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勝手に生きてます  作者: ねこまんまときみどりのことり


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リオ付きのメイドになる

 「さあ。後は、この国の歴史ですね。リオ」

 「はい。アンナ先生」


あれからもずっと、リオルナリーとして教育を受けているリオ。

字を書いたり読んだりして学ぶことは、今後に役立ちそうで楽しかった。計算などは母親と買い物をしていたので、銀貨の桁くらいまでなら理解できる。


ダンスもそう。

物語の主人公になったようで嬉しくて、躍りを披露すれば母親にも褒められたので、まあ何とかなった。



でも………………

歴史。これだけは理解できない。

だって昔の人の話なんて、平民には関係ないもの。

そう思うと眠くなり、学習に身が入らない。



それを見てベテラン教師、アンナ・ロッテンイヤーは、眉間に皺を寄せる。

彼女は由緒正しきロートレック王妃を教育した、人気の教師である。侯爵家次期当主アルオ直々に依頼され、此処に赴いているのだ。


彼女の身分は子爵夫人である為、その依頼は断れないもの。

だが彼女は、アルオが家庭を蔑ろにして愛人を優遇することに嫌悪していた。取りあえず顔合わせでリオと会った後は、 “相性が良くないようでした” と言って断るつもりだった。


どうせ娘も気位が高くて、傲慢な癇癪持ちのはずだから、何とか言いくるめることが出来ると思ったのだ。


それがだ。

実際に会ってみれば、自分(アンナ)にビクビクと怯えるわ、艶のない髪と荒れた手先の痩せっぽちで威圧の欠片もなく、字は少し読めるが書き物は出来ないし。



アンナは瞬時に理解した。

『これは虐待だわ』と。


リオルナリーの母親イッミリーは、水色の髪に紫水晶のように輝く瞳で、結婚前は社交会でも良く見かけた美しい女性だった。結婚出産後はリオルナリーが2才くらいになると、再び社交の場で時々見かけていた。(アルオ)はいつも不在ではあったが。


その後イッミリーは、リオルナリーが5才の年になる頃には社交の場で見かけなくなり、6才の時に亡くなったと聞いた。


つまり彼女達は夫にも使用人にも虐げられ、2人で身を寄せあって頑張ってきたが、イッミリーが病で臥してからはそのバランスも崩れ、リオルナリーの守護者がいなくなったに違いなく、イッミリーが死した後は育児放棄されていたのだろうと!!!!!!!!


アンナはわりと、思い込みが激しかった。


「いつから体調が悪かったかはわからないけど、結婚後にずっと不調であったかもしれないわ。それなら教育がなされていないのも理由がつく。ああ、私はそんな娘に暴言をぶつけた酷い女。娘のサッチャーがそんな目に遭っていたら、きっと刺し違えてしまう。でもそうしたらまた、サッチャーが余計に辛い目に…………ああぁ、なんと言う悲劇…………」



実際にリオとリオルナリーは別人だし。

リオルナリーはイッミリーと忍者さながらに走り回っていた。

リオルナリーが6才の始め頃にイッミリーが病で寝つくまでは、教育もバリバリしていたし、10才くらいまでの基本知識も伝授していた。

小屋裏から行う “秘技盗み聞き” を行う胆力も、幼い時から培っている。


リオはリオで、母親のナミビアが侯爵家を追い出されてから、一人で彼女を育ててきたので時間が足りなかった。生家にも縁を切られたので、リオが1才になるまでは持ち物を売って暮らしてきた。その際にジローラムから貰った宝石の類いを売り払い、資金を捻出した。


リオが少し成長してからは、通いでメイド仕事と内職をしていた。生きる為に若かった元子爵令嬢は頑張ったのだ。

だが結果として、寝る前の絵本の読み聞かせはしたが、文字を教えることはしていなかった。そろそろ下町の学校に通わせる年代だったから、習ってから一緒に復習していこうと軽く考えていた。


平民ならそれで十分だったから。




そんな2人なので、アンナが悲観するほど悲惨ではないのだ。




◇◇◇

「お嬢様、歴史の勉強は大切ですよ。だって今この地がどういう成り立ちなのかを知らないと、いざ戦が始まった時どこに逃げたら良いかもわからないでしょ?」


アンナは歴史書をリオに読んで貰い、お手洗いに行くと言って席を立った。本を渋い顔で読み進む表情はとても辛そうだったから、何か良い方法がないかと思案する為に歩いていたのだ。


