第七十三話 世と帝
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悪魔、法皇、女教皇、戦車の棺を支配結合したアルカニック・インペリアルが、同じく力、正義、塔、死神、月の棺と再結合したオルベイルへと迫る。
帝国府の頂に陣取るオルベイルの存在を、皇帝はさぞ不快に思っている事だろう。
しかし、当のオルベイルに乗る者達には、そのような意図など一切無い。
単純に、奪われた物を取り返した。それに対する満足感を、皆で共有しあっていた。
「やったね、一世」
「ごめん、みんな。心配かけた」
アルエの言葉に、一世は短くそう返す。もう、彼の心に迷いはない。
「兄貴、敵の大将が来ます!」
ネインが、皇帝機の接近を一世に報せる。
「分かっているさ、やるぞッ!」
「OKッ!」
「やってやるってんですよ」
「……分かった」
一世の言葉に皆がそう返し、それに呼応するかのようにオルベイルは唸り声を上げると、手にした武器を前方に展開した。
突き出したのは、セカンド・ザディスの鎌。当然、アルエはそれをどうするのかと聞いてくる。
「ちょっと、どうするつもり!?」
「死の概念を与えられるのは、何も生物のみに限らないッ!」
そう言って一世が鎌を振るうと、アルカニック・インペリアルの速度が死んだ。
死神の鎌が皇帝機の発生させた推進力を殺し、奪ったのだ。
物理法則すらも一時的に書き換え、そこに「死」を挿し込む力。その気になれば、局所的なビッグ・クランチすら起こす事も出来るだろう。だが、一世はそれを誰かを殺す事に使う事はしない。
「えっ、何それ……怖っ……」
「この能力、割とトンチだよなッ!」
飛翔する力を失った皇帝機は、そのまま重力に囚われて地表へと誘われ、オルベイルはそれを追撃する。
だが、殺したのは一時的に生じた推進力のみであり、それを生み出す機関を破壊した訳ではない。皇帝機はすぐに再度飛翔し、地表への激突を避け、追撃を仕掛けたオルベイルへと白銀の槍を向けた。
対する一世は槍の穂先に槌をぶつけ、その軌道を逸らす。
純粋な手数では、腕が四本あるオルベイルの方が有利だ。だが、管制能力の高さからくる攻撃の正確さは、アルカニック・インペリアルの方に分があるように見えた。
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「う、うわぁぁッ!」
「た、助け……!」
二体のアルカニック・ギアが空中で激突する最中、地上で戦うブリグマンの何機かが、アナンタの獣の蹂躙を受ける。
このままでは、折角優位に立った戦況が再び押し返されかねない。
「……!」
それを見て、オルベイルは空中から地上に向けて鎌を振るう。
すると、最早腕を動かす事も出来ないにブリグマン集るアナンタの獣達が、塵芥となって消滅した。
しかし、アナンタの獣の下にいたブリグマン、そのパイロットには傷一つ無い。
「敵を助けるだと?」
キール皇帝が訝しむ。
それは、何処までも伸ばし続けられる手を、差し伸べ続けるという一世の覚悟の現れだ。それが、今は敵の兵士であっても。
「なるほど。お前の覚悟、見せてもらった」
槍を掲げ、皇帝がオルベイルに礼を告げる。
「だが、私はお前を倒さなければならないッ!」
アルカニック・インペリアルの槍とオルベイルの太刀がぶつかり合い、火花が散る。
皇帝機の背負ったイヴルの翼から鎖が飛び出し、オルベイルの機体に絡みついてその動きを封じにかかる。
「縛ッ!」
皇帝機が左手をかざすと、オルベイルの四肢に絡みついた鎖がその拘束を強める。
「帝国の仇敵、ここで討つッ!」
