第44話 北部戦線
ドーン ドンドーン
ドーン ドンドーン
大地に響く戦太鼓の音が心地よい。
これから戦が始まるのだと全身の細胞に叩き込むかのような振動が胸を高鳴らせる。
「これほど高い壁を築いて守りを固めるとはまるで陸亀のようではないか。」
我等の侵入を拒むように高くそびえる城塞都市の城壁はいつ見ても忌々しい。
「なんじゃワシら亀人への当て擦りかのう。獅子人の」
後ろで陸亀に跨る翁が殺気を背中に打ち当ててくる。
「気にすんなジジイよぉ。もう老い先短いんだからイキってるんじゃねぇよ。」
「ほんま野蛮な人らとおると鼻が曲がりそうで嫌やわぁ」
狼人と狐人の部族長も減らず口を…。
此奴らとは近年まで殺し合いをしていた関係だが存続の危機に瀕した今、一つの目標の元に集結している。
それは城塞都市の占領
そしてあの街が抱えるダンジョンの接収だ。
昨今防衛力を高めてきた城塞都市の防衛軍相手に各部族は苦戦しており、とうとう積年の因縁を水に流してを組むことになったのだ。
(仮初とはいえ我等が手を組むことになろうとはな…)
いがみ合っていた敵同士が手を組むキッカケが敵の敵とは…。
なんとも歯がゆいものだがこの好機を逃がす訳にもいくまい。
迫る城壁を前に手を上げた。
そろそろ矢が届く範囲に差し掛かる。
「全軍停止!」
ドン!ドドン!
行軍停止の太鼓が鳴り響き兵たちの動きが止まった。
「各員突槍の陣を組み、指示があるまで待機せよ!」
各々の部族長が配下に指示を飛ばすと軍団が蠢く様に形を変え始めた。
数が数なので陣形が整うまでに時間がかかる。
「そういえば…。結局お前の所の娘は戻らなかったな。」
「あら、心配してくれはるの。見かけによらずお優しいねぇ。」
斥候として名乗りを上げ、城塞都市に潜伏していた狐人族長の娘
齢15という若さにして数々の魔術と暗殺術を身に付けた凄腕の戦士だった。
「あの小娘には何度も煮え湯を飲まされたが…、まさかあ奴がしくじるとはのう。」
報告が途絶える直前に城塞都市の中でボヤ騒ぎがあったのは周知の事実だ。
潜伏前に城塞伯の暗殺にしくじった場合は都市に打撃を与えて離脱する、といっていたが。
「策士策に溺れるってやつじゃないのかぁ?弱ぇ奴は小手先ばっかでいけねぇ。」
「その弱ぇ奴に手傷負わされたんは誰やったかねぇ?」
「あ"ぁ"?やんのかコラ?」
「おー、弱い犬ほど良く吠える言うんは本当みたいやねぇ。」
一触即発
俄かに場が殺気立つ
「やめろ。」
身震いするような気迫のこもった声を聴いた両者の額から汗が噴き出る。
「す、すまねぇ。ちょっと冗談が過ぎた…。」
「そ、そやで。ほんまに堪忍なぁ。」
二人は震えるように手を武器から離し気まずそうに目線をそらした。
「我等が牙を向けるべき相手を間違えるな、今だけは。」
今族長同士で争っても兵の士気が下がるだけだ。
血気盛んなのは良い事だが、振るう相手を間違われては困る。
「やれやれ、これじゃから若いモンは…。」
亀人の翁が磨き上げられた玉のように光る頭を撫でつつ眉をひそめる中、若い兵が族長たちの前に膝まづいた。
「陣変え、整いまして御座います!」
「解った。」
視線を向けると兵たちが整然と規則正しく並んでいる。
先頭に亀人を主体とした大盾兵を据え、陣の中ほどに狼人と獅子人で構成された戦士達を擁し、後陣に狐人の魔術兵を据えた突槍の陣。
いがみ合ってきた部族達が生み出した最強の陣、見ているだけで武者震いがする。
「あとは御大将の合図で如何様にも。」
恭しく頭を下げる兵士の言葉に頷き、軍勢に向き合う。
「聞け!集いし兵達よ!!」
ビリビリと大気を揺らす大声に兵達がどよめく。
「な、なんだ?」
「御大将だ!」
「ありゃ獅子人の…」
声が連鎖し騒めきがおこるが、それすらも消し飛ばすほどの声量で続ける。
「我々は戦い続けてきた!!」
「故郷の凍てつく冬、大地の恵みを独占する城塞都市の者達…」
