第五十八話 ギルドマスター
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一世達は、戦闘の事後処理を終えた機甲ギルドの部隊と共に、機甲ギルドの拠点へと向かっていた。
メアリが言うには、そこにはギルドの総括責任者……つまりは組織の長であるギルドマスターが待っているという。
「機甲ギルドの総元締めであるギルドマスターは、あなた達との会談を望んでいます」
組織のトップとの会談。そのワードから、一世は自分の置かれている状況が、どんどん大きくなって来ている事を改めて実感させられた。
輸送用の大型トレーラーにオルベイルが収められ、準備が整い次第出立する。
向かうは帝国との国境に設立された要塞都市バウンドだ。
そこは、かつて反帝国主義者達がスヴェントヴィトからの進行に備えて作り上げた、ペラウン唯一の武装都市。
だが、長きに渡る平穏によって、その二つ名はもはや過去の物になって久しい。都市の外周部はペラウンの植物達に覆われており、かつては機能していたであろう城壁は一部が崩れ、砲台には錆が浮かび上がり駆動部に蔦が入り込むなど、最早その設備の大半が意味を成さなくなっていた。
とは言え、機能を喪失しているのは要塞としての側面のみであり、都市としての機能は維持され続けている。むしろ、現在ではこちらの方がメインになって拡張されていると言っても良かった。
また、格納庫郡も機能は喪失しておらず、国境付近のアナンタテリトリーを監視するペラウン軍の部隊が、そこに駐留している。
「樹海に沈んだ要塞と、その中で自然と共存するように存続する都市、か」
アンバランスな発展を遂げたバウンドの街並みを見ながら、一世はそう表現した。
だが、要塞都市の中に聳える一際高い塔は、明らかに植物の進入を阻むように、その周囲の環境が整えられているように見える。
「あれは……」
「あそこが、機甲ギルドの拠点です」
メアリが言う。
トレーラーはそのまま森を突き抜け、拠点のメインゲートをくぐり抜けた。
「何か、色々変わったよね、メアリ。落ち着いたっていうか、大人っぽくなったっていうか、さ?」
座席に座るアルエが、メアリにそう告げた。
「こっちに来てから長いからね。そっちも、シイナも大人しくなったけど、アルエは全然変わらないね」
メアリは笑顔でそう返す。
「それって、私が成長してないって事?」
「まあ、そこまでは言っていないかな〜」
メアリの小悪魔めいた笑みに、アルエは頬を膨らませる。対して、シイナは二人の間に立つ事はせず、到着するなりトレーラーから下車した。
「やっぱり、私だけが変わらないのかな……」
アルエは、メアリとシイナが元の世界に居た頃から様変わりしてしまった事に、何処か疎外感のような物を感じる。
二人は曲がりなりにもこの世界に適応しているが、自分はそうではない。むしろ、この世界の驚異に晒される被害者のように自分を捉えている節があった。
次から次へと襲い来る驚異。それに怯える子供。
そう、アルエは自分の事を、未だに大人になれない「子供」であると規定していた。
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塔の中は、スタッフが忙しなく動き回り、常に活気で満ち溢れていた。
スートアーマーの部品管理から、物資の流通状況。様々な情報がここに集められ、処理され、整理され、そしてそれに応じた対応が行われている。
一世達は、塔の中層に位置する応接室へと通された。部屋の壁には、歴史を感じさせる壁画が描かれており、この建物の古さを如実に物語っていた。
オルベイルやエアルフは、下層部の格納庫で調査と整備が行われるという。
「そろそろ機体のオーバーホールが必要だと思っていたから、ありがたいなぁ」
ザリアーナはそう言って、機体の整備を甘んじて受け入れた。
