昼~夜の風景
《登場人物》
パパ……あなた。妻と8人の娘を溺愛している。平凡なサラリーマンだが、一戸建てに住み、8人の娘を養っている。
妻・沙織……若々しい外見の眼鏡美人。
長女・理沙……12歳の小学6年生。眼鏡をかけていて、沙織の若い頃に似ている。やや内気だが、よく気が付く優しい子。
次女・翔子……11歳の小学5年生。スポーツやテレビゲームが好き。ショートカットで、ちょっと男の子っぽい。
三女・凛……10歳の小学4年生。最近ちょっとパパに冷たい?
四女・美貴……9歳の小学3年生。小悪魔系。
五女・巴……7歳の小学1年生。眼鏡をかけている。ネットや読書が好きで、マニアックな知識を持つ。
六女・華弥……幼稚園の年長さん。困り眉がチャームポイント。おとなしい性格で、妹たちによくいじられている。
七女・愛……幼稚園の年中さん。元気いっぱい。よく華弥で遊んでいる。
八女・優結……幼稚園の年少さん。マイペースな大物。愛と一緒によく華弥で遊んでいる。
時刻は14時半。午前中に終わらせるはずの仕事が長引いてしまい、こんな時間までかかってしまった。
遅くなったけどお昼休憩だけ少しとらせてもらおう。
パソコンをスリープモードにする前に、壁紙に設定している妻と娘たちの写真を見つめる。
すると、無性に家が恋しくなってきた。ちょっと電話をしてみよう。
弁当を持ってオフィスを出て電話をかける。
ピポパ。プルルルル……。
『もしもし、沙織です。お父さん、どうしたの?』
妻の沙織が出てくれた。
「仕事が長引いてしまって、今からお昼なんだ。ちょっと声が聞きたくなってね」
『あら、嬉しい。それと、お仕事お疲れ様」
話していると、電話の向こうが騒がしくなってきた。
『それなら、娘たちの声も聞いてあげて。さっき迎えに行ってきたばかりなの』
そういえばもうそんな時間か。
『おとうさん、お仕事おつかれさまです。お帰りまってます』
『パパ、今日はふるーちゅばすけっとやったの』
『パパすきー』
華弥、愛、優結が順に受話器を回しながら話してくれる。
愛は幼稚園でフルーツバスケットをしてきたようだ。
最後は沙織に代わってもらった。
「今朝、話してたんだけど、華弥たち三人に七五三の着物を着せてあげてくれないかな。少し早いけど、着たがってるみたいだし、目につきそうなところに入れていたこっちも悪かったし。
ああ、今朝華弥が着てたのは本当は巴のだから、巴に許可は取っておいて」
『わかったわ。娘たちの晴れ着姿、楽しみにしていて』
一言声を聞くつもりがついつい話し込んでしまった。
大急ぎで愛妻弁当をかき込み、オフィスに戻った。
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ほぼ同時刻。
小学3年生の美貴のクラスでは6時間目の授業が始まろうとしていた。
この時間は宿題だった作文の発表がある。お題は「将来の夢」。
先生が来るまでのわずかな時間、児童たちは思い思いに過ごしており、互いに書いてきた作文の内容などを言い合っている者もいる。
「ねえ、美貴ちゃんは何書いてきたの?」
美貴の1つ前の席に座る女の子も、後ろを向いて美貴に尋ねる。
「ひ・み・つ・よ、由佳ちゃん。でも、私の小さい頃からの、いっちばん大事な夢を書いてきたの」
「へぇ、そうなんだー。発表楽しみー」
そんな時、女性の先生が教室へ入ってきた。ざわめきが途端に静まる。
「はい、じゃあみんな席について。日直の智哉くん、号令お願い」
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夜。愛妻弁当の効き目か、昼からの仕事は思ったより早く終わった。
「ただいま」
待ちに待った我が家の玄関を開ける。
「おかえりなさい」
夕食の支度をしているのであろう、沙織の声が聞こえる。
「おかえりー」
華弥、愛、優結の声も聞こえる。と、3人とも玄関までやってきた。
その姿に目を見張る。3人とも七五三の着物を着て、大層可愛くなっていたのだ。
「おとうさん、見て。おかあさんに着せてもらったの」
「華弥ちゃん、おひめさまみたい! 愛と優結もおそろいよ」
「パパ、おひめしゃまみたい?」
華弥、愛、優結が口々に言う。そんな3人は本当にお姫さまみたいだった。
