第五十九話 再び、四人に
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ドゥクス・アナンタ。
ジョウと機甲ギルドが打倒するべき本来にして最後の敵の名前を耳にして、一世達は思わず息を呑んだ。
一世も、以前ジョウからその存在を聞かされていたものの、改めてその立ち向かうべき存在の途方のなさに、頭を抱える。
一体一体が、常識を覆すような能力を持つアナンタの使徒。その上位存在と遠からず戦う事になるのは、他ならぬ一世自身なのだ、無理もない。
「私達は何としても、ドゥクス・アナンタの復活よりも先に全てのアルカナの棺を揃えなくてはならないのです」
ギルドマスターが、頭を下げる。
しかし、ザリアーナは納得いかない表情で、彼女の顔を見る。
「それは理解しています。しかし、スヴェントヴィトとは平和的に、棺を譲渡して貰う等の手段を講じるべきではないのですか?」
「本来の理屈なら、そうなるでしょう。しかし、それを行うには、我々は歴史としがらみを重ね過ぎました」
「それに、残された時間も、そう長くは無いんですよ、ザリアーナ博士」
ギルドマスターの弁明に続き、ジョウが口を開く。
「残された時間だと?」
「はい。このまま現状を維持したままでは、あと五年も経たずに、この世界は滅びます」
ジョウの言葉は、その場に居た全員を驚愕させるには、十分過ぎる威力を有していた。
そして、それ故に彼らは立ち上がるしかなかったのだのだと、一世達に理解させた。
「スヴェントヴィトに棺を渡すのはどうだ? それならば、まだ穏便に事を済ます事が出来る」
一世がそれとなく意見を出す。しかし、ジョウは冷静にそれを突っぱねた。
「残念ながら、帝国の人間はアルカナの棺を利権関係に組み込んでしまっています。棺を渡しても、それをオルベイルへ一極集中させる事は、まずあり得ません」
「スヴェントヴィトは過去にオルベイルの暴走を目の当たりにして以来、力の一極集中を避ける傾向にあります。歴代の皇帝も、保有している棺は筆頭騎士団に平等に分配した上で、管理する姿勢を徹底していますからね」
ジョウの解説に、今度はギルドマスターが補足を入れる。
長くそれを慣例化させて来たのであれば、それを覆すのは容易な事では無い。ならば、力尽くで帝国から奪うのが手っ取り早い。
乱暴かもしれないが、ジョウとギルドマスターはそれが正しいのだと考えている。
しかし一世達は、その意見に賛同しきれていない。
スヴェントヴィトとの間に戦争を起こす事で、自分達が世界に弓引く存在となるかもしれないのだ。
それが、ジョウ達に対する不信感へと変換され、表出していく。
「納得できませんよ!」
暫しの沈黙を破り、ハッキリとジョウ達に異を唱えたのは、ネインだった。
彼は、戦争の被害者としての立場から、自分達のような人間をこれ以上増える事に辟易してきた。
ゾリャー大陸は、ノヴァよりも豊かな土地だ。それ故に、ネインはそこに住む人々に羨望の眼差しを向ける事もあった。
だからと言って彼らに自分達と同じようになって欲しいなどという、安直な考えを抱く程、ネインという男は愚かでは無い。
しかし、今の彼に、ジョウを唸らせるだけの妙案がある訳でもない。
平行線。
このまま時間を重ねても、ドゥクス・アナンタが復活までの限られた時間をただ浪費してしまうだけだ。
ならば、この場は一度解散した方がいいだろうというギルドマスターの提案もあり、一世達はその重々しい空気から開放される事になった。
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「とにかく、何か打開策を打ち出さないと、ギルドは間違いなく戦争を始める」
「それを避けたいのは、私も同じだよ」
頭を抱える一世に、アルエは寄り添う。
二人は、無駄な流血を避けるべきという、ネインの熱意を、然と胸に受け止めていた。
「試していない事が、一つある」
「それって、何さ」
「スヴェントヴィトの皇帝を説得する。力と力をぶつけるんじゃなくて、事情を話して、アルカナの棺を借り受けるんだ」
先の会談で、ジョウはその選択肢を口にしなかった。恐らく、失敗する確率が最も高いからだろう。
「あの人の言っていた事を、疑っているの?」
「いや、ある面では、あいつの言っている事は事実だろう。……だけど」
一世は、ジョウの持つ力の強大さを理解していた。だが、それを完全な形で使いこなしているのか、疑問を抱かずにはいられなかった。
何せ、あの男の乗るトリニティアの棺は、無理な合一によって本来の八割程度しか力を発揮出来ずにいる。
そこから来る小さな誤差が、積もり積もって大きな誤算を生んでいるかもしれない。
「ジョウの未来予測には、ノイズが多いんだ。だから、これまで所々でしか、俺に助言を与えて来なかった」
「あいつの手の内、そこまで知り尽くしているんだ」
「べらべらと喋ってくれたからな。それに……」
「それに?」
「データや絶対的な予測を過信している奴は、予想以上の事には弱いもんだって、イトコに見せてもらったアニメで言ってたしな」
一世の言葉に、アルエ思わず笑みを浮かべた。
そこでアニメのお約束を出すのは、どうやら格好悪いのだと、一世は心に刻んでおく事にした。
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その日の夜、一世とアルエは早速行動に出た。
ザリアーナとネインには、敢えて自分達が何をするのかを伝えてはいない。二人ににあらぬ疑いがかかる事を避ける為だ。
「行けるよな。ここから、少し歩く事になるぞ?」
「もちろん。体力には、自信あるからね」
短い会話を終え、一世とアルエはバウンドの拠点から抜け出した。
オルベイルは持ち出せば確実に騒ぎになる。だからこそ、いつぞやの様に遠隔から呼び出す事にした。
使う機会は無かったものの、やり方は身体が覚えている。
街を抜け出し、夜の内に国境線付近まで辿り着く。
緩衝地帯とばかりにそこから先にはアナンタテリトリーが広がっている。ペラウンの国境線を跨いでテリトリーがこれ以上浸食して来る様子は見受けられない。
地表部分は国境線に沿って張られた電磁フィールドによって、アナンタの獣がテリトリーから出てくる事を防いでいる。また、奇跡の水……ナノマシンが土壌に浸透しているからだろうか、地下からアナンタ因子が漏れ出す事もなかった。
だが、二人は土壌調査の為にここまで来たのではない。
「じゃあ、行くぞ」
「ん、オッケー」
一世は瞳を閉じて、オルベイルの存在を強くイメージする。
機体の外観を。コクピットの内装を。そして内に秘めたアルカナの棺を。
ここに呼び出せと、強く念じた。
「……来いッ!」
両腕を前方に掲げ瞳を見開くと、眩い光と共に、オルベイルの姿が、眼前に出現した。
ここから先は、もう後には引けない。
そう覚悟した上で、一世とアルエはオルベイルへと乗り込む。
しかし。
「二人共、遅かったわね」
国境線を越えようとした時、エアルフがその場に姿を現した。
「言った筈だよ。私は私の想い人に会いに行くつもりだって」
一世は、彼女が自分達と同行する事を決めた時の言葉を思い出す。そう、彼女にも帰郷しなければならない理由があるのだ。
「もちろん、俺っちも一緒ですよ!」
エアルフのコクピットで、サブシートに座るネインが声を上げた。
また、この四人で旅をするのかと、感慨に浸りつつ、一世は「分かったよ」と告げると、オルベイルで国境線を越えた。




