Ep.145 2人の逃亡劇①
ナツトの能力で、秋楽の記憶の中の景色を映像化し、それをアルティオの能力で全員に共有する。
驚きつつも、準備ができた事を確認した秋楽は早速話し始めた。
「元々、聖国にずっといようと考えてなかった俺は、どこかのタイミングで抜け出そうとしてた」
脱出に至る経緯を話すにあたり、先ずは背景事情を説明し出す秋楽。
抜け出そうとした理由は、聖国の勇者達に対する扱いにどこか不信感を覚えていたからだという。
とは言っても、側から見ても勇者達は優遇されていたそうだ。
用意された部屋は非常に綺麗で高そうな物が置かれていた。毎日専属のメイドが部屋を文句のつけようがないくらいに綺麗にする。
食事も高校生の彼等がそうそう出会わないような高級料理のオンパレードで、逆に息苦しくなるレベルだったそうだ。
訓練もその道のスペシャリストが教えてくれて、こと環境という面で見れば、これ以上ないほど整っていたそうだ。
ただ一点、外に出歩けなかったということを除いて。
暗殺が、とか護衛が、とかそれらしい理由を言われ続けたそうだが、何が何でも外に出そうとしなかったそうだ。
勇者の事は噂になっていたし、隠したい訳じゃないとは思うが……。
秋楽はその点は不満だったが、妙に反発しても面倒だと判断したらしい。
そして、訓練の合間でこの世界の事を色々調べていたそうだ。聖国のお偉いさんにお願いして、一番大きな図書室を使わせてもらったそうだ。ナツトのことは勿論のこと、言語、歴史、文化、国際状況等等、ジャンルは様々だ。
「ただ、聖国が長い歴史を持つ国なのに、思ったよりも過去の歴史を記した書物が少なかったな」
と振り返るようにして言う秋楽。
ご時世の都合で残せかったのか、それとも意図的にか。
何れにせよ、秋楽の不信感は強くなったそうだ。
同時期にメベリータという大司教補佐の任に就いている人物と勇者達が面会する事が増えたそうだ。日々のストレス緩和と相互理解が目的だったそうだ。
この頃になってくると、全員ある程度の強さが身についており、相手の力量を何となくはわかるようになっていたそうだ。
少し曖昧な感じではあるが、そのメベリータという人物を近くで見ていたら得体の知れない底の深さを感じたそう。
魔王の力がいかほどかは知らないが、勇者なんかいなくても倒せそうだと思ったらしい。
「補足だが、潜入していたバロトナッツからの報告だと、そのメベリータと言う人物はデスクワークが苦手な大司教の代わりに事務仕事やその他雑務を器用にこなす優秀な人物のようだ。バロトナッツが潜入する前からいたそうだから、その人物も油断ならないね」
成程、事務寄りの人物でも、勇者達よりずっと強いのか。
……にしても、大司教も同様に長い時を生きているんだから自分の仕事はこなせるようになれよ……。
「その頃から流星の考え方が変になった。いや、元々俺が主人公だ、とか意味わからんこと言ってたけど、だんだん俺の考え、理想に反してたら敵!悪!……みたいな余裕のない狭い考え方になった感じがした」
流星と言うと、バロトナッツ救出時の一番騒いでいた人か。確かに魔王の手先だ!とかいきなり決めつけられたっけな。
何か切羽詰まっていたというか、一人だけ妙に必死だった気もする。
それはさておき、面会が増えた時期から偏った考え方になった……と。
普通に考えたら洗脳とかそっちの方を疑うのだが、勇者には『勇者の力』とかいう変な力が宿っている。一説では魂を保護する効果もあるかもしれないそうで、鑑定魔法が勇者に効かないのもこれに起因しているのではと言われている。
これが正しいのなら、洗脳とかは勇者に効かなそうだし、魔法を使わずに思考誘導をしているとかだったりするのだろうか。
何にせよ、要警戒である。
「前置きが長くなった。そんな訳で、いつかは抜け出そうと考えてたんだけど、ちょうど良かったのがパレードの日だった訳。でも、折角抜け出すんなら、何か隠し事の一つでも暴いてから出て行こうと考えていたんだ」
普段から城内を歩き回れる範囲で見て回っていた秋楽はそう言った。
秋楽的に、怪しいなと感じたのはやはり、首脳陣だった。
日々の生活の中で、全員の部屋の位置は特定したが、そう簡単に侵入できるはずもなかった。
