後編
それからしばらくして、ある日グランヴィル家当主が我が家を訪れた。
父と二人で応対する。
少し気まずそうにグランヴィル家当主が話し出す。
「実は、先日の王宮での舞踏会で、フェリックスが隣国の王女殿下に見染められてね。
申し訳ないが、レイチェル嬢との婚約は、解消してほしい。
こちらからの申し入れだし、レイチェル嬢には大切な時期に時間を無駄にさせてしまった。
慰謝料も用意した。
婚約解消に応じてもらえないだろうか?」
よろこんで!と言いたいのをぐっとこらえて、私が承諾の返事をした。
父が余計なことを言わないよう、テーブルの下でそっと足を踏んで黙らせた。
「そうですね。残念ですが、フェリックス様にとっては、その方が良いご縁でしょう。婚約解消に異存はありません。どうぞお幸せにとフェリックス様にお伝えください。」
「レイチェル嬢が物わかりの良い方で良かったよ。
あなたも良いご縁があることを祈っているよ。
それでは。」
グランヴィル家当主は、ほくほく顔で帰って行った。
フェリックス本人は、顔も見せずに婚約は解消された。
今日は、王女殿下とのお茶会らしい。
魔術師の血統よりも、王家の血筋の方を選んだということだ。
いかにもフェリックス様らしい。
祖母の家に報告に行き、本当に『クーリングオフ魔法』の効果なのか聞いてみた。
「たしかにレイチェルの魔法だよ。そんなに都合よく隣国の王女と恋に落ちるわけないじゃないか。
魔法が影響して、円満に解消できた。
それでいいじゃないか。
この魔法は、多用してはいけない。
本当に困ったとき、一生のうち一回か二回ぐらいしか使わない方がいいのさ。
ギルバートみたいな奴に発現しなくてよかったよ。
たぶんギルバートなら、しょっちゅう使うことになるだろう。
そもそも契約は、慎重にしなくてはならない。
契約書に芥子粒みたいに小さい字があったら、用心することだね。
魔法があるからと、ちゃんとよく吟味しないで契約するのが一番よくない。
レイチェルならもう使うことはないだろう。」
「そうですね。私は、あとでなかったことにするような契約はしません。
よく考えて契約します。
それよりも、次の婚約者に良い方の心当たりはありませんか?
お父様のような魔術馬鹿じゃなくて、誠実でまじめな方で、妻子を養うだけの収入がある方、いませんか?」
「婚約解消しても、すぐ次に向かうあたり、ポジティブで結構。
昔のつてを使って探してみるよ。
もうギルバートに任せられないからね。」
おばあさまの人脈、人徳のおかげで、半年後私の新しい婚約者が決まった。
今度は、家柄や容姿をけなしたりしない、穏やかな良い方である。
お父様と違って、ちゃんと最後まで契約書を読む方である。
もちろん魔術師ではなく、王宮に勤める官吏の方だ。
魔術師は、一族だけでもう十分なので。




