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天才魔術師の私が、異世界から勇者様を召喚するまで  作者: 楚々園 ゆるぎ
八章 運命を変えよう!

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Awake:91 魔女の城

 エルタシア王国の中央に聳える白亜の城。

 それはまさに国の象徴に相応しい、美しい外観だ。

 結界が消えたことで、俺達は無事にこの城に入ることが出来た。


 真っ正面から城門を抜けたのだが、門番や警備の兵士はこれまで一人も見当たらない。

 罠を承知で敵地に飛び込んだものの、何かが仕掛けられている様子は今のところ無かった。


「まるで人の気配が無いですね」


「こんなところにマジで魔女がいんのか……?」


 城の玄関口を見渡していると、ティアナとラッシュがそんな感想を漏らした。


「二人とも油断はするなよ。罠の可能性がある」


 俺は一応彼らに釘を指す。

 しかし、あまりに静か過ぎる。

 城下にある市街の活気とは真逆で、城門の内側はまるで別世界のような静けさに包まれていた。


 魔女の居城へ侵入したのにも関わらず、ここまで何も起こらないのはかえって不気味だ。

 だが、これが罠である可能性は十分にある。

 俺達は慎重に城の中を進むことにした。


「取り敢えず王への謁見の間を目指すぞ」


 師匠の言葉に頷き、俺達は城内の部屋を見て回った。


「……」


「どうした、アミィ。何か気付いたのか?」


 執務室らしき部屋を覗いた時、どうやらアミィは何かを見付けたようだった。

 横で俺がそう尋ねると、彼女はデスクの上に乗った資料を指差す。


「これは農作物の収穫に関する調査書です。しかも、その日付は昨日のものになってます」


「本当だな……」


 俺は資料の一つを手に取った。

 彼女の言う通り、そこに記された日付は昨日のものである。

 隣で師匠が呟いた。


「ってことは、昨日まではここにも人がいたってことか」


「気味が悪りぃな……」


 すかさずラッシュがそう口にした。

 確かに彼の口にした通り、形のない恐怖がじわじわと迫ってきている。

 そんな感覚を俺はずっと感じていた。


「この城も半分くらい探索したが、警備の兵士もメイドも文官の姿も見当たらない」


「はい。全てもぬけの殻のようですね」


 師匠の言葉に、ティアナもそう頷いた。


「けど、人がいないのは好都合だ。魔女との戦いに巻き込むことがないんだから」


 俺はそう口にするも、内心は動揺していた。


「まったくよぉ、この国に来てから変なことばかりだぜ。そもそもエルタシア王国は魔女によって滅ぼされたんじゃ無かったのか?」


 ラッシュが苛立った様子でそう言った。

 彼の素直な物言いに、皆は沈黙した。

 ラッシュの言う通りだ。


 何かがおかしい。

 いや、何もかもがおかしいのだ。


「取り敢えず進もう。あと半分探索すれば、俺達の疑問の答えが分かるかもしれない」


 俺はそう提案すると、皆も同意してくれた。

 あと半分、城内を探索する。

 この城が無人なのか、本当に魔女が潜んでいるか。

 今のままではまだ何も分からない。


「庭か……」


 俺達は中庭に出た。

 どうやらその庭園は、人の手によってしっかりと手入れがされているようだ。


 暖かい日差しが芝を照らし、綺麗に整えられた花々の上には優雅に蝶が舞っている。

 とても数年前に滅びた国とは思えない。


 これから戦場となる筈の場所が、俺の目にはとても穏やかに映った。

 そんな庭園の中をゆっくり歩いていくと、突然師匠が腰の剣に手を掛けた。


「師匠……?」


「気を付けろ! 何者かがこちらを見ている!」


 その言葉を耳にした瞬間、パーティー全体に緊張が走った。

 全員、一斉に武器を構える。

 俺達は互いに背を預け、周囲を警戒した。


 しかし、一向に何も起こらない。

 だが俺にも分かる。

 確かに何者かが、こちらの様子を観察していると。


 俺達は四方を警戒しながら、庭をじりじりと進んでいった。

 そして、


「これは石像か……?」


 エルザールがふと目を止めたのは、巨大な石像だった。

 それは庭の真ん中に不自然に置かれている。


「悪趣味な石像ですね」


 ティアナの感想はもっともだ。

 この石像のせいで、庭の景観が台無しになっている。


「けど、この石像の材質――」


 石像に使われた素材。

 俺がそれに目を奪われていた時、その声音が庭に響いた。


「全く、不遜な奴等だ」


 それは籠った声だった。

 俺はすぐさま声のした方向へ視線を向ける。

 すると建物の上から庭の真ん中に、突然人影が飛び降りてきた。


 俺達の前に現れたのは、白銀の甲冑を着た一人の騎士だ。

 面頬付き兜に覆われ、その顔は見えない。

 日光を全身に浴び、白銀の鎧が眩しく輝いている。


「お前、何者だ……!」


 思わず俺は声を上げた。

 目の前に突然現れた騎士は、圧倒的存在感だった。

 身に纏う殺気からも見てとれる程に、この者は明らかに強い!


