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天上のオルベイル -Arcanx Gear Altwelt-  作者: [LEC1EN]
六 新大陸

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47/111

第四十七話 因縁

○

 今から遡る事三年前。

 ある一人の男が、スヴェントヴィト帝国の古代遺跡解析組織……パンドラ機関の門を叩いた。

 その男の名前は、本庄孝介。

 彼は別の世界からこの地に誘われ、持ち得ていた知識もあってスヴェントヴィトの考古学に対して興味を抱いた事から帝国の籍を手に入れ、パンドラに身を寄せた。

 そこで本庄は、当時アルカナの棺の研究を行っていたザリアーナと、その共同研究者である騎士の一人と出会う。

 パンドラでは、事業の一つとして研究対象として聖封騎士団から空位になった棺を借り受け、その性能探求を続けていた。

 ザリアーナの研究チームに属する事になった本庄は、そこで空位になっていた隠者のアルカナの棺の解析を行う事になる。

 隠者の棺はここ百年近く適合する者がおらず、長い間研究材料として用いられていた。だが、研究中に何気なくその棺に触れた事が、本庄の人生を大きく変えた。

 それは、ほんの些細な切っ掛けにすぎなかっただろう。だが、頭に直接叩きつけられる情報の意味を知った時、その瞬間から本庄孝介は、導師ジョウとなったのだ。

 スヴェントヴィトでは、棺に適合したと確認された瞬間から、その人間は騎士として取り立てられる。しかし、ジョウは棺に適合した事を隠し続けた。

 それを知られる事は即ち、垣間見た未来に影響を与えてしまうからだ。

 隠者の棺は、ジョウに常に未来予測の情報を与え続けた。研究に没頭している間も、寝ている間も。

 ジョウはそれに抗わずに真正面から受け止め、行動に反映させる事で、次第に組織の中で頭角を現すようになっていった。

 誰が言い出したのかまでは分からないが、導師という二つ名を得たのもこの頃からだ。

 この研究で得られた技術はスヴェントヴィトの技術力を躍進させ、国民の生活水準は向上し、軍の主力スートアーマーの性能も大幅に強化されるなど、彼の行いは確かにその二つ名に相応しいものであった。

 そして、それから三年の月日が流れた時、彼は遂に行動を起こした。


○

 一世(かずや)とアルエは、ザリアーナとジョウの二人を共闘させるべく、まずは二人を向き合わせる事から始める事にした。

 その為には、まずザリアーナにジョウの側の事情を説明し、そしてザリアーナの事情をジョウに話す必要がある。


「長い目で見た場合、ジョウのやっている事は正しいのは理解できる。けれども、それはそれとしてやる事が性急が過ぎる。その上で築き上げられる犠牲の山に、まるで興味を示していない」


