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屋台転生 〜その料理人最強につき〜  作者: 楽
第二章 城塞都市 ヴェルスタッド
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第37話 食えないヤツ

「やっとかかったか。」


 わざわざ無防備なフリをしてみたんだがうまく引っかかってくれたな。

 アイツが使った魔法は知っていたから対応策を立てやすかった。


 闇魔法「影潜航(シャドウダイバー)


 この魔法は物体の影に潜り、影の間を移動できる魔法だ。


 潜っている間は魔力を大量に消費するので潜り続ける事は出来ない。

 だから潜水の息継ぎのようにどこかの影から出てくる必要があるのだ。


 俺も潜って影の世界で一戦交える事も出来なくないが、あまり慣れていない事はしたくない。


 となるとする事は一つ。



 ーーー罠を張る。



 息継ぎをするのにちょうどいい距離


 俺を狙うのにちょうどいい場所


 そこに影を生み出す遮蔽物を作ってやれば相手はそこに出てくる。



 今回は周りの風景に合わせて粘着(スティッキー)餅床(フィールド)と同じ性質を持った土壁(アースウォール)を作っておいたのだがまんまとハマってくれたようだ。



(さて、ご対面といこうか。)



 土壁に回り込むとエジプトの壁画みたいな格好で女が磔になっていた。



「ちょっとぉ…いいオンナ捕まえるにしても酷ない?」



 忍装束のような際どい格好に身を包んだ女性は恨みがましい目で俺を見つめてくる。

 露出が多かったから肌に直で張り付いちゃったんだな。

 しかし軽口を叩く余裕があるとは肝が据わってるな。


「いやぁ、鮮やかな手口だったからね、手を抜く余裕が無かったよ。」

「よう言うわぁ、今でも余裕綽々やないの。」


 なんで京都訛りっぽい喋り方をするんだろう。

 話し方といい風貌といい妙に色っぽいヤツだな。


 しかもマスク越しでも分かるぐらい美人だ。

 ハルが美少女だとするとコイツはモデル系の美しさだ。



 いかんいかん、気をぬくと意識を飲まれそうになる。

 一体この美貌で何人の男を骨抜きにしたのやら。


「いけずやねぇ、キミ。全然ウチの魅了(テンプテーション)効かへんやん。」


 ちょいちょい暗示みたいな微弱な魔力の波長を感じるがそれが魅了の魔法か。

 同波長を体から放出して打ち消しているが、気付かなければ会話を重ねるだけで虜になるのか、厄介な奴だ。


「そうでもないよ?ちょっとグラッと来たもん。」

「ほんならグラッと来たついでに逃がしてくれたりせぇへん?」

「まさか。」


 コイツを逃がしてまた潜伏されたら厄介だ。

 何より北方部族達に情報が漏れ出るのは防ぎたい。


「残念やわぁ…言うこと聞いてくれたら誰も痛い目みあらへんようにしたるのに。」

「…なに?」


 女は不敵な笑みを浮かべている。

 間に受ける道理は無いがなんだか気味が悪い。

 一瞬警戒の色を見せた俺を見てコロコロと女は笑った。


「やぁっと焦りはったねぇ。えぇ気味えぇ気味。」

「何を企んでる?」

「ふふ、気分がえぇから教えたるわ。」


 女は顔を歪めて語った。


「この街の戦術顧問、マグナス=リズベルグさんにお隠れになってもらうんや。」

「ッ!」


 女がそう言った瞬間魔穴を突いて女を昏倒させた。


 まさかそっちに狙いを変えてきたか…!