だが、時間はあったので一番侵入のリスクが低い人物を探すことにし、消去法で大司教ジャッコアを標的とした。
ミスはしたくないので、念入りに調べた。
間取りや、周囲の部屋の状況など調べるうちに、大司教の部屋の近くの廊下のとある部分だけ他と違うことに気付いたらしい。
普通は等間隔に部屋が並んでいたそうだが、一部屋分だけ飛ばされていたそうだ。
間隔的にもう一部屋あるはずなのに、なかった。そう言う間取りなのかも知れないが、どこか怪しかった。
しかもそこはちょうど廊下の突き当たりに位置し、死角にもなりやすい。
もしかすると……と思われる場所を見つけた秋楽は少しの間ジャッコアをそれとなく監視していた。
そして、ある時ジャッコアは例の場所の隣の部屋に入ったきり、しばらく出てこなかったことがあった。
ここまで来たら、ほぼ確定のような物だ。
後は機を待ち、全員の意識が向くであろう勇者達の御披露目パレードという一大イベントのその日にその場所へ侵入することを決めた。
運命の当日。
タイミングを見計らって、真っ直ぐにその場所へ向かった秋楽だったが、思わぬ人物と遭遇する。
サルビアである。
「アキラ様!もう直ぐパレードですよ!…そっちは大司教様のお部屋ですよね?あの方は既に移動されたはずですが……」
一分一秒も無駄にしたくない秋楽にとって、このエンカウントは想定外のものだった。
返答に困る。
無視して向かったら余計怪しまれるし、かと言ってこの千載一遇のチャンスを捨てるわけにもいかない。
秋楽は悩んだ。
だが、悩んだ末に一つの賭けをすることにした。普段からよく会話してきた彼女は秋楽にとって信頼に足る人物であった。
スピード勝負なので全部は語れないが、ここで彼女の協力を得られれば有利に働く可能性があると考えた。
「サルビアちゃん、実はジャッコアさんが怪しい動きをしていたのを偶々見たんだ」
「大司教様が!?そんな……いえ、何を根拠に怪しいと感じたんですか!?」
鋭い。
勢いで流せるのが理想であったが、曖昧な部分を突いてきた。
「それを今から確かめる。俺だって半信半疑なんだ。これで何もなかったらそれでいいし、もしあったら魔王討伐なんて言ってられないじゃん?」
「そ、それはそうですけど……」
「兎に角、今しかないんだ。何が正しいのか自分の目で見ないとわからない。オリビアちゃん、君はどうする?俺と一緒に確かめに行くか、俺の事を報告しに行くか。今、決めてくれ!」
「……うぅ……。わかりました。一緒に行きます。もし何もなかったら大司教様に謝ってくださいね」
「勿論。行こう、こっちだ」
二人は廊下をかける。パレードの影響で本当に警備が手薄になっており、目的の部屋のある廊下は普段からあまり使われていないことも相まって、誰とも出会わなかった。
てっきり大司教の部屋に向かうと思っていたサルビアは疑問に思いながらも、秋楽に着いて行った。
「この部屋だ。当然、鍵は掛かってるか……」
空き部屋とはいえ、流石に鍵はかけられている。
だが、この後は脱出する事にしている秋楽には障害になり得ない。
迷う事なく魔法でドアを壊し、部屋の中に侵入する。
「えっ!ちょっとアキラ様!?」
そこまで強行突破するとは思っていなかったサルビアは吃驚したが、構わず秋楽は部屋を確認する。
客間のような内装だ。少し埃の被った円形のテーブルにそれを囲むように置かれた四脚の椅子。カーテンが閉められた窓。そして、壁際に設置された本が敷き詰められている本棚。
監視カメラみたいなものは、無さそうだ。
秋楽は迷わず本棚の方に向かった。丁度、その本棚が背にしているのは、例の場所があると思われる壁だ。
それにこんな使われもしないだろう部屋に本がこんなにも敷き詰められているのは不自然だ。図書館に移せばいいものを、こんな端の部屋に置いておく理由がない。
それに、本棚が何かしらの仕掛けになっているのは定番な話だ。
隈なく探すと、やはりスイッチらしき部分があった。
ガコッという乾いた音と共に、本棚の横にあった剥き出しの壁が動き出し、隣に繋がる扉が出現した。
「なんで、扉がこんな部屋に……」
サルビアは驚いている。
そんな彼女を他所に、秋楽は扉を探る。
扉の横には何やら青く光る操作パネルのようなものがあり、いかにもパスワードを入れろと言って来ていた。
