21 お勉強は忘れずに
うぅ、眠い……。春野愛華、只今眠気と戦闘中です。って、もう、ヤバいでっす。むしろ寝ちゃおうかな。寝たからって何ってわけでもないし。
「し、死んじゃう……」
眠いよぉ、数学なんて嫌いだよぉ……。
そもそもなんでπとかXとかyとかそういうのを習わなくちゃならないわけなんですか? πなんて日常で使うこと絶対ないと思うんですけど! さらにさらに円の面積とか円周とか図形の面積だとか質量パーセント濃度だとか距離だとか速さだとか!!
絶対いりません。もう断言しちゃいます。いりません。太字で傍線引いてでも伝えたいです。
絶対にいりません。
大体なんでπとか、πとか、πとか!! いらんです!
「愛華、そろそろ休憩したら?」
下からお母さんの声が聞こえてきた。勉強してると思ってくれてたのかな? ……勉強しててよかったかも。本とか読んでたら気まずくなるところだった。危ない危ない。
「はあい」
とりあえず返事。まあ、最後の方は完全に眠気と戦ってただけなんだけどね。寝てなくてよかった。
お母さんに返事できなくて、疑われるところだったからね。ほんっと危ないとこだった。
うんうん、一応セーフってやつですよね。おけおけおっけー☆ あ、うん、ごめんなさい。
「愛華、降りてこないの~? クッキー焼いたわよー」
クッキー!! クッキーって、私の大好物なクッキーのことですよね!! まさか、パソコンの方じゃないよね、うん。焼くなんて表現ないよね?
「はあい!!」
やったぁ、クッキー!! 起きててほんと良かったぁ。
「うっわぁ、美味しそう!!」
リビングに入ったとたん、いい香りと、きつね色のシンプルなクッキーが目に入った。
食べちゃいたい、今すぐに!
「食べていい?」
「はいはい、いいわよ」
お母さんも呆れたかのようにそう言った。だって、美味しそうなんだもん!!
「あむ……うっ、おいし!」
思わず叫ぶ。さすがお母さん、美味しいよぉ~。そういえば最近お母さん、ほんとに機嫌良いんだから。やっぱり、あの人のことかなぁ……。気付いてなかったなんて、私バカだなぁ。
ま、でもまさかお母さんに好きな人が出来たなんて気が付く方がすごいくらいだし、そもそもお母さんにそんな出会いがあるなんて知る由もないわけですし。うんうん。そんなもんですよね。
「もう、愛華ってば大袈裟にそんな反応しなくてもいいじゃないの」
そう言いながらふっと笑うお母さんと、クッキーを頬張る私。
普通に仲良さそうな親子ですよね、母と娘ですよね。うーん、でもお母さん前まであんなに怒りんぼだったのにさぁ。
ま、そんな昔のことなんて考えてても何の得もないし、今は今のことだけ考えておけばいいよね。他に考えるとすれば、未来のことくらいでしょ。
わざわざ、過去のことなんて考えたって何の得もないもんね。うんうん。って何回言うんですか。
「あ、ありがと~お母さん。美味しかった!」
色々考えてたらかなりの量を食べてたから、お母さんの分も、と思って何枚か残して言う。
「あら? 全部食べたらいいのに。そんなお世辞言わなくたっていでしょ」
やっぱりそういう風に取られちゃいますよね。分かってました。
「ううん、お母さんも食べるかなぁ~と思って。お母さん食べないんだったら私食べるけど」
ちゃんとわかってもらえるように訂正。するとお母さんは「食べていいよ」と笑ってくれた。
ふう、良かった。う、でもこれを食べ終わったらまた部屋に戻って勉強しなくちゃいけないんだよなぁ……。こうなったら、本読んじゃおう! 『青い空の彼方』だったよね。
よし、あれ読もう。もう眠気がすごかったけどクッキーで吹っ飛んだし。クッキー美味しすぎました。
「じゃあ、勉強してきまぁ~っす」
わざわざ勉強すると言っておいて、やらないとか私おかしいかもしれないけど仕方ないよね。だって私だから。ってそれおかしいかも。
