Ep.144 あの時、あの瞬間に起きた事
ナツトは少し足早に城の中を歩く。
向かう先は、厳重警備体制が敷かれたとある部屋だ。
その部屋には、城の中にいる人達の中でもほんの一握りしか知らないとある二人が保護兼監視されている。
面会を希望してここにいるが、彼等に会うまでいくつもの確認作業を経て、ようやくその部屋に辿り着く。
「……やあ、ナツト。旅行は楽しめたかい?」
どうやら先客がいたようだ。
入室したナツトにアルティオがいち早く気付き、声をかけて来た。
「うん、楽しかったよ」
ナツトの満足そうな顔を見て、笑みを溢すアルティオ。
「それは良かった。是非ミューカにも伝えてくれ。……改めて今回の保護作戦、急な話だったけど見事彼等を見付けてくれて有難う」
アルティオの向かいの席には二人の人物が座っていた。直前まで、真面目な話をしていたのか、顔が真剣そうな表情をしている。
「当然だよ。あそこまで説明されて行かない方がどうかしてる」
確かに急ではあったが、説明される事なく終わっていた方が後々嫌になっていただろう。
奇跡的なタイミングでの出来事であったが、万事問題なく終わったので、今更何か文句を言うなんてことはあり得ない。
「お、おい……」
話しかけるのを少し躊躇っているような素振りで、二人のうちの一人が話しかけてきた。
「ん?どうした秋楽」
ナツトはその人物、陸野秋楽に目線をやった。
よくよく考えてみれば、このやり取りは、ナツトにとっては千年以来のものだ。まさかもう一度会話ができるとは思っても見なかった。
尤も、こっちの世界で再会できたことは果たして喜ぶべきことなのかはわからないが。
「ホントに夏翔だったんだな……」
「そう言ったじゃん」
「ごめん」
戦いの中で、割としつこいぐらいに言ったからな。信じきれなかった秋楽の申し訳ない気持ちと後悔が伝わる。
「いいって。寧ろ信じる方がどうかしてる」
でも、あのときは二人にとっては追っ手から逃げていて気が気ではない状況だったのだ。
仕方ないことだし、これについてもナツトからグチグチ言うのは違う話だ。
「あ、あの!ナツト様……す、すみません….その…本気で攻撃しに行ってしまい……」
続くようにして謝ったのはもう一人の人物。
初の獣人の聖女として育てられ、各国にもその名が知れたサルビア・ニューニャ。
しかし、戦った時とは何と言うか印象がかなり異なる。今のように少しビクビクしていると言うよりかは、己の意志が強い印象を受けたのだが……。こっちが普段の彼女なのか。
「それも気にしなくて大丈夫です。……ところで、アルティオ。どの辺りまで説明したの?」
「事前に伝えた通りさ。秘密裏にこの国まで保護した後、この部屋に入ってもらって念の為一定期間保護と監視を行わせて貰っている状況だよ。保護初日は緊張から解放されたことによる安堵と疲れからか一日中寝ていた。それで昨日に彼等の気持ちや状況の整理の為、色々説明をしただけさ。彼等からの詳しい話はこれから聞く予定って訳だね」
「成程」
要はナツトが旅行を楽しんでいる間は、二人は殆ど寝ていたということだ。
「だけど、それよりも先にナツト、色々と積もる話があるだろう?少し用事を思い出したし、それを片付けるまで悪いが待っていてくれないかな?」
何とも気の利いた配慮である。確かに色々と話したい事はあるし、ここはお言葉に甘えさせて頂こう。
「……アルティオ…助かるよ」
「じゃ、じゃあ私もお隣の部屋に……」
空気を読んだのか、サルビアも申し訳なさそうに席を立とうとする。
流石にそこまで気を遣って貰うと申し訳ないので、ここは引き止めさせて貰うことにした。
別に聞かれても困る話はしないしね。
「いえいえ、そこまで気を遣わなくて大丈夫です。面倒だろうし、そのまま座っていて下さい」
「そ、そうですか?じゃあお言葉に甘えて……あ、でも、出来たら丁寧な話し方はやめて欲しいです……あのナツト様にそう話しかけられたらなんだか、申し訳なくなって来るので……」
「そう?じゃあ、そっちも"様"付けはナシでお願いできるかな?」
「わ、わかりました!では、ナツトさんと」
「よし、話も纏まったし、早速だけど秋楽。僕の事何処まで掴んでたの?聖国で色々調べてたんだよね?」
アルティオが時間を作ってくれたと言っても、無限じゃない。国として二人に聞きたい事はごまんとあるだろうし、テンポよく話を進めていこう。
「知ってたんか。……でも、調べたと言ってもそこまでだったと思うぞ。俺等の知っている「ナツト」かもしれない人物が大体千年前にこの世界に召喚されて、魔王を倒してなんだかんだで死んだって」
「だいぶ端折ったな……」
なんだかんだで殺される自分……。まぁ、いいけどさ。
「いやまぁ、そうだけど……俺も美春も落胆したんだぜ?折角死んだはずの友達がこの世界にいるかも知んない…って思って期待したのに、死んだって明記されてんだ。しかも、そこから先の夏翔に関する情報はパッタリと消えて、出て来たとしても名前だけ……だから、声に出さなかっただけで半ば諦めていたところもあったんだ。美春はどうかは知らんが」
