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異界転生 人斬りの使い魔と没落探偵  作者: 悦田半次


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大当たり

 武器を選ぶ上で、その大きさというのはかなり気を使う。

 間合いが短い武器だと、狭い場所でも問題無く使えるが、相手により接近しなくてはいけない。

 逆に長い武器だと、比較的安全な距離をとって戦える。

 その反面、狭い場所となると何も出来ない。

 このような地下通路みたいな場所だと、大鎌という武器の相性は最悪だろう――そんな予想をツバキは立てていた。


 そも、何で狭い場所だと長物が不利になるのか。

 それは壁や天井が障害物となってに動きが阻まれるからに他ならない。

 大鎌のように動きが大ぶりになる武器は尚更だ。

 だが、武器が障害物をものともしない破壊力を持った代物だとしたら――


「まだまだ――いくでぇ!」


 ――答えは、地下通路の内部をバカスカ壊しながら暴れ回ることができる、だった。

 この狭い地下通路の中でも、リドーの煉獄一直線ゴー・トゥー・パーガトリィーはその力を存分に振るっていた。

 刃が障害物に触れる度に爆発じみた破壊を引き起こし、その破片は凶弾としてツバキを襲う。

 さらに件の刃も飛ばしてくる。

 スキルがあることを差し引いても、リドーが繰り出す攻撃は気が抜ける代物ではない。


「どしたどしたぁ!? ご主人様いんくて寂しいんかぁ!?」 


 シルヴィアはこの場にいない。

 移動しながら戦う人外じみた2人に追いつけなかった結果だが、流れ弾を考慮するとこれでよかったかもしれない。

 これだけ派手に暴れるリドーだが、自身に破片が当たるようなことにはなっていない。


 偶然ではない。

 刃を入れる角度や力加減を絶妙に調整しているのだろう。

 戦闘スタイルは一見力馬鹿のようだが、それを支えているのは繊細な技術だ。


「負けてられっか……!」


 飛んできた刃にスキルを使用。

 刃内部の術式に刀が振れる感触。

 今まではただ切るだけだったが、回数をこなすごとに術式のもつ「堅さ」も分かってきた。

 切れないギリギリの力加減――刀に術式を引っかけるようなイメージ――で体ごと回転させ、振り抜く。


「返すぜ」


 瓦礫を次々に切り裂きながら、刃がリドーに迫る。

 リドーは反射的に防ごうとしたが、生半可な防御が通じる武器ではないことを途中で思い出したのか、慌てて首を捻りギリギリで避けた。

 そして傾けられた首に、ツバキの回し蹴りが炸裂。


「ぐげっ……味な真似するやん。口だけやのうて足癖も悪いんかジブン」


 続けざまに振るわれる斬撃を防ぎながら、リドーは毒づく


「ついでに育ちも悪いんでな……!」


 マナーだの何だの期待して貰っても困る。


「やろうな。どー考えてもマトモに育ったようには見えへん。なんぼ質のいいおべべを着てもな」

「服がいいのは当たり前だろ? ウチのご主人様でも請求書見て青ざめた逸品だ」


 遠慮はいらない、と言われたので遠慮無く素材やらなんやら、戦いやすい設計にしてもらったらそうなったのだ。

 シルヴィアを青ざめさせただけあって、着心地、使い心地は抜群だ。


「だとしても、人の本質っちゅーのは取り繕えんっちゅーこっちゃ!」

「本質だぁ? 是非ご教授願いたいもんだね」

「分からんのか? 今のツバキちゃん、随分ガラでも無い事やっとるんとちゃうんか?」

「あ……?」

「転生者っちゅーのは大抵、バケモノになる前はいっちょ前な人間やったんやろなって思う連中や。英雄とかそう言う類やな」


 確かに転生者として召喚される人間は、その手の者達が多いのはツバキも同意できるところだ。


「けどなツバキちゃん……あんたは違うて見えるで。自分の都合でポンポン殺してきたクチや。倫理観なんてママンの子宮ハラン中おいてきたよーな、ロクデナシや。ちゃうか?」

「……」


 否定はしないが、置いてきた《・・・・・》って言うなら、ツバキを生んだ女はもっとマシな人間になった筈だ、とも思う。

 実際は食事に真面目な顔して毒を混ぜるような女だった。

 そもそも、殆ど会っていなかったのでどんな顔をしていたのかも朧気だ。

 姉も彼女の腹から生まれたと考えると顔は整ってはいたのだろうが、ツバキ注ぐ感情は大抵侮蔑か憎悪のどちらかだった。


「人殺しにも色々種類があるけど、ツバキちゃんは普通の人間もバンバン殺してきたクチやろ。正直見間違いかと思たで。なんであんな嬢ちゃんの隣にこんなヤツがいるんやってな」