 ザリアーナの主張に、一世は「確かに」と頷く事しか出来ない。


「意外だね。ジョウの指示で動いていた君が、私の意見を聞き入れるなんて」

「まあ、これまで裏から干渉されて来たんで。ザーズの一件とか、正面切って怒りを顕にしたくらいだし」

「やはり、あの件はそれだけの被害が出ると知りながら放置していたんだね」

「今後、そういった事をするなら協力はしないって言ってやりましたよ。口約束だから、どこまで通用するかは知りませんけど」

「いや、その約束の記録は、確実にあの男の機体に蓄積されているよ」


 そう言ってザリアーナはエアルフの肩に乗りながら、空虚に浮かぶトリニティアを見上げた。

 この空間の中で、上下という概念は存在しない。そこが床であれば床と認知でき、天井であればそう捉えられる。

 曖昧だが、それ故に自由な世界が、この閉鎖空間なのだ。


「そもそも、トリニティアのアルカナの棺って、何なんですか。まるで幾つも能力を持っているように見えるんですけど」

「隠者、魔術師、そして吊るされた男。エクリプスの月の棺と共に、あの男……ジョウが帝国から持ち出した物だ」


 三つの棺の力を同時に扱える機体。確かにそれは強力だと、一世は考えた。


「とは言え、三機を無理矢理結合しているからこそ、粗も多い筈だよ。本来、棺を再統合出来るアルカニック・ギアの存在は限られているからね」


 ザリアーナの言葉から、一世は再結合がオルベイルに与えられた特権であることを悟る。


「その通りですよ」


 ジョウがトリニティアのコクピットから飛び出し、一世とザリアーナの前に着地した。


「私の機体が扱う能力は、スタンドアロンで扱った時よりも劣化しています」

「それ、教えていいもんなのか?」


 一世は、すらすらと自分の弱点を教えるジョウの態度に、思わず疑問を口に出してしまう。


「問題は無いです。どちらにしても、三つの力を併合して使える事に、大きな意味が生まれるのですからね……それよりもザリアーナ博士」


 話題を切り替えるように、ジョウはザリアーナの方へと向き直り、再び言葉を紡ぎ出す。


「あなた、いつまで死神の棺を秘匿しているつもりですか?」

「……ッ!」


 ジョウに指摘され、ザリアーナは顔色を変えながら目を背ける。

 そう、赤カモメ号の甲板でアルエと共にザディスから排出され、そのまま姿を消した死神の棺。それを、ザリアーナがエアルフに隠していたのだ。

 一世も、あの戦いでアルエの心配が先に立ち、棺の行方についてはの詮索をする余裕は無かった。それが、ザリアーナが有利に立ち回る隙を生む事になったのだ。


「形勢逆転、という訳か」


 そう言って、ザリアーナはエアルフのジェネレーターブロックを開放する。

 ジョウの言った通り、そこにはアルカナの棺が確かに存在していた。

 当然、そこには「何故」という疑問が浮かんでくる。

 刺さるような一同からの視線に、ザリアーナは諦めたかのような表情を浮かべ、大きく息を吐いた後、全てを白状した。


「三年前、そこの男(ジョウ)が棺を奪って逃走する時、私の恋人……ジェドがそれを止める為にアルカナの棺の力を引き出したのさ」


 そう言って、ジョウの方をちらと見やる……というよりも、睨みつけた。ジョウも、その事を否定せずに笑みを絶やさない。


「全ての力を開放したアルカナの棺は、使用者の精神に影響を及ぼす。ジェドも、その影響を全て受けて……」


 一世は、ネビュリアでオルベイルを整備した時のザリアーナの会話を思い出す。

 あの時はそれが彼女の恋人の話であった事など、想定すらしていなかっただけに、いざ真実を知れば、そのショックは大きいものだ。


「そう、彼は深い、深い眠りにつきました」

「一体、誰のせいで……ッ!」

「それをどうにかする為に、あなたはスヴェントヴィトから飛び出してまで新しいアルカナの棺を探そうとしていたのでしょう。エアルフを強奪同然に持ち出して」


 全てはお見通しといった様子で、ジョウはザリアーナの行動の経緯を言い当てる。


「それって、つまり……」

「そう、今の私は、こいつ(ジョウ)と同じ、スヴェントヴィト帝国から追われるお尋ね者よ」


 自ら仇敵と同じ立場に身をやつしてなお、愛すべき人を救う為に旅立った彼女の覚悟を、一世は察した。それほどまでに、この眼鏡の女性は、ジェドという騎士を愛していたのだ。


「ジョウ、お前がやった事のツケだ。頭を下げて、ザリアーナさんに協力しろ」


 一世はジョウの目的とその先に待ち受けている「未来」を垣間見ている。その未来が現実となるまでの猶予がどれ程残っているのかは分からないが、この一連の悲劇に終止符を打つ事こそ、彼の目的への近道でもあると、一世はジョウに告げる。


「……分かりました」


 その言葉を、一世は聞きたかった。とは言え、ジョウのその返事に対して、ザリアーナは納得が出来ていない様子だ。

 ザリアーナがジョウに寄せる信頼は、限りなくゼロに近い。

 だからこそ、ジョウは彼女に誠意を見せる必要がある。


「彼女からの信頼を勝ち取るのは、どうやら難しいようですね」

「当然だ。お前のやった事は、決して許される事ではない!」

「とは言え、利権の只中に棺を置いていた所で、完全復活したアナンタと相対する事もまた、難しい。だからこそ、あの国が棺を独占する事は避けたかったのです」


 ジョウの反乱の理由、そして最終目的聞いてもなお、ザリアーナの表情は変わらない。


「とは言え、あなたの不安を取り除く手段を、私が持ち得ているのもまた事実です」


 その言葉を聞き、ザリアーナはジョウの襟元に掴みかかる。

 鬼気迫る表情で、「早くそれを教えろ」と無言の圧力をジョウにかけてくる。


「わかっています、データは無償で提供しますよ。これは私にとっての心残りでもありましたから、ね」

「データの提供には、感謝する。けれども、無償というのはいささか気持ちが悪い」

「では、あなたの持つ死神の棺を頂きましょうか」

「ちゃっかりとしている……だが、お前に借りを作ったままなのは、私の癪に障る」


 ジョウから手渡された記憶媒体をしまい込み、ザリアーナはエアルフのジェネレーターから棺を分離させると、そのままコクピットに閉じ籠もった。

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