まあ普段から俺のお姫さまではあるんだけどね。
「うん、すっごく似合ってて可愛いよ。3人ともお姫さまだね。こんな可愛いお姫さまがおうちにいてくれて、パパ嬉しいよ」
「じゃあ、パパがおうじさまー」
と愛。
「おうじさまと結婚式あげなきゃ」
と華弥。
「優結、おうじさまとけっこんするー」
と優結。
3人の姫にじゃれつかれつつ考える。
女の子って着替えるだけで本当に見違えるものだな。いつもの姿ももちろん可愛いんだけど、何だか華やかさが違う。
着物を着せてって沙織に頼んだのは自分なのに、実際に着物姿を見るとびっくりしてしまった。
しかし、食卓へ向かおうとしてふと気付く。
「みんな、ご飯はすんだ?」
「ううん、今からー」
と愛。
「パパまってたの」
と優結。
「おうじさまと、ばんさんです」
と華弥。
そうか。パパを待っててくれたのは嬉しいけど、着物姿で食事するわけにはいかないな。
「残念だけど、ご飯の前に着替えようか」
「「「えー」」」
「汚れたら大変だからね。そうだ、着替える前に写真を撮ろう」
3人の晴れ姿を永遠に残すため、カメラを引っ張り出してきてパシャパシャと何枚か撮る。
そうこうしていると、翔子がやってきた。
「とーちゃん、お帰り。もうご飯出来るよ。あ、着替えならボク手伝う!」
「じゃあ、任せた。今度はしっかりやるんだぞ」
後を翔子に任せ、食卓へと向かった。
食卓では、丁度夕食の準備が整う頃だった。
「お帰りなさい、お父さん。こちらへどうぞ」
理沙が椅子を引きながら俺を招いてくれる。
相変わらず行き届いた気遣いだなと思いつつ、「ありがとう」と告げて座る。
読書をしている巴も、「おかえり、パパ」と声をかけてくれる。
とりあえず、火を拝んだりはしていなくて安心した。
凛、美貴も席に着いており、沙織が料理を盛り付けている。
今日はハンバーグのようだ。これはみんな大喜びだろう。
しかし、凛と美貴は何だか不機嫌そうだ。というか、美貴に至っては目の周りが赤く、泣いた後のように見える。
俺にお茶を持ってきてくれた理沙に耳打ちする。
「今日、何かあったの?」
理沙は少し迷う素振りを見せた後、美貴に言った。
「美貴ちゃん、話してもいい?」
黙って頷く美貴を見て、理沙は言う。
「美貴ちゃん、学校で『将来の夢』っていうお題で、作文の発表があったんですけど。その時に『パパのお嫁さんになる』って言って、クラスの皆に笑われて……泣いちゃったそうなんです」
「ほう……」
微笑ましい話にも聞こえるけど、美貴はさぞ悲しかっただろう。
「そうか。それは……その、大変だったな、美貴」
気の利いた言葉も思いつかないが、とにかく美貴に話しかけた。
「あ、先生は何か言ってた?」
尋ねると、美貴は話し始めた。
「先生は、人の夢を笑ったらダメ、って言ったんだけど、男子が、親とは結婚はできないのに変だ、って言うの。そしたら先生も、確かに親と結婚はできないけれど、家族が好きという気持ちは大事でしょって。みんなもパパやママは好きでしょって言ったの。それで、男子も黙って、話は終わったんだけど、私は泣いたわ。
クラスのみんなもだけど、先生だってひどい。
放課後になっても泣いてたら、由佳ちゃんが慰めてくれた。作文読んだときは由佳ちゃんだって笑っててて、すごく腹が立ったけど、謝ったから許してあげたわ」
先生はちゃんと大人の対応をしてくれたようだな。でも、美貴はそれじゃ不満のようだ。
「先生の、何がひどいと思ったの?」
「だって、親と結婚できないなんて、あんなにはっきり言うことないのに」
笑われたことよりも、パパと結婚できないって知ったことがショックのようだ。
娘から、パパと結婚したいって言われるのは父親の夢だし、美貴の気持ちもとても嬉しい。
でも、ここまでくると少し心配になる。
「美貴は、パパと結婚できないってこと、知らなかったの?」
「そういう話を聞いたことはあったけど、まさか本当にできないなんて思わなかったわ。ねえパパ、本当に結婚できないの?」
真剣な表情で俺の腕を掴んで訊いてくる。
どう答えようか考えていると、俺に代わって凛が口を開いた。
「そんなの、できるわけないでしょ。パパはもうママと結婚してるんだし。馬鹿なこと言ってないで、パパなんかよりいい男見つけなさいよ」