 実際、その通りではある。

 人斬りとしての依頼は様々だったが、罪も無い人間を殺すケースも珍しくなかった。

 夜道で手を繋ぎながら歩いていた親子を襲ったこともあった。

 首がなくなった父の血を浴びながら、呆然とまだ手を繋いでいる子供の姿を、不思議とよく覚えている。

 だが、この時ツバキの胸に去来したのはたった1つ――『これで飯にありつける』だった。


 似たようなケースは何回もあった気もする、いちいち覚えていない。

 彼ら彼女らが殺される理由なんて考えなかったし、残された者達がどうなるかなんてどうでもよかった。

 今思い返してみると、ツバキの行為は『悪』そのものだ。

 どれだけ世界や時代が変わっても、平和に暮らしている家族を斬り殺すことが『正義』になることはないだろう。

 仮にあったとしたら、そんな世界はさっさと滅んだ方がいい。


「嬢ちゃんには同情するで。まさか召喚されたのがツバキちゃんみたいなロクでなしだったなんてなぁ!」

「……そうだな。あいつは妙なところで運がない」


 彼女ならば、もっと真っ当な英雄を召喚できたかもしれない。

 白馬に乗った騎士様あたりがしっくり来るが、現実というのは非情なもので、召喚されたのは英雄とはほど遠い人斬りだった。


「けどな――俺は1つも後悔してない」


 自身の所業が悪だったとしても、ツバキは過去を過ちだとは思わない。

 殺さなければ、死んでいたのはツバキの方だ。

 己と他者を生死の天秤にかけたとき、ツバキは迷わず己を選択する。

 たった1つの命を永らえさせるために、無数の屍を築き上げようとも、ツバキの意思は揺るがない。


「ロクデナシだろうがなんだろうが知った事かよ。そんなの――死ぬよりはマシだ!」

「ハッ、経験者は語るっちゅうことかい」

「ああそうだ! あんなの、2度とゴメンだね」


 かつてのツバキの人生はお世辞にも良いとは言えなかったが、それでも何故か死んで終わらせたいとは思わなかったし、怖かった。

 実際、死んだ時の感覚はもう一度どうかといわれれば絶対に嫌だ。

 睡眠とは違う、意識がバラバラに解体され消えていくあの感覚は、1度味わっただけで充分だった。

 横薙ぎに迫る刃の攻撃を身をかがめて避け、肉薄。


「げっ」


 リドーの顔が僅かに引きつる。

 やはりか。

 刃の内側に入ってしまえば、こっちが有利――


「――なーんてな」


 鳩尾に衝撃が走る。


「っ――」


 呼吸を忘れた体をくの字に折った瞬間、顔面に向かって繰り出される追撃を防いだ。

 見れば、煉獄一直線の刃が消え、柄の長さも二回り以上も短い。。

 鎌というよりも棍と言ったような外見に変わっている。


「どや? こーゆーことも、できるんや」


 再び大鎌に変形させながら切り上げる。

 乾いた音と共に、刀が宙を舞った。

 が、ツバキは刀には一切視線を向けない。

 ネクタイを解き、手にくくりつけた状態で、大鎌の柄へ伸ばす。


「言い忘れてたけどな、このネクタイも特注品だ」


 伸縮自在で、1度巻き付いたらこっちが解こうとするまで容易には外れない。

 案の定、ツバキとリドー双方の腕力に引っ張られ、大鎌は完全に沈黙した。


「こなくそ――!」


 毒づいた時には、ネクタイを引き寄せるようにして放った跳び蹴りが、リドーの腹部に炸裂していた。

 ネクタイの拘束が解けたリドーは、そのまま壁を突き破る。

 ツバキはキックの反動で宙返りして着地し、落ちてきた刀をキャッチした。


「ッ……」


 痛みと共に、にじわりと右肩に血が滲む。

 蹴り飛ばした直前にやられたのだろう。


「……ったく、迷惑な置き土産だ」

「ぜーっぜーっ、ツバキ、ようやく、追いついたわよ……」


 とかなんとか言っていると、ご主人様のご到着である。

 運動神経はいいのだが、いかんせん持久力には乏しいのが弱点だ。


「ひどいじゃない。私を置いていくなんて。せっかく、武器が変形する可能性があるから気を付けてって言おうとしたのに」

「今、文字通り痛感してるところだよ」


 転生者になっても鳩尾をやられるのはキツい。


「それで、リドーはどうなったの?」

「心配か? やめとけよ。アンタを殺そうとしたイカれ女だ」

「うぅん、確かにそうなんだけど……でもやっぱり、どうしてもあの人が悪い人とは思えないのよね。やり方は賛成できないけど」

「悪人じゃなくても人を殺す奴は殺すんだって……ともかく、蹴っ飛ばした手応え的にまだ死んでないとは思う」

「ふぅん……」


 シルヴィアは無警戒に俺が空けた穴へと近づいていく。


「おいよせ、待ち伏せしてたらどうする」

「ねえツバキ見て! 穴の向こうに通路があるわ!」


 まるで聞いちゃいない。


「って通路?」


 俺も警戒しながら穴へと近づく。

 中を覗くと、なるほど確かに通路がある。

 リドーの姿は見えない。

 だが、血痕が転々と続いていると考えると、この通路を通って逃げたということか。


