9 柳原先生
「まったく、なんでうちの学校って怖い先生ばっかりなわけ? 私たち損してるよ!」
紅葉が叫ぶ。
私もそう思うよ。
なんで、柳原先生だとかうちの担任だとか、ここには怖い先生ばっかりなんだろうなぁ。
まあ、こんなこと言ってても何にもならないけどねっ。
「すみませんっ、遅れましたぁ!」
バタバタと教室に駆け込んでいく。
うっ、やっぱり睨まれた。
なんなのもう!
「遅い」
柳原先生がそうつぶやく。
そして、授業が再開される。
私たちの存在自体無視してません?
ひどいよねこれ、うん、ひどいよ。
「と、とりあえず、席に座った方が良いよね」
ユアちゃんが顔をひきつらせながらささやいた。
そうだよね。
とりあえず座ろう。
みんなはバラバラになって席に座った。
席近い女子って、あんまり仲良くない子ばっかりなんだよね。
嫌いとかそーいうんじゃないけど。
それで、面倒くさい授業を聞いてやっと解放されたわけなんだけど……。
お約束。
職員室に呼び出されてせっかくの休み時間ぶっ潰されましたよ。
授業が始まってからもちょっとだけ説教が長引いて、また遅刻だって言われた。
これはさすがに先生のせいなのでは?
とか、言ったって意味ないよね。
むしろ逆効果。
何も言わず、はいはい、で終わらしておけば後は楽なものなんだから。
あ、はいはいはだめか。
逆効果ね。
「あーもうっ! なんなのあの鬼教師! バカじゃないの、ふざけてんの! 授業始まっても説教って、頭がどーにかしちゃってんのよ!!」
お昼休み。
お弁当を食べ終わった私たちは、嘆いていた。
さっき叫んだのは雪乃だけど、私もそう思ってる。
頭がどうにかしてるかどうかは置いといて、ふざけてるよね。
授業が始まってるんだよ?
なのにお説教ですよ?
おかしいでしょ!!
本当に、ため息ばっかり。
あの後、私たちはまた遅れたと言われて怒られかけた。
と言っても、2時間目は理科だったから、まだ優しい方の先生。
まあ、通称鬼教師の柳原先生を基準にしたら優しいってだけだけどね。
あー、もう本当に、疲れた。
「愛華、大丈夫?」
雪乃が机に突っ伏す私の背中を優しくなでる。
雪乃、天使!!
あ、そういえば、ユアちゃんどこに行ったんだろう?
「ねえ雪乃、ユアちゃんってどこに行った?」
でも、雪乃からは期待外れな答えが返ってくる。
「知らな~い」
知らな~いって、かなり心配してないよね。
でもまあ、当たり前か。
教室からいなくなったってだけなんだから。
トイレかな?
とかなんとか、いろいろ考えているうちに、いつの間にか昼休みは終わっていた。
ユアちゃんも帰ってきていたし、まあ心配することはないってとこかな。
あ、でも梨央ちゃん大丈夫かな?
昼休み、様子見に行った方が良かったかも。
梨央ちゃん寂しがり屋なところあるからなー。
落ち込んでないといいけど。
帰り、保健室行かないと。
5時間目、社会の授業の終わりごろ、教室のドアが激しく開いた。
あまりにも眠たくて、ボーっとしていた私だから、驚いて飛び上がってしまい、白い目で見られる。
と、まあそんなことはどうだっていいんだけど、とにかく教室に入ってきたのは間違いなく、っていうか間違うはずないんだけど、梨央ちゃんだった。
元気になったのかなーとか思っていると、梨央ちゃんが何にも言わずに私の方に寄ってきた。
うつむいているから、表情は分からないけど、なんか普通じゃないって感じ。
ちょっとドキドキしながら「どうしたの?」って聞いてみたら、梨央ちゃんが私の手を引っ張った。
なんかあったのかな?
先生が止めようとしていたけど、とりあえず梨央ちゃんについて行く。
そして、連れて行かれた先にいたのは、優輝君だった。
結構久しぶりって感じがするけど、昨日梨央ちゃんを探してたりしてたし、一応会ってるんだけどな。
「あ、えっとどうしたの?」
クラスは違うけど、優輝君も同じ学校だから、授業中なのに、どうかしたのかな?
「愛華ちゃんさ、昨日の男の顔覚えてる?」
「え?」
昨日の男っていうと、アイツしかいないよね。
でも、あの男は確か捕まったはず。
なのにわざわざなんで聞くんだろう?
