19 お客さん
スーパーエネルギッシュパワフルスライダーショットなジェットコースター並みのお母さんの運転からやっと逃れることができた私は、ため息をつくので精いっぱいだった。
着いたのは大きなビル。30階建てらしいんだけど、この中の22階にそのお客様(?)がいるっていうことなんだけど……。
ああ、来なければよかった。帰りもスーパーエネルギッシュパワフルスライダーショットなジェットコースター並みのお母さんが運転する車に乗らなくちゃならないんでしょ? これを覚えていたら即答で行かないって言ってたんだけどなぁ……もう、バカだったみたい。私がおかしかったみたい。
「愛華、早く」
急かされて乗ったのはエレベーター。すっごく広くて、快適。
でもやっぱり、22階まで行くのは時間がかかるし、耳がキーンってなるからあんまり好きじゃないんだよね。まあ、好きな人はいないだろうけど。
やっと22階につくと、すぐ向かいにあった高級そうな大きなドアの部屋の前に行く。
どれだけ偉い人なんだろう? 私が不思議に思っていると、お母さんがそのドアを開いた。
そこには、煌びやかなシャンデリアがたくさん天井にぶら下がっていて、多分シルクか何かのテーブルクロスが敷いてあるテーブルや背もたれや座るところのクッションが気持ちよさそうなチェアがいっぱいあった。
すごい!! 何かのパーティなのかな? でも、なんでこんなところにお母さんが呼ばれたんだろう? お母さん、こんなところに関わりがあるような仕事していないよね?
うーん、全然分かんない。お母さん、何も教えてくれなかったしなぁ。まあ、不成立な交換条件みたいなものだったから、仕方ないのかもしれないんだけど。
「愛華、こちらがお菓子会社の社長の古野さんよ。武野さん、これが私の娘の愛華です」
お菓子会社の社長の、古野さん? こんな偉そうな人とお母さんに関係があるってこと?
お母さんは、私にこの人と会ってほしかったってわけ? うーん、ロリコン……ではなさそうだよね。すごく真面目そうだし、きっちりしてそうな感じ。スーツを着こなしていて、グレーのジャケットを着てる。
……どう考えても、お母さんと関係があるようには見えない。でもあるんだよね。ここに私とお母さんが来てるってことは。
「愛華ちゃん、初めまして。大きいんだね。何年生なのかな?」
普通の声。低くもない、高くもない、男の人って感じの声。
「あ、初めまして。中学2年生です」
「そうなんだ。綺麗だね」
綺麗!? そえが中学2年生に言う言葉? 普通って、可愛いとかいうんじゃないっけ?
やっぱり社長は違うってこと? それにしても、なんなんだろう。私、綺麗でも可愛くもないけど、なんかすごいうれしい。
まさか、この人、嬉しく思うような言い方してるとか? やっぱりロリコン!? 怖い怖い。
う~ん、それにしても古野さんって人、本当に何? お母さんとどのような関係が!?
「それで愛華、私、この人と結婚しようと思ってるんだけど……」
「け、結婚!?」
思わず、大きな声を出してしまった。取り乱しすぎかな? でも、びっくりした。
結婚……お父さんは? お父さんは確かに今、一緒に住んでない。ちょっと仲が悪くなって、別居してる。でもそれだけなんだって、ずっと思ってたのに……。
お父さんとは、離婚するってこと?
「お母さん、お父さんは……?」
私が聞くと、お母さんは上機嫌なまま不思議そうに聞いてくる。
「え? 愛華に言ってなかったかしら、もう離婚したのよ」
離婚、いつの間に? もしかして、だからあんなに機嫌がよかったの? お父さんと、離れられたから?
「愛華ちゃん、すぐには受け入れられなくても、ゆっくりでいいから、慣れていってくれると嬉しいな」
いやいやいやいや、だから! 慣れるも何も、もう結婚することは決定事項なわけ?
私に結婚しようと思うんだけど、どう? とか聞いておいて、私が嫌って言ってもどうにかこうにかで絶対結婚するよね。だってお母さんは――――そういう人だから。
どうして? 娘のことをどう思ってるの? 私はお母さんのロボットじゃない。お母さんの思い通りになる人形じゃない!!
「嫌だ!! 私、やだ! どうして知らない人がお父さんになるの? 私の意見、本当に聞いてくれるの?」
分かってる。全部が私の思い通りにならないことくらい、知ってる。
私だって中学生。もう知ってるよ、離婚も結婚も、大体の事は。
お母さんにだって、新しく好きな人ができることはあるだろうし、それが悪いことだとは言えないことは知ってる。
でも、もう決定事項になってるだろうから、それならもっと早くから言ってくれないと……。っていうか、私が行かないって言ってたら、私何も知らずにいつの間にかお父さん後退しちゃってたってことだよね!? 待って待って待って! それはピンチになるところだった……。
私、行くって言っておいてよかったかも。マジで。
「愛華の意見は尊重するつもりよ。でも、全部聞いてあげられるかは分からない」
だろうと思いました。ってか――――私って最近、独り言多いような? やだ怖い。
「愛華ちゃん、ゆっくりでいいから。僕の事はおじさんでもいいから、少しずつ家族になって行こう?」
……やっぱりもう決定事項なんじゃ? 結婚しないっていう選択肢ないよね? 家族って……。
もうみんな本当に勝手。大人って、勝手なこと言って子供を振り回したりして、そんな人ばかり。いつかは私もそういう風になっちゃうのかもしれないけど……。
それでも、やっぱり嫌だから。分かってるけど、お母さんの気持ちは分かってるけど。でも、私の事ももうちょっとくらい考えてくれたっていいでしょ?
私だって――――家族だよ。
「愛華、とりえず、今日はこのパーティを楽しんだらいいわ」
お母さんはそう言い残して古野さんと一緒にどこかへ向かっていった。誰かに挨拶、とか……?
私はため息をつきながら、そこら辺をウロウロすることにした。
お母さん、今日は派手な服に着替えたと思ったら、このパーティのため? 私にももうちょっときれいな格好させてくれたっていいのに……。
私の今日の服装は、長袖のワンピース。紺色で、胸元にハートの刺繍みたいなのがある。スカートの部分は白と紺のボーダーになっていて、裾にはちょっとだけフリルが付いているけど、それだけ。
普通に、普段の服装。もっと綺麗な服、あったよね?
……それにしても、お母さん浮かれ過ぎ。一児の母だっていうことを忘れてるでしょ。
どっか行っちゃったし……仕方ないから、なんか食べとこ。
さっき見た白いテーブルクロスが敷いてあるテーブルには、たくさんの料理が並べられていて、全部美味しそうだった。それを見ているとだんだんお腹がすいてきて、覚悟を決めて食べることにした。
セルフサービスなのかな? そこまで深くないお皿が違うテーブルにたくさん置いてあった。
私はその皿の1つをとってさっきのテーブルの方に行き、いろいろ見た結果、何かのクリーム煮みたいなのを食べることにした。
具材はよく分からなかったけど……おいしい!! 私はそれを少し足してもう一度食べた。
そのあと目に入ったのはトマトスープ。私、トマト好きだしなぁ……。
そう思って食べようとしたけど、お皿はクリームで汚れちゃったし、何より浅くてこぼれそう。
彷徨いながら深めのお皿を探していると、ウェイトレスさんみたいな人が、何を探しているのかを聞いてくれたから、深めの皿があるか聞いてみた。
すると、その人はすぐに深めの皿を持ってきてくれたから、トマトスープを思う存分飲むことができた。




