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天才魔術師の私が、異世界から勇者様を召喚するまで  作者: 楚々園 ゆるぎ
最終章 そして私は願い続ける

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Awake:92 終わりの魔女

ここから最終章です。

この話だけ、ノルンの過去になります。

※ノルン視点

 私――ノルンにとっての人生は、他人に使い潰されるだけの空虚なものだった。



 私の産まれたエルタシア王国は、絶対的な権力を持つ王が統治する国だった。

 その王は老若男女の誰もが見とれる美貌とカリスマを持ち、国全体を見事に支配していた。


 そんな王と側室の娘との間に出来た子供。

 それが私だった。


 私の懐妊が発表された時、国中は大いに沸いたらしい。

 この国の第二王女として、『ノルン』という名前が与えられることが決まっていた。

 けれど、そんな未来は訪れなかった。


 私が産まれた瞬間に、その場にいた誰かが叫んだのだ。

 『この娘は魔女だ』――と。

 赤子だろうと、魔女の持つ魔力量は桁外れだ。

 その総量はおよそ世界中の魔力の半分程。

 気付かないわけが無かった。


 魔女の子を産んでしまったことで、私の母親は即日に処刑された。

 そして、王はそのまま魔女として産まれた私も殺そうとした。


 しかし、そこで王は躊躇った。

 理由は決して情などでは無い。

 王は思い付いてしまったのだ。

 私の【終わりの魔女】としての利用価値に。


 エルタシア王国は小国である。

 主要な都市は王都・アロンヘイムくらいで、後は領内に村が幾つかあるくらいだった。


 隣接する周辺国と比べても、エルタシア王国の国力は明らかに少ない。

 それは軍事力においても同じ事だった。


 私が産まれた当時、大陸中の国々は戦争に明け暮れていた。

 エルタシア王国も同じように戦争をしており、特に隣国のデール帝国との小競り合いを続けていた。


 デール帝国は大陸有数の大国だ。

 エルタシア王国のようなちっぽけな国が対抗するには、幾ら王が有能でも難しかった。

 だからこそ魔女として産まれた私の力に、国王は目を付けたのだ。


 結局国の公式発表では、出産の途中で母子共に死亡したということにされた。

 こうして【終わりの魔女】として産まれた私の存在は、世間には完全に秘匿されることになった。


 そして、私は殆どの人間に知られることなく、王城の一室で秘密裏に育てられた。

 物心付いた時から、私は狭い部屋に閉じ込められていた。


 出会う人と言えば、お付きのメイドのセレンだけ。

 ただしそんな彼女と話せるのも、食事を運んできてくれた時とお勉強の時間だけだった。


 私はそんなセレンが大好きで、彼女のことを母親のように思っていた。

 そして、私はセレンから多くのことを教えられた。


 そして私が十歳になった五年前、遂に王は私を戦争に利用することを決めた。

 彼は私がある程度成長するのをずっと待っていたのだ。

 魔女の力というものは、『覚醒』しなければ使えない。

 しかし『覚醒』していなくても、保有する魔力量は膨大だ。


 エルタシア王国には、『魔導砲』という古代の兵器が一台だけあった。

 魔力を充填し、それを発射する魔道具。

 大量の魔力が必要であり、使い勝手に難があるものの、都市を簡単に破壊できる程の兵器だった。


 魔女としての膨大な魔力を利用すれば、その『魔導砲』を自由に使用できる。

 王はそう考えていたのだ。


 私がただの兵器として使い潰される。

 それを知ったメイドのセレンは、その前に私を王城から逃がすことにした。


「良いですか、ノルン。振り返らず進むのです。そして、貴方だけの『幸せ』を必ず見つけるのですよ?」


「セレンは? セレンは一緒に来てくれないの!?」


 私のその問い掛けに、セレンは悲しげに首を横に振った。


「残念ですが、私とはここでお別れです。愛していますよ、ノルン」


 別れ際にセレンが流した涙。

 それが私の脳裏に焼き付く。

 城から逃げ出した私は、彼女の言葉通りに決して後ろを振り返らなかった。



 私は逃げた。逃げ続けた。

 一向に捕まらない私の存在を危惧し、王は遂に勇者召喚を敢行した。


 その勇者召喚計画を任されたのは、私の姉である第一王女・ソフィアだった。

 年の離れた私の姉は魔術の才媛と謳われる程の実力者であり、特に空間魔術に関して研究を行っていた。


 そんな私の姉は短い期間ながらも勇者召喚の術式を組み上げ、異世界から勇者様を召喚してみせた。

 姉もまさか本当に召喚出来るとは思っていなかったのだろう。


 あまりに不出来で未完成の術式。

 しかし、勇者様は召喚された。

 彼女の勇者召喚が成功したのは、幾つもの偶然が重なった結果であり、それはまさに奇跡だった。


 王は召喚されたばかりの勇者様に、私の捜索を命じた。

 けれど、召喚主である姉のソフィアは、密かに勇者様にこう頼んでいたのだ。

『どうか私の妹を助けて下さい』――と。


 かくして私と勇者様は邂逅した。

 異世界から召喚された彼は、この世界の価値観には縛られていなかった。

 だから、私が【終わりの魔女】だと知っていても怖がるようなことは無かった。