「成程…ね」
事実、死んだからな。
……いやぁ、今振り返ってもあの星を呑み込まんとする呪いは凄まじかったなぁ。
収納魔法とかに入れたりして無害に出来たら一番良かったんだけど、規模がデカすぎて容量が足りなかったんだよな。
「でも、ラーテル王国ってのは、いつか行こうって話していたんだ。建国に夏翔が関わっていたのは事実だし、何か情報が得られるかもって……。まさかこんな形で来ることになるとは思ってもなかったけどな」
「まぁ、それは確かに………って、ん?」
「どうかしたか?」
懐かしい死んだ時の記憶を思い出して、つい流しかけたが、ナツトは秋楽のある言葉に違和感を感じた。
「さっき、死んだはずの友達って言った?」
「ん?ああ、言ったな」
「それって日本でってこと?」
「そうだが?覚えていないのか?」
初耳である。いや、当たり前かも知れないが。
こっちの世界には召喚で来たのだ。そう、死亡からの転生ではなく、転移だ。
なのに、向こうでは死亡確認がされてた?
どう言う事だ。
「え?僕、向こうで逝っちゃってた?」
嘘だぁ……と思いつつ、取り敢えず聞く。
「逝ってるな。お葬式出たぞ。御遺体にも顔を合わせたぞ」
かなりいや滅茶苦茶ショックである。
まだ行方不明の方が親族や友達も希望を持てたはずなのに、昇天していたか……。
いやでも、そうならさっきの転生転移の話が訳わからなくなって来る。
「マジかよ。……ちなみに、どんな感じで?」
「聞くか?結構悲惨だぞ」
そう言われると、聞きたくないような……いや、でも自分の死に方は割と気になる……。
「……可能な限り全部教えて」
「わかった。かなり不可解な事件?事故?でな。警察もかなり調べていたみたいなんだけど、原因は不明だったんだ」
随分と歯切れが悪いご様子。
「事件か事故かもわかってないの?」
「そうだ。事件だと警察は可能性を示唆しているんだが、確定ではない感じ。目撃者が殆どいなかったのもあるんだが、唯一近くにいた車のドライブレコーダーを頼りに調査が進められたんだ。先ず、夏翔の立っていた場所に路肩に停めてあったトラックが猛スピードで突っ込んで、夏翔を背面から吹っ飛ばしたんだ。それで夏翔は後ろにあった廃ビルに激突して、そこにトラックが再度突っ込んでビルを巻き込んで大破。そして極め付けに燃料漏れからの大爆発……って感じだ」
確かにこれは酷い。トラックだけでも十分なのに、そこから確殺コンボを喰らった気分だ。自分の事だし、今もこうして生きているから苦笑いで済むけど、溜まったものじゃないな。
ホラ、隣のサルビアもなんか可哀想……みたいな表情をしているし。
「……おぉう。オーバーキルにも程がない?今こうして生きているから、聞けるけど……余程恨まれている奴みたいな死に方だな」
「……一部のネット民は今世紀一運がないとか、神に見放された高校生とか呟いていて殺意が湧いたよ」
何か黒いオーラを出している秋楽。全部教えてって言ったから当時の事を覚えている限り言ってくれているみたいだが、ここはこれ以上突っ込んだらダメだな。
「……あれ?でもトラックが突っ込んできたんなら、事故じゃないの?」
またもや違和感。そうだ、トラックが突っ込んできたという明確な原因があるじゃないか。
なんで、事故か事件かで悩んでいるのか。
「そこなんだよ。驚いた事にトラックの運転手がいなかったんだよ」
「え?逃げたの?」
轢き逃げ!?……と一瞬思ったが、秋楽の反応を見るにどうやら違うらしい。
「いや、最初から乗っていなかったんだよ」
「どういうこと?」
「近くに車がいたって言ったよな?アレがちょうど、交差点を挟んで対向車線にいてな。トラックの運転席を辛うじて捉えていたんだ。警察もよく調べたそうなんだが、キーも刺さって無い上に、運転席に誰も乗っていなかったんだ」
つまり、誰も乗っておらず、かつエンジンも掛かっていないのに突撃してきたと。
「は?なのに猛スピードで突っ込んできたの?車の構造的に無理じゃない?」
にわかには信じ難い話だ。
そんな風に暴走が起きるなら、車に乗れなくなる。
「誰かが意図的に壊したとか言われてるんだけど、そうだとしたら動機は不明。トラックの運転手を殺そうとした説もあるけど、運転手が乗っていない時に動き出す細工は意味が無い。かと言ってトラックの整備ミスにするにしても、エンジンもかかっていない状況で急発進で暴走は、ちょっと無理がある。責任問題とかもごちゃついてたし、警察としては取り敢えず仮想犯人を作って、無差別殺人を図ったとしているんだと」
「何か…面倒だな。自分の事だけど。で、僕はちょうどそのタイミングでこっちに召喚されたんだ」
「へえ、そうなんか」
「あの時は参ったよなぁ……景色が変わったと思えば裸で召喚されたし」
「……?俺たちは服も荷物も一緒だったぞ?」
「え?そうなの?」
まさか、自分だけ恥ずかしい思いをしたと?