考えがでないままに部屋へ戻ると、話し声が聞こえた。

本日のリオ付きのメイドと何か話しているようだ。


「戦が始まった時にどこに逃げるか? ですって。

まぁ。そんな見方もあるのですね。フムフム。あのメイドは博学のようです。丁度良いわ、共に学ばせましょう」


そう思い、ノックして入室するアンナ。


「貴女お名前は?」

「ルナ・マンダリンで御座います」


何か失礼があったかと恐縮するも、アンナは話を続ける。


「リオは歴史が苦手のようです。なので貴女も一緒に席についていろいろと思うことを話して、楽しく覚えて貰いましょう。それも使用人の仕事ですわよ。

許可は私からメイド長に致します。アルオ様からは、好きなように教育して良いと任せて頂きましたので大丈夫ですよ」


さすがベテラン、口を挟む隙を与えない勢いだ。


本来リオルナリーが受ける授業なので問題はないはずだが、メイドとしてお金を貰っている身なので、座って良いかと気が引ける。


でもまあ、長いものに巻かれる派(アンナに逆らうのが面倒)なので、よろしくお願いしますとすぐに席に着いたのだ。


メイド長も教師に言われれば納得した。

どの道その時間は、リオルナリーはその部屋から出られないから、リオルナリーの学びになるなら良いとも思ったのだ。そしてアンナの希望で学習の時は、リオルナリーがリオ付きのメイドになることになった。


他のメイド達も、ずっと立ちっぱなしでいるより動いている方が気が楽だと文句も出なかった。

リオルナリーは学習の為に座らされているが、本来はずっと立っている仕事である。


以前まではリオルナリーも、しっかり立って仕えていたのだ。


そう言う訳で歴史や地理の追加話として。

東の隣国ではお茶の生産が盛んで、付け合わせの豆菓子の羊羮が絶品! 船でしか行けないから観光や逃走は難しいとか、

西の国はご飯全般が美味しいけれど、行くまでに山賊が多いとか途中に砂漠があって宿代が馬鹿高いとか、馬がないと無理だとか、主に逃走中心で話が弾む。


アンナも知らないその知識に、「そうなのね、まぁ!」と時々感嘆の声をあげる。


リオルナリーは知らずと、母親から学んだ諜報員としての知識を披露していたのだが、アンナは才女としてリオルナリーを認めていた。


(どうしてこんなに教養のある娘が、侍女でなくメイドなのかしら? やはり生家の影響なのね)と、寂しく思っていたのだ。



ちなみにリオのことは暗黙の了解で『侯爵令嬢だけど使用人棟で暮らしている』と、アンナ以外に思われている。



リオの母親ナミビアは、勘違いだとわかっているのだが、次期当主の考えがわからずそのままにしていた。


と言うか、母子ともに言おう言おうとしても邪魔が入り、もうすぐ1年が経つのだった。


リオルナリーも、たまにニクスに嫌みを言われるリオに申し訳ないと思っているのだが、下町っ子のリオはそこはもうノーダメージだった。最初こそ恐れたものの、手を出して来ないし会うことも少ないから慣れたのだ。


ただただ本物のリオルナリーが教育を受けられないことに罪悪感があるだけだ。



リオはナミビアに、リオルナリーから聞いた周辺国のことを聞いて、逃げるなら南国だと話していた。



南国は、 “綺麗な湖と豊かな大地のある暖かい地” 。

でも入国前に1週間は関所前の町に滞在を促され、申請後の審査があると言う。


諜報員により、他国の諜報員でないか問題のある犯罪者でないかを密かに審査されているのだ。


問題がないと入国でき、入国できなくても関所前の滞在地も住みやすいので滞在する者が多い。


ただし遠いし護衛が必要なので、お金がかかる。

今、母子は有事の為に貯金をしてた。



有事とは勿論、正体がばれることである。



「お母さん、私も頑張って内職するからね」

「ありがとう。でも大丈夫よ、お母さんが頑張るから。給料も高いし、使わないで貯めているからね。贅沢させられなくてごめんね」


ベッドで横になり、リオの頭を撫でるナミビア。

リオはナミビアの胸に頬を埋め、「お母さんがいれば良いの」と答えるのだった。




自分は会ったことはないが、リオルナリー様はお母さんが亡くなってニクスが義母になった可哀想な人だ。


「きっと部屋に閉じ籠って、悲しくて泣いているから姿を見せないんだわ。だから私が身代わりに、アンナ先生に会っているのかも? 元気になってくれると良いけど」


1年でいろいろと学んできたリオは、 “令嬢に教育をさせないことを責められないようなアリバイ作り” で自分が利用されているのでは? と考えることがあった。そうでなければ、いくら何でも1年以上気づかないことはないのではないかと。


リオルナリーに関心がないことで起こったことだが、本当にアルオ達に気づかれていないのだった。



リオルナリーの心配をするリオだが、当人は泣くこともなく図太く生きていた。それもすぐ傍で。


なんなら、時々贈られてくる農家さんからの果物で、お腹パンパンにしているのだった。


メイドのみんなにもお裾分けして、その果物はナミビアにも渡され、リオも恩恵を受けていた。


「若い子がそんなに食べ過ぎたら太るし、お腹も壊すぞ」


そう言うケイシーは、最近体型を気にしているメイド達を敵に回して睨まれた。


「どうも、すみませんね」

「気をつけます!」


「えー、なんでそんな目で見るんだよ。酷い、心配してるのに」


いつも通り、デリカシーのないケイシーなのだった。



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