「皆、やってもないことで私を責めるの! アイツは世界を滅ぼす【終わりの魔女】だって! 私、世界を滅ぼすつもりなんて全然無いのに……」


 私の言葉を、訴えを、誰も聞いてはくれなかった。

 私を殺そうとする追っ手に、一切言葉は通じなかった。


 だけど、彼だけは違った。

 勇者様だけは、セレンのように私の話を聞いてくれた。


「ねえ、教えて勇者様。私は……私は生まれてきちゃいけなかったの?」


「そんなことはないさ。ノルン、君が生まれてきたことに罪は無い。だって君は何も悪くなんてないし、間違ってもいないんだから」


 そう言って、勇者様は私を抱き締めてくれた。


「俺にとってのノルンは、どこからどう見ても普通の女の子だ。だから、そんな君が悪いなんてことはない。悪いとすれば、君から笑顔を奪い続けるこの世界の在り方そのものだ」


「勇者様……」


「だからノルン、俺と一緒に戦おう。二人でこの世界を変えるんだ」


 彼だけは私を選んでくれた。

 その時勇者様は、私の為に世界全体を敵に回す選択をした。


 それから私達は二人で王都中を逃げ回った。

 追っ手の暗殺者を撃退し、凄腕の魔術師なんかも次々と倒していった。


 ずっと部屋に閉じ込められていた私にとって、王の手先から逃げ続ける日々は大変だった。

 けれど、勇者様と一緒なら何でも出来る気がした。


 彼と過ごした時間は、私にとって眩しかった。

 私は勇者様から色々なことを教わり、毎日が発見と驚きの連続だった。

 だけど、そんな幸せな時間はすぐに終わりが訪れた。


「すまない。どうやら俺はここまでみたいだ」


 泣きじゃくる私の頬を撫でて、勇者様は儚く笑った。


「後少しだけ、君の隣にいたかった……」


 勇者様はそう言い残して、この世界から消えてしまった。

 私はその時、心に決めたのだ。


 必ず生き延びて、勇者様をもう一度この世界に召喚する。

 それが空虚だった私の人生おいて、大切な目的となったのだ。


 けれど、私が勇者召喚を成し遂げる為には、何もかもが足りなかった。

 私の手助けをしてくれるセレンも、勇者様ももういない。

 十歳の子供がいくら頭を回転させても、逃亡生活は限界だった。


 だから、私は決断した。

 逃げ続けるのではなく、この国の王――私の父と対峙する道を。



 私は王城に潜り込んだ。

 姉のソフィアの手を借りて、私は遂に王と対面する。


「お前さえ大人しく従っていれば、このエルタシア王国は、私は世界の覇者になれていたものを……」


 私が対峙した王は、その美貌を歪めて剣を構えた。

 口にするのは私への怨嗟の言葉。


 謁見の間まで辿り着けたのは良かったが、私は王の力の前に満身創痍だった。

 魔女と言っても力が『覚醒』していなければ、私はただの小娘だ。

 必死の抵抗も虚しく、私は絶体絶命だった。


「ここで死ね、【終わりの魔女】!」


 王は動けない私に向かって、その剣を振り下ろした。

 しかし、その刃が私の肌を傷付けることは無かった。


 咄嗟に私を庇ったのは、姉のソフィアだった。

 彼女は私を庇い、王の凶刃に斬られたのだ。


「お姉様……なんで……」


 殆ど顔も合わせたこともなければ、まともに口を聞いたことも無い。

 腹違いの姉・ソフィアは、私にとっては他人だった。

 けれど、彼女にとっては違ったのだ。


「私は貴方の出産に立ち合ったんです。そして、産まれたばかりの貴方をこの手で抱きました」


 私の顔を見て、姉は微笑む。

 とっくにその目の焦点は定まっていなかった。


「【終わりの魔女】とか、そんなことは関係ありません。貴方を抱き締めたあの時の温もりを、私は今でも思い出せるんです」


「……」


「私はこれまで何もしてあげられなかったから。だから、最期くらい貴方の姉として……」


 そんな言葉を残し、姉は私の前で事切れた。

 姉の温もりが消えていく中、私はずっと考えていた。


 多くの別れがあった。

 私の為に多くの人が犠牲になった。

 傍にいて欲しかった人、私を大切に思ってくれる人達を、この世界はあっさりと切り捨てていく。


 何故、こんな結末になってしまうのだろう。

 私が一体何をしたと言うのだろうか。


「許さない……! 絶対に、許さない!」


 姉の亡骸を抱き締めて、私は慟哭の涙を流した。

 許せないのは世界ではない。

 私から『幸せ』を奪うこの世界の()()()だ!


 私は叫ぶ。

 叩き付けるように叫ぶ。


 そして、そんな想いに呼応するように、私は遂に魔女として『覚醒』した。

 それに合わせて、私の髪色が変化していく。

 母親やセレンと同じ綺麗な青髪は色褪せて、真っ白な髪に変貌した。


 その場で竦む王の前で、私はゆらりと立ち上がった。

 そして、脳裏に浮かぶ呪文を唱えた。


「『起動(Awake)』――『スクルドの糸切り(ばさみ)』」


 私が衝動的に振るったのは、まさに絶対的な力だった。

 こうして私は、【終わりの魔女】として『覚醒』した。


 史上五人目の魔女となった私は、自分の魂に刻まれたその力を理解する。

 それは私だけの『固有魔術』――その名前は『運命(ノルン)』と言った。

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