一撃の全てを、銀の槍に込め、キール皇帝がオルベイルへと突撃する。しかし。
「兄貴を、やらせるかよッ!」
力の棺のを司るストレンガスの巨腕から、圧倒的なエネルギーが放出される。
それは、まるで皇帝機の行く手を阻む壁のよう。
否。それは正義の棺の絶対障壁。その何者をも阻む壁を、力の棺の能力で増幅させているのだ。
「だいたい、兄貴は帝国とギルドの戦争を止めたいだけで、あんたらとやり合うつもりは無いんだよ!」
ストレンガスを操る少年が、オルベイルを操る一世の意見を代弁した。
ギルドとの戦争が近い事は、キール皇帝もまた承知している。
そもそも、この両者はお互いを敵と認識しながら、利害の一致を理由にこれまで共生関係を築いて来たのだ。
将来的な開戦は避けられない。その認識が、両者に深く根付いているくらいに、この二つのコミュニティは歴史を重ね過ぎてしまったのだ。
「どの道、戦争は避けては通れないモノだ」
キール皇帝はネインにそう言って返し、絶対障壁の一点突破を図る。
攻撃に用いるエネルギーの全てを槍の穂先に集中させ、如何なるものをも阻む壁を突破した。
だが、それ故にオルベイルへの拘束も緩くなったのも、また事実。
障壁の中和に集中している隙を突き、一世は障壁が破られると同時に鎖を引き千切ってその場から脱した。
「ネインの言った通り、俺はあんたらと争うつもりは無い!」
「世迷い言ッ!」
太刀と槍が、再度ぶつかり合う。
「貴様は導師ジョウの手先であろう。それを信用する事など、出来るものか!」
皇帝の主張と共にアルカニック・インペリアルは出力を上げ、オルベイルの太刀を押し戻す。
「確かに、俺はあの男に利用されるだけ利用されて来たよ。ここにいるシイナだって、あの男の腹心さ」
「やはりな……」
キール皇帝の声に、失望の色が見えた。
「けどな、俺はもう決めたんだよ。破局が定められたこの世界を救うって!」
オルベイルの出力が増す。臨界状態のオルベイルのアルカナの棺、そしてオルベイルに再結合している全ての棺は、ストレンガスの力の棺によってその出力を増幅され、能力を飛躍的に向上させていた。
「そのような事、出来るものかッ!」
キール皇帝が反論する。ドゥクス・アナンタの復活が近い事は、彼も知っていた。
「世界はどうしても滅ぶ。だからこそ、世界が破壊尽くされようともこの国を守る為に様々な手段を講じて来たのだ……ッ!」
キール皇帝はそう言って、帝都から伸びる鉄道網に視線を移す。彼は、鉄道網の整備を表向きの理由として、国を包む電磁フィールド発生装置敷設を進めて来た。
「戦争で余剰人口を減らし、そして破壊神の災厄から残った人々を救済する……これしか、我々が生き残る方法は、無いッ!」
「だったら、そんな計画なんか、棄てちまえッ!」
一世が叫んだ。
オルベイルに溜め込まれた膨大なエネルギーが、左拳に集約していくのを、教皇の棺が感じ取る。
「無理だと諦めて生き残った人間だけ救済しようとするな、だったら、救えるだろう命に手を差し伸べ続けろよ!」
「そんな事、出来るものかと言っているッ!」
「だから、俺がやってみせるさッ!」
「……ッ!」
一世のその一言に、キール皇帝の動きが、一瞬だけ止まった。
当人がそこまでしてやると言っているのなら、この男に託すのもまた、一つの手ではないか。
そのような思考が、頭を過る。
「いいだろう。その言葉に嘘偽りが無いのであれば、成し遂げて見せろッ!」
キール皇帝がそう言い終わるのと同時に、オルベイルの拳が、アルカニック・インペリアルの頭に打ち付けられ、その豪奢な装飾の頭部を粉砕した。
コントロールを失った皇帝機は、そのまま雪原に落下し、その身は雪の中へと埋もれた。