今と昔の転移魔法の性能差か?だとしても最悪だな。
「ああ、全員学校帰りの制服を着たままな。ホラ、スマホ」
ポケットに入れていたスマホを取り出し、見せてくる秋楽。だが、充電環境があるはずもなく、充電切れのご様子だ。
「うわ、ホントだ。僕の時は当然荷物なんて一緒に召喚されなかったし、やっぱり転移魔法の性能差かな?」
「転移魔法の陣は、根本的な部分は昔とそう変わってないと以前メベリータ様から聞きました」
そう言ったのはサルビアだ。メベリータと言うのは、おそらく聖国の重鎮の一人なのだろう。
「そうなの?じゃあ何だだろう?向こうで死んだから?」
「わかんね。向こうに遺体があったんだし、案外魂だけこっちに飛ばされたんじゃないか?魔法のある世界だし、有り得そうじゃね?」
有り得る……。確かに、それは割と辻褄が合っている……かもしれない。
「…………その可能性、あるかも」
「え?今、超適当に言ったんだが?」
まさか、適当に言ったことが正解かも知れないなんて思ってもなかった秋楽は驚いた様子だ。
「秋楽達は、死んでないから身体ごと召喚された。だから、服も一緒に召喚された。でも、僕は肉体が死んだ事により、魂のみが召喚されて、こっちで肉体が再構築された…………あれ、でも、あのとき確か……」
召喚時の記憶を辿る。あの時の自分は足元の魔法陣ばかりに気を取られていたからトラックが突っ込んできたことなんて気が付かなかった。
でも、この仮説が正しいのなら、「トラックが突っ込んでくる→昇天&魔法陣発動」の順になるな。
「まあ、夏翔。その何だ……またこうしてお互い無事に会えてよかった」
「……そうだね。まさかまた会えるとは思ってなかったよ」
「しかし、夏翔が生きてるとなると、美春は是が非でも会いたいとなるぞ?ぶん殴られる覚悟はしておいた方がいいんじゃない?」
「そ、そうだね……」
秋楽の言う通りだな。準備はしておくか。
「そういえば、美春は夏翔と嫌な別れ方をしたとか言ってたけど、何したんだ?」
「……喧嘩別れだよ。気遣いから生まれた喧嘩」
下らない事が原因と言う訳ではない……が、少し言い過ぎた部分もあった。
会ったらちゃんと謝らないとな。
「ふーん。ま、兎に角、会ったら謝った方がいいぞ。喧嘩別れしたっきり、お前が死んだものだから、アイツ彼氏作るのトラウマになったんだからな」
「それは……本当に悪いことしたなぁ……」
それに関しては全面的にこっちが悪いな。
本当にごめんなさい。
「で、美春を連れて来る算段はついてるんか?」
「いや、まだだね。今回は上手く二人を連れ出せたけど、普通なら国同士の対立を生む事になる。元よりそんなに仲は良くないのに、この世界で特に力のある二国が戦争する事になれば、世界中を巻き込む事になる」
「難しいんだな」
いずれ、美春……と他の勇者達はこちらの手が届く場所にいて欲しいとは考えている。
魔王という問題もあるし、一先ずは様子見だな。もどかしい話ではあるが。
「ただいま」
「アルティオ」
「話を邪魔したなら済まない」
「いや、丁度区切りはついた。キリもいいし、本題に入ろう。……秋楽それにオリビアさん。二人が聖国で見て、逃げ出そうと思った原因を教えて」
いいタイミングだ。まだまだ話し足りないところはあるが、アルティオも戻ったし、先ずは話の擦り合わせをしながら現状確認だな。
「ああ」
「わかりました」
二人は語り出した。
聖国の闇とも言えるその一端を。




