Ep12 外伝 悪役令嬢は修道院で聖女になることにしました。(第2章最終話)
注意:この作品はフィクションです。作中の診断や治療を現実に行うことは大変危険が伴います。実際の健康上の問題に関しては必ず医師や医療機関にご相談ください。
王宮についた翌日、皇帝陛下夫妻より夕食に招待された。
アンジェリカは美しいドレスに着替えている。
お母さまのものだったという。
「ちょっと古臭いかも」と言っているが、顔の美しさがそれらを打ち消していた。
クレアはグレースに借りた聖女用の正装着だ。
こちらは全身黒でレースがあしらわれているところもあるが、女の肌をすべて封じ込めようとする気概すら感じるものがあった。
「アンジェリカ、元気そうだね」
「お久しぶりです、ユージーン殿下」
アンジェリカの隣席はユージーンだった。
「晩餐会は初めてか?」
「ええ、そうです。テーブルマナーに自信がないので、失礼があるかもしれません」
「構わない。俺の真似をしていればいい」
隣が顔見知りのユージーンでアンジェリカは少しほっとした。
「ユージーン殿下もお元気そうで何よりですわ」
「おかげさまで傷も綺麗に治った。感謝している」
「ミハイルの傷も、ユージーン殿下の傷も治したのでしょう?」
ユージーンの反対側の席で会話を聞いていたミハイルの妹が二人に話しかけた。
「ああ、本当に素晴らしい働きだったよ。彼女たちがいなければ今頃僕たちはどうなっていたか分からない」
アンジェリカの前にいたミハイルがいった。
「ところで君たち兄妹は薬草の名前にちなんで名づけられたそうだね」
皇帝陛下がジョンに話しかけた。
「ええそうです。僕はセントジョンズワートから、妹はガーデンアンジェリカという薬草から名づけられました」
「ちなみにどんな効果があるんだい?」
「セントジョーンズワートは外傷にも用いられますが、心の不調にも効くと言われています」
「ほう、心の不調か」
「はい、人間が傷つくのは何も体だけではありません。ひどい精神的負荷や戦闘後などに不安や興奮を調整できなくなることがあるのです」
「なるほど、では、それを飲めば治るのか」
「効くものと効かないものがおります。ですので必ず医師の診察が必要です。そして、心の傷は体の傷よりも長引くことも多いのです。」
皇帝陛下はジョンの話を興味深そうに聞いていた。
晩餐会が終わった後、ジョンは宮廷の庭へクレアを誘った。
「クレア、少し散歩しないか?」
「ええ、私も渡したいものあるの」
2人で王宮の庭へゆっくりと向かった。
「昨日は、本当にごめん。簡単に決めらることじゃないって分かってるのに、急かすようなことして、僕が悪かった」
「いいの。私も、決めつけるような言い方して悪かったから」
そういってクレアは懐から何かを取り出した。
「あの、これ、返そうと思って」
「ああ、ハンカチ。と、ラベンダー?」
ハンカチの上にラベンダーの小さな花が数本リボンで結ばれている。
「そう、花言葉は知ってる?」
「えっと、清潔、沈黙だったかな?」
「ほかにもあるわ」
「うん?なんだっけ?」
「”あなたを待っています”」
驚きと歓喜が入り混じったような顔のジョンをみて、クレアは続けた。
「少年に思いを告げないまま待ち続けて花になってしまった少女のお話しからつけられた花言葉よ」
「私ね、あなたがほかの誰かと幸せになるの想像したら、辛いの」
「え…だったら」
「でも、やっぱり今すぐ決めるのも怖い。自分は優柔不断なくせにひどいでしょ?」
クレアは自嘲するような表情を浮かべた。
「……いいや。あの、こんなに嬉しいことってないよ」
「図々しいお願いだって分かってる。でももう少し待っててほしいの。私もあなたを待ってるから」
そういってクレアはラベンダーの花を取ると、ジョンの胸ポケットにさした。
はにかんで微笑むクレアにジョンがそっと手を伸ばした。
「今日の君、すごくきれいだ。ずっと見ていたいな。」
「お兄様、上手くやったかしら……?」
バルコニーから二人の様子を見守っていたアンジェリカがつぶやいた。
「ああ、大丈夫だろう。君の兄は僕も見習いたいところがあるぐらいだ」
隣にいたミハイルが答える。
「で、何をやってるんですか?お二人とも」
アンジェリカが隣を見ると、ミハイルとユージーンがオペラグラスで二人を覗いている。
「二人が心配だからな」
バルコニーから乗り出して食い入るようにのぞき込んでいるユージーンが答えた
「趣味が悪すぎませんか?」
「これも、後学のためだ」
ユージーンが答えた。
「ああ、僕たちに足りないものを君の兄はすべて持っている気がする……」
ミハイルも同調している。
「もうっ!いけません!」
そういってアンジェリカは2人からオペラグラスを取り上げた。
「ちぇっ、今から盛り上がるとこなのに……」
そういってユージーンは後ろを向いてしゃがみこんだ。
その時、ミハイルがアンジェリカの肩をトントンと指でたたいた。
ミハイルが黙って二人がいた方を指さしている。
2人の姿は木の陰に隠れている。
ただ月明りに伸びた二人の影だけがゆっくり重なっていくのが見えた。
ここまで読んでくださってありがとうございます!クレアとジョンの物語はここで一旦終わります。
今後は第3章に向けてゆっくり更新していくことになると思いますので、ブックマーク、評価、感想などいただけますと嬉しいです。
また、ほかの作品も上げていきますので、良かったらそちらもお読みください。




