20 暇曜日
ああもう、お母さんも勝手なんだから……。勝手に結婚なんて、考えちゃってさ。
トマトスープは完食しちゃったし、お母さんは見つからないし、暇すぎるよぉ~。
「愛華」
突然後ろから声をかけられて、私は驚く。振り向くとお母さんが立っていた。まあ、私の名前を普通に呼び捨てで呼ぶのはお母さんだけなんだけどね。
「なあに?」
そう聞くとお母さんは呆れたようにため息をついた。
「バカねぇ、もう帰るのよ」
え゛っ、もしかしてあの……スーパーエネルギッシュパワフルスライダーショットなジェットコースターに乗らなくてはいけないわけなんですか? えっそれって地獄――――。
「え、やだ、まだいたいよぉ~」
今は食べたばっかりだし、もう少し休ませてほしいっていうのと、現実逃避っていうのと、まだ心の準備が出来ていないっていうので、文句を言う私。
そして、却下。
「無理に決まってるでしょ。急がなくちゃいけないんだから」
一人娘の私。お父さんがいない。なんで急がなくちゃいけないの? ふとそんなことが頭を過ぎる。
うーん、分かんない。分かんないよ~。
私が困っていると、お母さんに強制連行された。やだぉ~、ジェットコースターが苦手なのはこのせいですよぉ~。このジェットコースターめ~。
むしろ、ジェットコースターより怖いです。
――――しばらくお待ちください――――
「ぎゃあぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁああ!!」
叫ぶ私。
「愛華、我慢しなさい!!」
言い聞かせるお母さん。
――――約30分後――――
「はあ、はぁ、はあぁ……」
「愛華、もう少しおとなしくしていられないの……」
疲れ切って、息が切れている私たち。車に乗るだけでこんなことになるなんて、お母さん、モンスターです。
それにしても、なんでこんなに車の運転が下手なんだろう、お母さん……。
ちゃんと免許取ってるのに。ってか、免許取ってなかったら捕まるけどね、車の運転してたら。
うん、お母さんはすごいです。色んな意味で、ね。
はあはあ言いながら倒れこむようにして玄関に入って、廊下に寝転ぶ。
「ちょっと愛華、邪魔だってば。奥行って!」
お母さんに文句を言われて私は立ち上がる。そしてそのまま自分の部屋へ。
あぁ、スーパーエネルギッシュパワフルスライダー……なジェットコースターがあることを忘れてたなんて、私バカだなぁ。
もうほんと……私ってバカなんだろうなぁ。お母さんの運転の事、忘れてたなんて……。
とりあえず、早くお風呂にでも入って寝ようっと。
私は手早くお風呂を済ませると、お母さんに「おやすみ」を言って、支度をして寝た。
次の日、すっかり疲れて8時くらいまで寝てた――――って、えぇぇ!?
8時って、完全なる遅刻!! っていうか、この時間に家出ても遅刻!! 何でぇ!?
…………私がバカでした。
今日は土曜日、学校は休み。休日。
私バカだぁ。ほんっとバカだよ。焦ってお母さんの揺さぶり起こして「8時だよ! 遅刻だよ!」って叫んで、お母さんに迷惑がられて、挙句の果てに休日でしたとさ――――――ってさぁ!! ちょっと!
ちょっとひどすぎるのでは、と勝手に思っちゃいました。
「もう、愛華ってば、日付を確認してから起こしに来なさいよ。おかげでゆっくり寝てたのに、すっかり目がさめちゃったじゃない」
お母さんに文句を言われてうなだれる私。
「ごめんなさぁ~い」
そう言って私はいつもの席に着く。
お母さんは、朝ご飯を用意するのだけは特別早くて、それだけは尊敬してるっていうね。
運転は最悪だけど。でも、まあご飯の用意だけは早いのにまさかの美味しすぎるっていう。
私の舌が肥えているっていう証拠はないから、そこまで美味しいのかは分からないけど、私が美味しく食べられているんだったらそれでもいいかななんて思ったりしちゃうのが私なんですよね。
うん、それが私。
「いっただっきまぁ~っす」
「あっ、また砂糖かけて!! 太るわよ!」
お母さんに驚かれる。
いつものようにトーストにバターを塗って、その上から砂糖を振りかけようとしてたんだけど……。どう考えてもカロリー高すぎるメニューだから、美味しさにかけてるんだよね。
ってか、食パン焼くくらいだったら私にもできるし、朝ご飯の用意というほどの物でもないんだけど。
うぅ~甘い!! そしてこれが美味しい!! 大好き!