「強大な敵を前に我々は戦い続け、その果てに奪い、奪われ続けてきた」
「ここに居る者の中には飢えで家族を失い、戦いで友を失った者も居るだろう。」
「お前達に問う!このままで良いのか!?」
水を打ったように静まり返った軍の中からポツポツと声が上がり始める。
「…い、嫌に決まっている!」
「そ、そうだ!」
「良いわけねぇ!」
「あぁ!だからここに来たんだ!」
一つ一つの小さな意思は周囲へ伝播し大きなうねりとなって兵達を飲み込んだ。
叩きつける雷雨の如く騒めきが大きくなり、皆戦意を高揚させている
「ならば改めて問おう!」
「明日をも知れぬ生活を続けるか?」
「「「否!」」」
「飢えに苦しみ、冬に怯える生活を続けるか!?」
「「「「否!否!」」」」
「この苦渋を我が子達に背負わせるのか?!」
「「「「「否!否!否!」」」」」
「なれば今日こそ街を陥とし、戦いの日々に終止符を打つのだ!!」
「「「「「是!是!是!」」」」」
一瞬の静寂が流れた瞬間
魂を込めて叫んだ。
「我等の力を見せてやれ!!全軍…突撃!!!!」
ーーーーーーーー
「「「「「ウオオオオオオォォォォ!!!」」」」」
地鳴りのような叫び声と共に敵軍が動き出した。
「いやぁ、若いモンはガッツがあって羨ましいのぅ、青春じゃな!」
「ハルヴェニー殿、冗談を言っている場合ではありませんぞ!」
城の最上部に位置する監視塔から見下ろしているのはハルヴェニーとマグナスの2人だ。
「なーにを焦っておるのじゃマグナス殿。」
「焦らずにいられましょうか?!あのイナリという娘が言っていた情報よりも随分敵の数が多いのですよ!?」
聞いていた情報の3倍は敵兵の数がいるだろうか。
真理眼を持つ彼女が虚言を見抜けなかったとは思いたくないが、事実目の前に居るのだからそう思うしかない。
「まぁパッと見は、のう。」
ハルはマグナスの焦りもどこ吹く風でフワフワと宙に浮かびながらカツサンドを頬張っている。
「…どういうことでしょうか?」
「あれは影分身という魔術じゃの、言葉の通り魔力で分身を作り出す魔法じゃ。ホレこんな感じに。」
そう言うとハルは実際に自分の影分身を作り出し口の周りについたソースを影分身に拭わせて見せた。
「な、なるほど…ということは実際の兵数は前情報通りという事ですか?」
「そうじゃの、とはいえあれだけの数の影分身を出現させるとは、余程腕のいい魔術師がいると見える。」
恐らくイナリの出身部族の者達だろう。
彼女の部族はそういった魔術を得意とすると聞いたからな。
そうこうしているうちに城壁の間近まで敵軍が迫ってきた。
「さてそろそろこっちも動くかの。おーい皆の衆、始めるのじゃー。」
ハルは下階を覗き込み合図を送った。
「「「はい!」」」
階下では突貫工事で訓練された魔術兵団の面々が一斉に魔法陣に魔力を注ぎ始めた。
指示を出したハルも指についたソースを舐め取り作業に取り掛かる。
「さて、ワシもちょっと仕事するかの、働かざる者食うべからずなどと最近うるさいからのぅあやつ…」
ハルも魔法陣に魔力を注ぎ込むと、一気に魔法陣発動の臨界点に近づいた。
「こ、これは…凄い…!」
マグナスの驚きも尤もで、魔法陣としては規格外のサイズ…なんと城塞都市の外周まで内包する巨大な魔法陣が浮かび上がった。
突如として浮かび上がった地面の魔法陣に北方部族達は浮き足立っている。
「ふふふふふ…!エクトプラズムをふんだんに使った特別製じゃ!堪能してもらおうぞ!」
お読み頂きありがとうございます。
ブクマも200件を超えました、みなさんありがとうございます!
さて本編。
北方部族との抗争が始まりました。
軍を鼓舞するシーンってなんとも胸熱なんですが、考えるの難しいですね。
因みにイメージは完璧に三国志です。
チャンネル銀河というcsでやっていた三国志のドラマが昔好きだったので完璧に影響されてます。
とうとう切って落とされた決戦の火蓋
どうなるのでしょうか?
次回をお楽しみに!