まあいいや。
思い出そう。
確か、ひげがそんなに生えてなくて、毛が濃い黒だったような。
そんなに覚えてない!!
「なんか、その、覚えてないっていうか……」
なんで覚えてないって言ったのか、自分にもよく分からなかった。
ひげがそんなに生えてない、毛の色が濃い。
普通にヒントになるのに。
何で言わなかったんだろう?
まあいいや。
後で、思い出したって言って伝えればいいかな。
「そっか。実はさ、あの男がもしかしたら、誰かの知り合いかもしれないと思って、聞きに来たんだ」
誰かの知り合い、か。
私か梨央ちゃんを狙っているって感じだったもんね。
知り合いの可能性が高いかも。
だって、雪乃と紅葉にはあんまり興味を示さなかったし。
ってか、自分で言ってて気持ち悪くなってきた。
「ってことみたいだし、授業中だから戻ろう? 愛華」
梨央ちゃんが再び私の手を引く。
「あ、うん」
私は優輝君に手を振ると、梨央ちゃんと一緒に来た道を戻って行った。
途中で、梨央ちゃんが私に言う。
「愛華、抜け駆け禁止だからね」
え? あ、優輝君のこと……。
抜け駆け禁止って、それだったら何も話が進展しないんじゃ?
まあいいか。
なんか逆らうと怖そうだし、ここはおとなしく聞いておいた方が身のためだね。
「分かったよ」
とか言いながら、心の中ではかなり不満。
まあ、いいんだけどね、別に。
「すみません。授業中に」
教室に入るなり、すぐに梨央ちゃんはそう言って頭を下げた。
私も慌ててそれに合わせる。
なんで授業中に呼んだのかすっごく不思議なんだけど、急いで知りたかったのかもしれないし、あまり深く追及したりしない方が良さそう。
気にしないが勝ちってとこだね。
「今日は何か用事があったのでしょうから特別に許しますが、授業中に教室を出るのは良くないことですから、今後は出来るだけ控えてください」
よかった、社会の先生、優しいんだよね。
確か、遠野先生。
この学校で多分一番優しい女の先生だ。
柳原先生も、遠野先生を見習ってほしいよ、ほんと。
そしてまた、暇な授業が終わった。
まあ、遠野先生の授業は、まだ暇にならない感じの授業だけどね。
それにしても、梨央ちゃん、すっごい不機嫌だったなぁ。
やっぱり、私が優輝君に呼び出されたからかな?
あ、でも、それを頼まれたのも嫌だったのかも。
梨央ちゃん、私の事嫌いになったりしないかな?
うぅ、不安だよ~。
「雪乃~、紅葉~、ユアちゃ……じゃない、えっと、滝川さんっ」
何となく、3人のところに行ってみる。
梨央ちゃんはいない。
机で寝てるみたいだった。
「どうしたの? 愛華」
雪乃が私の頬をつつきながら言う。
雪乃は私の頬を触るのが癖になってるみたい。
自分で言うのもなんだけど、私の頬は結構ぷにぷに。
いや、多分太ってはないと思うんだけど。
「あのね、梨央ちゃんが、怒ってるみたいなの」
「え、なんで?」
紅葉も不思議そうに聞いてくる。
横から聞いているのはユアちゃん。
ユアちゃんに聞かれるのはちょっと恥ずかしい気もするけど、もう、いいや!
「私さ、多分優輝君の事好きなんだけど、梨央ちゃんも好きで――――」
私が言い終わらないうちに、紅葉が割り込んできた。
「ごめん、割り込んじゃうけど、多分好きって、何?」
そこを突かれるか……。
多分じゃないって言えば多分じゃないんだけど、大好きってわけでもないような気もするし……。
でも、好きだっていうのは好きだから……もう好きでいいのかな。
「多分じゃなく、好き、です」
半分言わされた感があるけど、気にしない。
これは一大事なんだからっ!
「それでね、さっき梨央ちゃんに連れて行かれた先には優輝君がいて、昨日の変質者のこと聞かれたの」
そこでまた、口を挟まれる。
今度はユアちゃんだ。
「変質者!? 春野さん、襲われたの!?」
お願いだから、静かに聞いてください……。
まあ、微妙に襲われたのかもしれないけどさぁ。
「襲われてないけどね」
大事になるのは嫌なので、適当に流す。
早く話をしちゃわないと、休み時間終わっちゃうんだよぉ!