……でも、太りそう。やだなぁ、私あんまり太りたくないよぉ。って、みんなそうか。
あんまり太りたいって言う女子はいないよね。太りたい、とは。
そんなことを考えながら砂糖かけトーストに噛り付く。これで最後の一口。
「あっまぁ~♪」
すっかりほわほわになった私を見たお母さんは、ため息をつきながら私とおんなじ砂糖かけトーストを食べていた。
お母さん……私に太るからやめろって言って、散々止めたくせに。
まあ、やっぱり美味しいから仕方ないよね。
甘党が愛する食事です。
「お母さん、私太ってる?」
ちょっと不安になった私が聞くと、お母さんは噛んでいたトーストを飲みこんで言った。
「太ってるんじゃない」
「ひどい!!」
私は思わず叫ぶ。実の娘にそれはなくない? いや、実の娘だから……?
うーん、分かんない。やっぱり私ってバカなのかな?
それともお母さんがおかしいのかな? やっぱり私、お母さんの子だから仕方ないのかも……。
って今、思いっきりお母さんのことけなしちゃった。
声に出したりでもしてたら、追い出されるところだったよ。というより、目で殺される、っていう感じの。危ない危ない。
私バカだから、そういうことに神経が向かないんだよね。広い範囲じゃなくて、一つの範囲にすべての脳細胞が働いちゃうから、昨日みたいにひろーく考えられないっていう欠点があっちゃいまして。
そういう感じなのです。私、本当に肝心なところ忘れちゃうんだから……。
「ちょっと、愛華? 食べ終わったんだったら食器持って行きなさいよ」
言う事がすっかり変わったお母さんの言いなりになって「はぁい」と返事をする。
洗えって言われてた頃よりはずっとマシだよね。だって、食べたら洗う、だったもん。
まあ、洗ってる子もいるんだろうけど、私は嫌で嫌で仕方なかったんだよね。基本、面倒くさがり屋なので。お母さんに似て、ね。
かちゃん、という私の好きな食器と食器がぶつかる音を聞きながら、私は再び自分の部屋に戻った。
……それにしても、今日も暇だなぁ。なにして時間つぶそう。
ゲームは特にないし、パソコンは別に面白くないし、外に行っても寒いだけだし、遊ぶものなんてないし、オセロを1人でやるのもむなしいし、お母さんは相手してくれなさそうだし……。
おまけに、そんなこと言ったら「暇なら手伝いなさいよ」って家事を押し付けられること間違いなし。
うん、部屋でおとなしく本でも読んでおこう。そういえば学校で借りた本があるんだよね。
たしか……『青い空の彼方』だっけ。なんか表紙が綺麗だったからひかれちゃったんだ。
私、基本挿絵とか背表紙とか表紙とかで本を選ぶからなぁ。
とりあえず、それ読んどこうっと。どうせ暇だしね。土曜日なんて、何にもやることない……あっ。
やなこと思い出しちゃった……。数学の問題集、やらなくちゃいけないんだっけ。
たしか、次の木曜日だったような……。最近やった数学の問題集の進み具合は最悪だし、まだあれ、20ページは軽くあるんだよね。やだなぁ、やらなきゃいけないけど、本読みたいし、読むって決めちゃったし……。もう、やだやだやだやだ!!
勉強なんか嫌いだよぉ~。でも、やらないとお母さんが怖いしなぁ。
私はため息をつきながら、数学の問題集を開いた。