「………」
面倒だし、さっきと同じく壊そうとする秋楽。こう言ってはなんだが、野蛮な奴である。
「ちょっと待ってください!」
それに待ったをかけるサルビア。
「この扉、入り口の扉と違って魔法で強固に保護されている上、何かしらの仕掛けが施されてます。このまま開けると、すぐに気付かれると思います」
「……面倒だな。サルビアちゃん、魔法で開けられそう?」
まだ何も見ていない秋楽にとっては、ここでバレるのは避けたい話であった。
「開けれるとは思いますが……開けた事は気付かれると思いますよ」
「……問題ない。合図するからそのタイミングで開けて」
「わ、わかりました」
秋楽は操作パネルに手をかざした。特に操作する訳でもないので、サルビアは何がしたいんだろう?と思ったが、すぐに合図が出たので、慌てて解錠の為の魔法を発動した。
扉は割とすんなり開いたが、問題の扉が開いたことを感知するシステムがなぜか発動しなかった。
「よし、行こう」
「な、何をしたんですか!?」
扉を開ける事はともかく、感知システムをどうこうするのは短時間では不可能なはずだった。
訳がわからないと言わんばかりのサルビアだったが、秋楽は「後で教える」とだけ言って、先に進み出した。
若干不満げだったが、サルビアもそれに付随するようにして奥へ進んだ。
「これは……」
「エレベーターだな」
奥の空間にあったのは、地下へ向かっているであろうエレベーターであった。
こちらは特に仕掛けもなく、ボタンを押すだけで良さそうだった。
今更臆することもなく、二人は下へ向かった。
目的地に着くと、自動に電気が点き、空間内を照らす。
意外と広い空間であった。奥行きもあり、少し肌寒い。
だが、そんなことはどうでも良かった。
目の前に映る光景の方が大事だった。
一言で言うと、そこは研究室だ。
いろいろな実験をしているようで、一つ一つが何かまではわからなかったが、一つだけ明確にわかったものがあった。
「魔物……っ!?」
アニメでしか見たことのないような円柱型の培養ケースの中には禍々しい見た目をした生物が入れられていた。そして、それが何列も並び、近くの大きなモニターにそれらのバイタルらしき情報が現在進行形で記録されていた。
「想像通りというか何と言うか、如何にもって感じだな……色々な意味で」
この時点でこれ等の魔物について考えられる線は二つ。
一つは、野良の魔物を捕獲してその研究を行っていると言う事。
バイタル情報があると言う事は恐らく生きているのだろうが、万が一魔物が暴れる事になっても地下ならそれをある程度までは防げる。
もう一つは、考えたくはないが魔物を作っている可能性。
何れにせよ、何のために魔物を研究しているのか……その理由次第で大司教に対するイメージが大きく変わる訳だ。
二人は周辺を手分けして調べた。
研究しているなら、何かしらの媒体で記録が残されているはずだ。
モニターを調べると言う手もあったが、操作方法がよくわからないので、最後に回した。
「アキラ様……これ……」
書類が詰められたガラス張りの棚の中に気になる資料があった。
「……魔物を用いた人為的な邪神の依代作成について……」
タイトルからして、如何にもヤバそうな代物だ。
魔王と言った魔の物を敵とする聖国の重鎮が、それを真っ向から否定するような研究を行っていた。
最悪を想像してしまい、身体が震えるサルビア。
もしかして、もしかして魔王との戦いも仕組まれ……
「サルビアちゃん!」
秋楽の叫び声でサルビアは正気に戻った。
「は、はい!」
「ミスったかもしれない。内装に気を取られて警戒が緩んでた。部屋の所々にカメラみたいなのがある。多分監視カメラの類。リアルタイムで見れんなら、直ぐにでも部屋の主がやって来る」
「そんな……!?」
「俺は予定通り逃げるけど、どうする?全てを見た訳じゃないから断定は出来んけど、相当怪しいのは確かだ。君の立場上、俺と一緒に行くのは国を裏切ることに等しい。けど、何を信じてどうしたいのか、君自身が決めてくれ!」
「わ、わ、私は…………」
サルビアは悩み、悩んだ末に一つの答えを出した。
"安定の"予定より長くなってしまった。
一話完結って難しい……。




