に突進した。奴らの一人の脳天にバットを振り下ろし、叩き割る。それに続いて、鈴がもう一本のバットで二匹を吹き飛ばした。僕が敵をなぎ払い、鈴がその隙に二人の救助に向かった。雅人は近づいて来た奴をシャベルで殴るので精一杯だ。
「大丈夫?」
鈴が二人を立たせた。二人のうちの男の方がバットを構え、鈴に加勢する。女の方は二人の後ろでバックアップを行っていた。
「よし!行くぞ!」
雅人が叫んだ。
奴らの数が減ったため、こちらの方が有利になった。僕が鈴と二人の道を作り、鈴が二人を先導する。僕も小走りで奴らの群れから逃げ出した。
「走れ!」
僕たちは勢い良く走り、奴等の群れを抜けた。そのまま校門までノンストップで走り、校門から外へ出る。僕と鈴で柵を閉め、溜息を吐く。それは安堵の溜息だった。
危険を切り抜けた五人は皆が揃って座り込んだ。助けられた男が僕たちに礼を言う。
「助かったぜ……俺は堺怜汰。こっちのは今野優香子だ。よろしくな」
「ええ、こちらこそ」
二人と僕らは挨拶を交わした。雅人は冷静に辺りを見回し、脱出手段を探し始めた。そしてあるものを見つける。それは放置された大型トラックだった。
「使えるぞ。皆、乗り込め」
雅人が一番に運転席に乗り込む。助手席に僕が乗り、荷台に鈴と優香子、怜汰が乗った。
「よし、キーが差しっ放しだ。しっかり掴まれよ」
雅人がキーを捻り、エンジンを点ける。僕は雅人の非力な腕を見て、ハンドルを操作出来るかという疑問が浮かんだ。しかしそんな僕の心配を他所に雅人は容赦なく、アクセルを踏んだ。トラックが走り出す。
「おい!曲がれよ!」
僕が叫ぶ。雅人は目の前の角を曲がろうと、必死にハンドルを操作するが虚しくも全く動かなかった。
「退け!僕が代わる!」
僕は雅人から車の操縦権を奪い取った。渾身の力を込めてハンドルを左に向ける。トラックも遅れて左に方向転換し、角を曲がりきった。
そのままトラックは直進し、大通りの奴らを跳ね飛ばしながら進んでいく。奴らがボンネットに当たり、血が飛び散る。グシャグシャと肉片を踏み潰す音が運転席まで聞こえ、荷台では三人の悲鳴が聞こえる。外の様子は……想像したくも無い。
「律明学園は直ぐそこだ!」
僕は前方の大きな門を指差した。
巨大な鉄製の門があるのが確認出来る。その向こうには何棟もの建物があり、明かりも見える。
「雅人!ブレーキ!」
僕は雅人に向かって叫んだ。
僕は今、助手席から運転席に身を乗り出すようにハンドルを握っている。足は当然、助手席にあるので、ブレーキを踏むことは出来ない。
しかし雅人は動かなかった。
「雅人?」
僕は雅人の膝を叩いた。しかし反応が無い。恐る恐る雅人の顔を見る。
もしや……感染?
最悪の事態が頭を過ぎる。しかし状況は別の意味で最悪だった。雅人は気絶していた。恐らく先ほどの急カーブの衝撃のせいだろう。
「このヘタレの役立たずが!」
僕は雅人を抱え、ドアを開けた。
「おい、鈴!飛び降りろ!」
声は何とか鈴に届き、鈴が頷くのが確認出来た。最初に怜汰が優香子を抱えて飛び降りた。幸いにも奴らは周辺にいない。鈴もそれに続くようにして飛び降りた。僕も雅人を抱え、それに続く。
空中で受身の姿勢をとり、地面に転がる。雅人の頭が何かにぶつかる音が聞こえたが無視した。今は気絶しているヘタレの心配をしている場合ではない。
「鈴、生きてるか?」
霞む視界の中で鈴がゆっくりと立ち上がった。他の二人も立ち上がる。
怜汰が僕に向かって叫んだ。
「どうして飛び降りたんだよ!」
僕は無言で、地面に転がっているヘタレを指差した。怜汰も何かを察したようで、文句を言うのを止めた。代わりに雅人に恨みの篭った視線をぶつける。
「まあいいぜ。早く中に」
怜汰が辺りを見回す。奴らが周辺に集まって来るのが確認できた。時間はあまり無さそうだ。
「行くぞ。ヘタレは……一応連れて行け」
僕と怜汰は雅人を掴み、持ち上げた。優香子と鈴が鉄柵を乗り越える。
僕ら四人+ヘタレは何とか目的地の律明学園に辿りつく事が出来た。
果たして生存者はいるのだろうか?
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