第八十六話 溶岩潜航
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噴火口の直下、吹き荒れる溶岩の中に眠るアルカナの棺。それを回収する為に、一世達は知恵を引き絞り、意見を出し合う事になった。
「素直にクレーンを設置して回収するのは?」
「いえ、火口周辺は地盤が緩く、いつ崩落するかも分かりません。回収用のクレーンの設置は、あまりお勧めできません」
アルエの意見を、ジョウは真っ向から否定する。その表情は、熱波が吹き荒れる火山の山頂に居るにも関わらず、涼しささえ感じさせた。
シイナが火口周辺を調べたところ、機体が歩くだけでも地面にヒビが入る場所も存在しており、お世辞にもクレーンを運び入れるのに適した場所だとは言い難い。
「じゃあ、オルベイルに絶対障壁を展開して、マグマに潜るっていうのは?」
代案として、一世は自分が火口に下降すると提案した。
確かに、オルベイルのスペックと、正義の棺の絶対障壁ならば、高温高圧環境には耐えられるだろう。
今考えうる案の中では最も成功確率の高いものではある。
だが、それでも問題が一つある。絶対障壁が、一体どれくらい持つのか、という事だ。
いくらそれが汎ゆるモノを拒絶する力とはいえ、無尽蔵に扱える訳ではない。当然、現状で展開可能な時間には制限が存在している。
これは、棺から受け取れるエネルギーに上限が存在している事から発生した欠点でもあった。
棺から生み出されるエネルギーは無尽蔵だが、時間当たりに生産されるエネルギー量は限られている。消費が生産を上回った場合、当然ながらその能力は暫く使用不能となる。
ジョウの見立てでは、絶対障壁は通常環境で三十分展開するのが限度。常に機体に負荷がかかる溶岩流の中では更にリミットは短くなるだろうと見ていた。
果たして、そんな状況でオルベイルの機体が保つのだろうかと思案を巡らせる。
いくら世界の棺の力でどのような環境下でも万全のパフォーマンスを発揮しようと、いくら強力な再生能力を有していようと、回収までの時間を考えると、どうしても地上に戻る前に機体の再生が追いつかないレベルの損傷を受けてしまう事は間違いない。そうなっては、回収する事も難しくなる。
つまり、ここで重要になるのは、如何に絶対障壁を長く持続させ、地上に戻って来れるかの一点。
それをどのように実現するのかを考えるのが、今のジョウの仕事だと言えた。
「問題は如何に長く障壁を展開させるか、ですが、ここは……」
「ここは、俺っちの出番って事でいいんですよね?」
ジョウの言葉を遮り、ネインが手を上げた。
自分の機体の能力をよく弁えていると、ジョウはネインに対する評価を上方修正する。
「そうですね。ストレンガスの能力は、理性と自制を以て、エネルギー効率を格段に向上させる事にあります」
「それって、どういう事?」
首を傾げるアルエに対して、ジョウは説明を行う。
「攻撃や防御の際、余分なエネルギーを使わず、必要最低限の力のみで最大限の効果をもたらす事が出来るという能力です。力の使い方を巧くコントロール出来るようになる能力、とでも言い換えられますが、これによって、長時間の稼働にも耐えられるようになります」
詳しい理屈を省いているとは言え、どうしてそのような事が可能なのか、アルエも一世も、ジョウの説明に理解しかねている様子だった。
「ともあれ! オルベイルとストレンガスを合体させれば、長時間の潜航が可能になる、という事です」
二人の表情を見て、ジョウは苦い顔をしながら結論を述べ、準備をするように勧めた。
「っていうか、溶岩に潜って、熱とか大丈夫なのか?」
「オルベイルとストレンガスの気密は、宇宙空間に出ても維持されます。それに、熱や高圧についても、絶対障壁が遮断する為、問題はありませんよ」
ジョウの太鼓判に、一世は取り敢えずの納得をしながら、オルベイルを臨界形態へと変形させる。
「再結合! ザ・パワー、ジャスティスッ!」
合体コードを叫ぶと同時に、ネインの乗るストレンガスがオルベイルの背部へと被さり、まるで翼を思わせる巨腕へと再構築されていく。
そして、オルベイルの左腕も、同様に再構築が行われ、ガントレットを思わせる増加装甲が取り付けられた様相となる。
一世が左腕をかざすと、身の丈ほどもある戦槌が何処からか構築された。オルベイルがそれを手にすると、遂に準備は整った。
「じゃあ、行くか!」
その言葉と共に、一世とネインはオルベイルと共に、火口から煮え滾る溶岩の中へと沈んでいった。
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溶岩の中、とはいったものの、ジョウの言う通り絶対障壁の存在もあって、潜航自体は苦もなく進んだ。
高熱、高圧環境であっても、アルカニック・ディテクターは何の問題もなく対象となるアルカナの棺の方角を指し示してくれている。
後は、道に迷わなければこちらの物だ。
「……見つけた!」
最悪な視界の中で、黄金に輝く棺状の物体を認識した。否。光を発している、という表現は不適当だろう。なぜなら、光学的に、それは光を放っている訳ではない。アルカナの棺が放つ反応を、アルカニック・ディテクターを介したモニターが光の明滅として表現しているに過ぎない。
それでも、「そこに棺が存在している」という事実に変わりはない。
「そう言えば、イトコに見せられたアニメにこういうシチュエーションがあったな」
そのような事を口にしながら、一世はアルカナの棺を手に入れようとオルベイルの手を伸ばす。
だが、溶岩は常に不規則な流れを作り出しており、棺に手を触れようとするか否かのタイミングで、お互いの位置が大きく変動する。
果たしてそれは、運命の悪戯か。
いいや違う。
それはマグマに潜む乱入者によって引き起こされた必然。
そして、このような環境下で、アルカニック・ギアにアルカナの棺を渡したくない存在と言えば、一つしかいない。
立て続けに、機体を襲う振動。
何が起きたのか。そう思いながら一世はモニターの端に映った乱入者の影を追い、正面に捉える。そして、それが何であるか、理解した。
「アナンタの獣……ッ!」
それは、とてつもなく巨大なアナンタの獣。奇しくもそれは、グラウンド・ゼロでキール皇帝らが遭遇した個体と同型のモノだった。
蛇龍型のアナンタの獣は、マグマの中をまるで水中と同じように泳ぎながら、オルベイルへと突撃を仕掛ける。
「何のッ!」
ネインが機転を利かせ、巨腕でその一撃を受け止めた。
絶対障壁の力によって、オルベイルに一切のダメージは及んでいない。
しかし、地に足を着いていない状態では、突撃の勢いは殺せず、アナンタの獣と一緒にマグマを遊泳する事になる。加えて、高圧環境下では戦槌以外の武器は使えない。
ましてや、正義の棺の力を使った所で、アナンタの獣に罪の意識を問うことなど、出来やしない。
何か打開策は無いかと、一世は戦槌を蛇龍の頭に打ち付けながらも考える。
敵は、アルカナの棺から離れており、オルベイルの妨害を行う事が目的であるのは明白だ。
このままでは、棺の回収も、地上への帰還もままならなくなるだろう。
時間の消費だけは、避けなければならない。そう思いながら、一世はネインに蛇龍から手を離すよう伝える。
そして、手を離した瞬間を見計らい、槌の一撃を敵に喰らわせ、その反動を利用して一気にアルカナの棺との距離を詰める。
一世の頬を、一筋の汗が伝った。




