第八十五話 クレジ山
○
クレジ山へと向かう途中、一世達は野盗の襲撃を受ける事になった。
襲いかかるのはメンテナンスも禄に行っていない、ジャンク同然のスートアーマーが八機。ワステュルジでは、このようなスートアーマーを用いた野盗がごまんと居るらしい。
ましてや、他に見ない機体が群れを成しているとなれば、彼らが一世達を襲撃する理由としては十分すぎるモノを備えている。
だが、その程度の敵は、アルカニック・ギアの性質を理解した今の一世達にとって、最早脅威にすらならない。
それは、数的優位があろうとも、決して覆ることの無い、絶対的格差と言ってもよかった。
「なあ、あんたの予知は、こういうトラブルだって回避出来るんじゃないのか?」
敵の攻撃を回避しつつ、一世はジョウに問う。敵の動きはそう速くはなく、余裕たっぷりな様子で会話を繰り広げている。
「私は安全な道を選んでいる訳ではありません。比較的脅威度が低く、迅速に目的を達せられる道を選んでいるに過ぎませんので」
一世にそのように説明しながら、ジョウは自らの乗るトリニティアのレイ・テクニカを発動させ、野盗のスートアーマーに放つ。
それを受けた敵スートアーマーは、四肢から炎を吹き出し、その炎と熱によって駆動部を完膚なきまでに破壊された、沈黙した。
「それに、複数の未来予測の中で避けられない展開もあります。今回の戦闘もその一つでして、被害が微々たる物になるなら、別に避けなくてもいいかな、と」
「そういうもんなのか、ねッ!」
一世はジョウの言葉を話半分に聞き流しつつ、ガトリング砲の銃爪を引いた。光の弾丸が、敵機の脚を撃ち抜く。
無力化された機体のパイロット達は、それまで乗っていた機体が動けなくなったと判断すると、手早く機体を捨て、さっさとその場から逃げ出した。
恐らくは愛機と呼ぶほど、彼らにはこの機体に対する執着は無いのだろう。
アルエも、セカンド・ザディスの扱いを心得てきたらしく、棺の力を使う事なく鎌の柄で相手の足をもつれさせ、隙を作らせると、その首を鎌で切り落とした。無論、コクピットには傷一つ付けていない。
「お見事」
ジョウが、その腕前を拍手とともに称える。
しかし、アルエはまだまだだと言って、自分の操縦技術の未熟さを主張した。
「アニキ達、お喋りに興じるのはいいんですけど、その前にやる事は済ませましょうよ?」
迫りくるスートアーマー二機を、ストレンガスの巨腕で抑え込みながら、ネインは言う。
アナンタの獣に対して有効打足りうる光の杭は、人の乗るスートアーマーにとっては強力過ぎる武器であり、ネインはストレンガスの力を完全に引き出せずにいるのだ。
「それは理解している」
そう言って、シイナのエクリプスが、ネインの抑え込んでいた二機を、二振りの太刀と頭部のブレードを巧みに使い「解体」した。
先程までシイナが戦っていた相手は、既にスクラップの山と化している。
「こ、こいつら一体何なんだ?!」
この野盗のリーダーと思われる機体から、素っ頓狂な声が聞こえてくる。
自身の力量を見誤ったとも知らず、彼らの頭脳は最早混乱の只中だ。
「があああ!!」
リーダー格の機体とは別の一機が、パニック状態に陥ったかのような叫び声を上げながら、オルベイルへと斧を振るい突撃を仕掛けた。
しかし、一世は冷静に斧の軌道を見極め、オルベイルの右手甲からブレードを抜き放ち、斧の振るわれる先にその刃を置いた。
するとどうだ。斧はブレードの細い刀身に押し負けるように、その刃を真っ二つに折られたではないか。
「これが、機体性能の差って奴かな」
そう言って、一世は眼前の敵の四肢を斬り落とす。
残りの敵は、その戦いぶりに恐れ慄いたのか、気が付いたら武器を捨て、その場から姿を消していた。
○
戦闘を終えると、一世すぐにその場から離れた。