一行の機体の中で、唯一のスートアーマーであるだけに、メンテナンスフリーでないエアルフが足を引っ張っている事を、ザリアーナは自覚していたのだ。
戦闘を経ずとも、機械の駆動部分は稼働の度に損耗していく。そういった疲弊も自動的に回復するアルカニック・ギアとは違い、スートアーマーはそこから発する不具合を防ぐ為にこまめなメンテナンスを必要とする。
特に、レイ・テクニカはジャスティシア戦の後で不調気味だった。アルエが乱発し過ぎて、システムがオーバーロードしたらしい。
アルエは貴重な戦力を削ぐような事をして、申し訳ないような顔をザリアーナに向ける。だが、ザリアーナはこう言って彼女を慰めた。
「仕方ないよ。機械っていうのは、いつかは壊れて然るべきなんだ」
応接室で暫く待っていると、初老の女性が入ってくる。
如何にも威厳を備えている堀の深い顔立ちと、そこから発せられる表情から、彼女がそれ相応の立場に居る人物であると、一世達はすぐに理解した。
「ようこそ、逆井一世さん。そして導師ジョウ……」
「お久しぶりですね、ギルドマスター」
まるで昔馴染みと顔合わせするように、ジョウはギルドマスターと呼ばれた女性ににこやかな笑みを向けた。
二人が顔馴染みであるという事を察し、一世とアルエはジョウから一歩引いた立ち位置で二人の会話を見守った。
「まさか私の代で、あなたの言葉が的中する事になるとは思いもよりませんでした。しかし、スヴェントヴィトの動きはあなたの予測通り」
「オルベイル……世界の棺が予想外の覚醒を遂げた事が、私達にとって唯一の誤算でしたからね」
そう、二人は最初から通じており、ギルドマスターもまたジョウの計画に参画していたのだ。
当然、それを知って驚きの表情を露わにする人物が一人。
「待って下さい、この男と結託していたという事は、ギルドは帝国に対して反抗の意志がある、という事ですか!?」
ザリアーナが立ち上がり、ギルドマスターに意見する。だが、ギルドマスターはまるでそこに介在する怒りを見据えたかのように「その通りですが」と返す。
その一言を耳にして、ザリアーナは冷静さを取り戻した。機甲ギルドとは、元来そういう物なのだ。
スヴェントヴィト帝国初代皇帝が、反スヴェントヴィト勢力を利用して帝国の武力を外部から監視させる為に作らせた外部安全装置。
その安全装置としての機能が、ジョウによって侵されているのだと、ザリアーナは理解し、二人に敵意を向けた。
「そういえば、あなたにはまだ私達の目的を教えていませんでしたね……スヴェントヴィトとの敵対は、目的を達成する為の手段でしかない」
ジョウはそう言って、子供に語りかけるようにザリアーナに説明を始める。
スヴェントヴィトの保有するアルカナの棺を手中に納め、未発見の棺も回収し、そしてそれをオルベイルへと集約させる。それが、ジョウとギルドマスターの掲げる共通の目的だ。
「一世……君も、この男の目的を、知っていたのか?」
「ああ、つい最近、聞かされたけどな」
一世もまた、ジョウの目的について理解を示している事に、ザリアーナは膝から崩れ落ちるような感覚を味わった。
一方で、一世はギルドからの支援を受けられる事を知り、何処か安堵した様子だ。それもそうだろう。何せゾリャー大陸に来てから、戦っては逃げてを繰り返す事になったのだ。そんな状況下で、明確な後ろ盾を得られた事が、どんなに嬉しい事か。
「そして私達は、私達の引き起こす戦乱を納め、その上で本当に戦うべき敵と、戦わねばなりません」
ギルドマスターが、応接室に掲げられた壁画へと視線を向ける。そこには、白い翼と八本の腕を備えた異形の存在に立ち向かう、翼を備えた甲冑の騎士の姿が描かれていた。一世は、この騎士が人造の神、アルカニック・ギアの本来の姿の具象化である事を察する。
そして、ギルドマスターは前者を指差し、口を開く。
「ドゥクス・アナンタ。アナンタの獣達を統べる王。それこそが、この世界に住む我々が打倒するべき、最後の敵です」