「うーん……なるほど、そう言う事ね」


 壁と煉瓦の破片を見比べながら、納得したようにシルヴィアは頷いた。

 そっちがなるほどと思っても、ツバキとしては何が何だかサッパリだった。

 表情に出ていたのか、シルヴィアはピンと指を立てて説明し始めた。


「この煉瓦の破片と、周りの煉瓦を見てみて。何か気付くことはない?」

「何か気付くって……あ。破片になっている方が新しい煉瓦ってことか」

「そう。そして穴の周囲にある煉瓦もこれと同じ新しい煉瓦……つまり、この通路はつい最近隠された秘密の通り道ってことね」

「それを俺が意図せずブチ破った、と」


 シルヴィアはツバキが納得したのを満足そうに頷くと、ひょいと露わになった通路

に入っていく。


「警戒しろっつったのに……まったく」


 ツバキも後から続いて横に並ぶ。

 すると、何やら甘ったるい匂いが鼻をついた。


「なんだこれ、花か?」


 眉を顰める。

 昔から、花の匂いというのはどうも好きになれない。

 菓子や果物の匂いは大歓迎なのだが。


「この匂い……おそらく、大当たり(ジャックポット)を引いた可能性があるわ」


 このようにカッコ付けているシルヴィアだが、以前仕事でカジノに言ったときは大負けに負けて簀巻きになりかけたことがある。

 そうこうしているうちに、光が見えた。

 通路の出口――そう覚しき場所に潜み、外を覗っているのはリドーだった。


「なんや、あんたらかい。悪いけど、今かもとる暇はないんや」

「自分から絡んどいて、とんだ言い草だな」

「まあまあツバキ。戦わないって言うのならそれに越したことはないでしょう?」


 本当に戦意は引っ込んでるし、打ち止めと言われても文句はないが。


「ひとまず俺の判定勝ちってことでいいよな」

「アホか。最後に一撃叩き込んだら勝ちとかけったいなルールつくらんといてや」


 意外と細かいことに拘るヤツである。

 ともあれ、ツバキとシルヴィアもリドーに続いて、覗き込む。

 目の前に広がるのは工場だった。

 蒸気機関で動く巨大な機械に、等身大の細身の人形……ゴーレムが次々に機械から吐き出される白い粉を小袋に詰め、その小袋を小箱に敷き詰めている。

 ゴーレムの数はあまりにも多い。

 以前工場の中を見たことがあったが、そこにいた労働者を全て人間からそっくり入れ替えたみたいに思えた。


「こりゃ確かに、大当たり(ジャックポット)だな」


 ここは、クスリの製造工場だ。


「見つからん筈や。こんな地下で作っとったんか」


 ギリッとリドーが歯を食いしばる。

 彼女からしてみれば、棚からぼた餅――いや、さすがにそんな嬉しいものではないか、と内心ツバキは首を振った。


「とにかく善は急げや。全部ぶっ潰したる」

「止めろバカ。まずは情報を集めるのが先だ」

「誰がバカや。バカと言った方がバカなんや。あ、3回言ってもうた」

「はっ、そのセリフからしてバカ丸出しだな」

「うっさいわ。だったら、そこの嬢ちゃんに決めてもらおか」

「絶対俺が不利だろそれじゃ」

「フツーそこは逆とちゃうん?」


 さあジャッジはいかにと思ったら、


「どういうこと……?」


 シルヴィアは、呆然としていた。


「ゴーレムの出来が余りにも精巧すぎる。魔力の循環系統も完璧だわ……質も量も一級品のな完全自立型……卓越したゴーレムマスターはゴーレムだけで国を作れるって言うけど……妙ね、この世界にあるゴーレムとは技術系統が違う……?」


 魔眼を光らせながら、ツバキ達の話はまるで耳に入っていなかったらしく、ブツブツと呟いている。


「この工場の空間もすごいわ。地下通路を大規模な魔法で改造したみたい……でも妙ね。ここまでの力を持っているのなら、仕官とか色々方法はあるはずなのに――持っている力とやっていることのアンバランス具合は……」

「転生者使いの特徴、か?」

「ええ。それにしてもこの空間は一体どうやって――んな!?」


 工場の天井を見ていたシルヴィアがあんぐりと口を開けた。


「2人とも、今すぐここから――」


 ――逃げろ、と言い終わる前に、ツバキはシルヴィアの体を抱え踵を返す。

 が、遅かった。

 目の前に壁がせり上がり、一瞬で退路が断たれた。


「チィ――!」


 リドーが煉獄一直線で破壊してもすぐに修復されてしまう。

 これでは逃げられない。

 変化はそれだけでは終わらない。

 今まで自分の仕事にしか関心がないと言わんばかりだったゴーレム共が、一斉に目を光らせ、武器を手にツバキ達に向かってきた。

 しかも、壁や地面や天井からも新たなゴーレムが生み出されていく。


「なんてこと……! ここは『ゴーレムがいる工場』なんかじゃない。工場も含めたこの空間全てが、ゴーレムそのものだったなんて……!」


 余りにも強大な敵が、一斉に牙を剥こうとしていた。 


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