ワステュルジには、通称「ハイエナ」と呼ばれる、戦場跡に放置された機体から使えそうなパーツを抜き取って転売する輩がいる。
彼らは、戦闘が行われれば何処からともなくそれを嗅ぎ付け、その日の内には破壊された機体を捌いていく。
ジョウは、ハイエナらと出くわしたらそれはそれで面倒な事になると予測していた。
その予測では、アルカニック・ギアを見たハイエナの一団は、一世達の事を用心棒として雇うであろうと出ていた。当然、そのような事をしていたらクレジ山へ向かうまでの時間も、手間余計に掛かってしまう事になる。
一世も、今は限られた時間を無駄にしたくはないという意味で、ジョウと目的は合致しており、大人しく彼の指示に従う事にした。
「なあ、ちょっといいか?」
「何でしょうか?」
二日目の夜。一世はジョウに昨晩の夢の事を打ち明けた。
「……夢というのは、体験した記憶を整理するモノなのですが、それはもしかしたらオルベイルから流れ込んで来た、人造神の記憶なのかもしれませんね」
「そんな事がありえるのか?」
「人格の変化は、前例がありますしね」
ジョウは一世にそう告げると、意味深に星空を見上げた。
○
翌日。
野盗やハイエナを避けつつ、幾つもの山や谷を越え、一行は遂に目的地に到着した。
「ここが……」
「ええ、クレジ山です」
聳える山を見上げながら、一世とアルエは思わずため息を洩らした。
絶え間なく噴煙を上げているそれが活火山であるという事を、彼らは直感で理解する。
典型的な火山地質。軽石や砂で覆われた山肌など、一世やアルエにとっては、馴染みのあるモノがあった。
「火山ってのは、どの世界も同じようなもんなんだな」
ふと、一世はそんな事を呟く。
高校のオリエンテーションの一環で実施した富士登山。
……と言っても、頂上ではなく宝永山までだが、その情景が脳裏に蘇ってくる。
だが、ここは富士山のような休火山ではなく、れっきとした活火山だ。
この山の何処かに、アルカナの棺が眠っている。
それを、火山の噴火する前に見つけ出す事が出来るだろうか。
一世やネインの脳裏に、ふとそのような不安が過ぎる。
だが、やるしかない。その為に、キール皇帝からアルカニック・ディテクターを譲り受けたのだから。
「でも、こんな活火山の中で、アルカナの棺って残ってるのかな?」
手分けをして棺の捜索を行う中で、アルエが胸中にしまっていた不安を口にする。
「いえいえ、アルカナの棺はたとえ溶岩の高温に晒されようとも、深海の高圧に潰されようとも、その形態を保っている、そのように出来ているのですよ」
ジョウが、またしても饒舌に語る。アルエは「そんなもんなのかな」と、話半分に返すが、それでも口を止める事はしない。どころか、どんどんと口を動かすスピードが速くなっていく。
「アルカナの棺とは、そもそも、嘗ての人造神の機能が分割された物です。それ自体が今のテクノロジーでは解明出来ない技術の産物であると言っても過言ではありません。決して経年劣化を引き起こさず、また必要に応じて形質を変化させる。時として事象の変換や予測も行うそれは、単なるジェネレーターの粋を超えていると言ってもいい」
「口を動かすのもいいけどな、お宝の反応が、近いらしいぞ」
ジョウの熱弁を、一世が遮る。オルベイルのアルカニック・ディテクターに、反応が見られたのだ。
それを合図とばかりに、ジョウ、アルエ、シイナ、ネインは一世の所まで駆け寄ってきた。
だが、一世が指した方角は、予想外の場所だった。
それは今も溶岩が渦巻き、噴煙が立ち込める、クレジ山の山頂。
この山で、今最も危険な場所に、アルカナの棺が眠っているというのだ。
これを引き上げるのは、一筋縄では行かないだろうと、一世は頭を抱えた。