「……ふん。私はただの案内役だ。貴様らに名乗る名など無い」


 兜越しに俺達をジッと見つめ、騎士は憮然とそう答えた。

 案内役と、そう言った言葉が引っ掛かる。


「さっさと行け、偽勇者。我が主はお前の到着を随分とお待ちだ。ただし、他の者を通すつもりは無いがな……」


「お前は門番というわけか。だが、俺だけを通すなんて一体どういうつもりだ!」


「その質問に答える気はない」


 その態度を変えることなく、白銀の騎士はそう言った。

 それに対し、師匠が一歩俺達の前に出た。


「なら、ここは俺一人で残る。アイク、お前はパーティー全員を連れて先に行け」


「し、師匠!?」


「コイツは俺一人で足止めするって言ってんだ! お前達は早く先に行け!!」


 そう声を荒げた師匠の顔は、今まで見たことないくらいに逼迫していた。

 目の前の騎士は、それほどの相手ということなのか?


「ここはエルザールさんに任せて、行きましょうアイク!」


 ティアナの言葉で、俺は慌てて思考を引き戻した。

 リーダーである俺の決断は迅速であるべきだ。そしてここは、師匠の下した決断を尊重すべき場面である。


「すいません! 師匠、どうかご無事で……!」


 そう言い残し、俺達は駆け足でこの場を離れた。

 優先すべきことは魔女を倒すことだ。

 勇者である俺が、こんなところで足止めを食らうわけにはいかない。


「ふん……まあ良いだろう」


 横切る俺達を一瞥するも、白銀の騎士はその場から一歩も動かなかった。

 そもそも俺達を止める気など、最初から無かったかのように。



 ◆



 城内を進むと、広い部屋に出た。

 一目で分かった。

 ここは王への謁見の間だ。


 しかし、国王の姿は無い。

 空っぽの玉座が、虚しく鎮座しているだけだった。


「外れだ。次へ行くぞ」


 ラッシュの舌打ちに合わせ、俺達は移動した。

 埃一つない掃除の行き届いた廊下を、俺達はひたすら進み続ける。


 人の手が入っているのは間違いないが、この城には俺達以外の気配はない。

 この閑散とした空気が、妙に不安を煽り立てる。


 そして、俺達は再び広い空間に出た。

 先程の部屋が謁見の間だとすれば、ここは舞踏会などに利用されるホールのようだ。


 かなり広いホールである。

 俺は注意深く周囲を見回した。


 足元には鏡のような大理石が敷き詰められ、天井には巨大なシャンデリアが幾つも吊られている。

 ホールに均等に並ぶ大きな支柱は、それぞれシンプルで趣のある彫刻が刻まれていた。

 そして左右の側壁から降り注ぐのは、ステンドグラスを透過した光である。


 静謐で幻想的。

 賑やかさなど一切ないこの空間は、まるで閉じた箱の中のようだった。


 呼吸音すら異質に感じる静寂の中で、俺の視線は前だけに向けられる。

 そこには奥の部屋へ通じ、中央へ伸びる階段があった。

 その階段は、舞踏会などで主催者が現れる時に使われるもの。


 すると、カツンと俺達以外の足音が響いた。


「……」


 俺達は息を飲んだ。

 そして聞こえてくる音に、全ての意識を集中にさせる。


 カツン、カツン――と。

 足音が奥の部屋から近付いてくるのが分かった。


 沈黙が満たすホール。

 そこに響く足音がひたすら待ち遠しい。

 耳を澄ました俺達は、まるで主役の登場を待ちわびるただの観客のようだった。


 カツン、カツン――。


 そして俺達の前に、この城の主が姿を見せた。

 一人のメイドを引き連れて、その者はゆっくりと階段を降りていく。


 カツン、カツン――。


 一歩、一歩が、永遠に感じられた。

 視線は釘付けにされ、喉が乾上がる。

 まるでナイフを突き付けられているように、本能が動くことを拒絶した。


 この城の支配者は、階段の踊り場で足を止める。

 これ以上進む気はないと、そんな意図を俺達に投げ掛けたのだ。

 そしてその者は、石のように固まった俺達を見下ろした。


「ようこそ、私の城へ。歓迎するわ、偽者の勇者さん」


 悠然と鈴のような声音がホールに響く。

 その者の放った言葉の意味を、俺はすぐには理解出来なかった。


 呼吸すら忘れる程に、俺は魅入ってしまったのだ。

 目の前に立つ絶対的な()()の存在に――。


 まるで色が消えたような純白の長髪。

 それは白雪を想起させる美しさだ。


 そしてその前髪の下に覗くのは、少女の持つ宝石のような二つの瞳。

 彼女のその双眸はサファイア色の光を閉じ込め、冷たさを含んで俺達を映す。


 更に目を引いたのは、少女の持つ現実離れしたその容貌だった。

 年相応の幼さを持ちながらも、涼しげで澄んだ氷のような顔立ちだ。

 まるで世界から彼女だけがくり貫かれているような、淘然とした錯覚に陥る美貌である。


 そして少女の身に纏う水色のドレスは、どこか幼さを残すデザインをしており、フリルの端には瀟洒できめ細やかな刺繍がされていた。

 それは彼女の神秘的な印象に、蝶のような華やかさを付け加える。

 それでいて、少女の持つどこか儚げな雰囲気をより強調させていた。


「お前が……お前がそうなのか?」


 底冷えするような感覚の中、俺は少女を見上げてそう尋ねた。

 すると、彼女はクスリと可愛く笑ってみせた。


「まずは名乗っておきましょうか」


 そう前置きをして、少女はその口を開いた。

 まるで物語の主役を宣言するかのように。


「私の名はノルン――ノルン・フォン・テレシア・ミュゼ・エルタシア。このエルタシア王国第二王女であり、貴方達の言う【終わりの魔女】よ」

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