「はいはい、頑張ってね」
うっ、ごめんなさい……勉強じゃなく、本読むだけです。読書です。readingですごめんなさい。
「は、はい」
うぅ、なんか罪悪感すごいです。本当にすみませんでした。
心の中で謝りながら階段を上る私。あうぅ……本当にすみませんでした、ごめんなさい。
とりあえず、読みますか。暇だしね、うん、暇だしね!! 汗かきそう、もうやだぁ……。
えっと? 青い空と白い雲はホットケーキとシロップと同じような感じ? まあ、確かにそうかもね。ってかこれ、もしかしてエッセイってやつ? 随筆? まさか!! え!? 私、エッセイとか読まないんだけどなぁ……。まあ、せっかくの機会だし、読んでみようかな。
うぐぐ……ヤバい、この小説、全然私の好みのタイプじゃないやつだ……。
部屋に入って約1時間。まだ本の半分も読んでません。300ページくらいなのになぁ……。さてどうする、私……。お母さんは勉強してるって思ってるだろうし、これを読むより勉強してた方がましかも。あぁ、ヤダなぁもう……。なんでこんなあんまり好きじゃないタイプのやつを……私は借りてしまったのでしょうか。
それはやっぱり私がバカだから、って、なんか余計傷つく。自分で言うとか悲しすぎるし。まあ、自分で自分を慰めるようなイタイ人(?)にはなりたくないので……。
そこまでじゃないからまだましな方なはずなんだよね? 多分……。うん。
「愛華、勉強はかどってる? ココア入れてあげようか?」
すぐ近くからお母さんの声。やっばい、絶対部屋の前にいるでしょ! これは、勉強してたふりをするしかないですね、ハイ。あぁもう、私悪い子だ……。
「ううん、いいよ。頑張れるし」
本を読むのに頑張ってたし、エッセイだったし、一応勉強ってことにしておこう。で、今からちゃんと数学やるし。うんうん。大丈夫だよね、国語の勉強ってことでいいよね。
そだそだ。そーだそーだ。……こんなこと言ってたら、クリームソーダ飲みたくなってきた。私、やっぱりばかなのかもしれない。うん、むしろバカですね、はい。
「そう? ならいいけど。ちゃんと勉強しなさいよ」
釘を刺された。これは勉強するしかないです。
「は……い」
勉強なんてやだけど、いつか役に立つって思いこんでやっておこう。じゃないとやっていけないよ。無駄なことしてるって思っちゃう。これは無駄なことじゃない、入試に出るんだ! とか先生は言うけど、まず入試に出す方がおかしいんだよ。もっと実用的な感じのものを学習させてほしいと思います。
そういえば、この間数学の先生から聞いた話だと……一時期円周率が3で習ってる世代があったんだっけ。もちろん私は3.14だけどね。3なんて楽そうでいいなぁ。計算、大変なんだから。
それにしても……勉強面倒だなあ。まあ提出しなくちゃだし、仕方ないよね……。勉強なんて、そんな楽しいことじゃないけど、仕方ないもんね。あーあ、もうやだぁ。
とりあえずさっさとやっちゃおうっと。数学は嫌いだけど、やるしかないんだから。べつにやらなくても成績下がるだけなんだけど……成績下がるとお母さんに三者面談で全部分かられちゃって、家に帰ったらお説教っていうのは目に見えてるし、できないよね。
それにしても数学ってめんどくさすぎますよぉ……。そういえば、優輝君とかとあんまり最近話してなかったような気がする。来週は話せたらいいな。
……って!! なんか私、今完全に恋する乙女だった気がする。気のせい、だよね?
私が恋する乙女とか、普通にありえなかったんだから。ついこないだまで。
それからいろいろあって、男性恐怖症を何とか克服して、優輝君に好きになってもらうために絶賛張り切り中ってこと、だったよね。
うーん、目的からかなりそれてる気がする。まず、優輝君と最近話してないし。
まあ、今は勉強勉強っと~。あーやだなあもう。勉強なんてしたくない……。