 言われてみれば北方部族の動きを察知し対策をいち早く打ち出した父さんを危険視しない訳が無かった。



 急いで魔力探知を広げると確かに屋敷の近くに怪しい反応がちらほらと見て取れる。



 既に戦闘が始まっているかもしれないが距離が距離なので細かいところまで分からない。



「くそッ…間に合えっ…!」



 俺は主犯の女を担いで我が家へ急いだ。


 ーーーーー


「なんだこれ…?」




 屋敷が煌々とした光の壁に包まれている。



「ハァッ!!!」



 家の庭先では襲い来る人影を前に訓練用の木刀で襲撃者を打ち据える人影が有った。


 その太刀筋は凛として美しく、相手を諫めるかのような気迫を感じる。


 今この瞬間も襲撃者の意識を刈り取り土に沈めた。


(中々の使い手だな…。)


 関心して眺めていると相手もこちらに気付いたようだ。



「あ、レオンさんお帰りなさい!」



 屈託のない笑顔を向ける女性。

 肩口で切りそろえられた金髪が眩しい。


 …俺知り合いにこんな人居たっけ?


 いや、もしかしてこの笑顔は…。



「…キリエさん?」

「はい!」



 一週間ほど前にダンジョンで助けたローザンヌ教国の聖女、キリエ=ボールドウィンだった。

 本の数時間前まで虚ろな目をしていたのにこの変わりよう。

 一体何が有ったんだ?


 それに雰囲気だけじゃない、外見も凄い変わっている。


「キリエさん、その傷…まさか!?」


 彼女の顔や腕にはいくつも傷跡が刻み込まれている。


「えっと、大丈夫ですよ?これ古傷なので。」

「でもさっきまでは無かった気が…。」


 彼女の外見は卵のようにツルンとした柔肌だったはずだ

 どう考えても傷跡を見落とすはずがない。


「聖女を辞めた反動ですかね。」

「聖女を…辞めた?」


 聞けばキリエは真実を受け入れ、聖女ではなくただの一市民として生活していくことに決めたらしい。

 その為に聖女であった自分との決別の証に断髪を決行したというのだ。


 薄々彼女の身体に何か魔法が刻みこまれているのは察知していたが、その魔法が刻み込まれていた部分(パーツ)は髪。


 刻まれていた魔法の名は偶像聖女イミテーションマリアといい、教国の広告塔でもある聖女が傷物ではいかんと生み出された魔法だそうで、傷を負っても見かけ上は綺麗なままにする、という何とも身勝手な魔法だ。


「それで昔の古傷が?」

「えぇ、自分でもこんなに傷があったなんて驚きです。」


 一瞬今まで彼女が聖女として負ってきた傷の数に胸を締め付けられたが、改めて視線を向けた時不思議と「美しい」と思ってしまった。

 強さの中にある美しさと言えばいいのだろうか。


 前の彼女の美しさは温室で育った穢れを知らない花だが

 今の彼女の美しさは巌に力強く根を張って咲く花のようだ。


「なんか、変わったね。」

「えぇ、ネメアさんのお陰で吹っ切れました。」

「母さんが…?」


 母さん一体何やったんだ。


「えぇ、今度はお化粧の仕方とか教えて頂く予定なんです!」


 随分とルンルンとした様子だが、足元には襲撃者の男たちが転がっている。

 何なんだろうこの状況。


「そ、それはよかった。因みにこれはキリエさんが?」

「あ、そうなんです。何だか急に不穏な気配を感じたので結界を張って対処しました。」


 ホッと胸をなでおろし安堵する。

 父さんのこともそうだが他の家族やキリエが狙われていたらと思って心配だったのだが無用な心配だったようだ。


「ありがとう、助かったよ。」

「いえ、しかし何やらその肩に乗った人から邪悪な気配を感じますが…どなたです?」


 あ、すっかり忘れてた。

 あのまま放置して誰かに回収されたら厄介だと思って持ってきたんだった。





「そうだね、そこらへんも交えて皆で話そうか。」




 これから起こるかもしれない事態に皆で備えなきゃな…。

お読みいただきありがとうございます。

いつも評価、ブクマいただき有難うございます!


目標にしていた500ptに届きそうです。

皆さんの期待に添えるように頑張ります。


本編は一旦落ち着きを見せましたがこれはまだ…?

個人的な印象ですが京都訛りのキャラは裏が読めないキャラが多い気がします。

仕事で関わる京都訛りの人も食えない人が多いせいか余計そう思うんですよね。


さて、今後新キャラもどうなるかお楽しみに!

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