「姉さんだって、少し前までパパと結婚したいって言ってたくせに」
美貴も反撃する。
すると、このややこしいタイミングで、翔子が食卓へやってきた。
「うん、言ってた言ってた。小1くらいの時だっけ? 美貴と同じで、パパのお嫁さんになるって学校で言って、みんなに笑われたって泣いてたよね」
案の定、火に油を注ぐようなことを言う翔子。
凛は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「小さいときはバカだから、そんなことだってあるわよ!」
翔子に続き、華弥たちもやってきた。
今回は朝と違い、翔子もちゃんと着替えさせてくれたようだ。
だが、愛たちにも先からの会話が聞こえていたらしく、
「パパと結婚できないの?」
と愛がベソをかく。
華弥と優結も泣き出しそうになるが、理沙が抱きしめ、慰める。
「大丈夫よ。パパはずっと一緒にいてくれるから」
我関せずの体で読書を続けていた巴も本を置き、続く。
「そう、大丈夫……。私も頑張って……パパと結婚できる……方法を探すから……安心して……」
「そんなのできるわけないわ」
と凛。
しかし巴は引き下がらない。
「姉さんと違って……私は諦めないわ……。
パパ、ごめんなさい……ゾロアスター教のことは……調べてもよく……分からなかったわ……。
そう簡単に……入れるものじゃ……ないみたい……。
でもパパ……私の将来の夢は……決まったわ。
大学へ行って……勉強して……パパと結婚する方法を……探す。
それでも分からなかったら……政治家になって……法律を変えるわ……」
俺は話の流れが読めず、「そうか」とだけ返す。
だが、愛たちは巴の言葉で落ち着いたようだ。
「巴おねえちゃん、がんばってください」
と愛。
「華弥もお勉強がんばります。」
「優結も!」
巴の話の意味はよく分かってないだろうが、健気なものだ。
美貴も元気を取り戻したらしい。
「ありがとう、巴。そうと決まれば、私も立派なレディになって、絶対にパパを振り向かせるんだから!」
どうと決まったのかよく分らないが、椅子から降りて、左手を腰に当て、右手の人差し指を俺に突きつける決めポーズのようなものをとった。
そんな姿がまた可愛らしく、俺は美貴の頭を撫でる。
「立派なレディにならなくても、今でもパパは美貴に夢中だよ」
なでなで。
美貴の顔は真っ赤になり、頬まで膨らませてまるでトマトのようになった。
「もう、そういうことじゃないのにぃ。(…………でも嬉しい)」
最後のほうはよく聞こえなかったが、何だか幸せそうで、見ている俺も幸せな気持ちになった。
凛は「ふん」とそっぽを向いているが、その顔が笑ってるように見えた。
一件落着、といった雰囲気が流れ始めたところで、沙織がパン、と手を叩く。
「じゃあ、ご飯にしましょう。ハンバーグが冷めちゃうわ」
「やったー! はんばぐー」
と愛。
「お肉をたべてお勉強がんばります」
と華弥。
楽しい夕餉の時間が始まった。
夕食後、お風呂に入る。
今日一緒に入っているのは巴、華弥、愛、優結の4人だ。
美貴も一緒に入る時があるのだが、巴曰く、
「美貴姉さんは、今日は泣いて顔が腫れてるから一緒に入らないんだって。
パパにはカラダが一番魅力的な時だけ見て欲しいって言ってたわ」
とのこと。
理沙、凛とは、小学校へ入学した頃から、一緒にお風呂に入るのをやめた。いつまでも父親が娘にベタベタするのも悪いかと思ってのことだったが、未だに構わずベタついてくる美貴や巴を見ていると、もう少し長く一緒に入ってもよかったかとも思う。
特に理沙は長女ということもあって色々と気を遣わせてしまっているから、お風呂のことも妹たちに遠慮させてしまったんじゃないかと気になってしまう。
ちなみに、翔子とのお風呂も一応小学校に入ったのを機にやめている。……はずなのだが、翔子は人が入っていてもお構いなしに乱入してくるのだ。まあフリーダムな翔子は好きにさせておいていいだろう。
我が家のお風呂は1人で入るには十分すぎる広さがあるが、大人1人と子ども4人が入ると流石に窮屈だ。
現在、湯船には俺と華弥、愛、優結の4人が入っている。もうイモ洗い状態だ。
しかし、今日の出来事を色々話してくれる幼い娘たちとの入浴タイムは至福の一時。
「おとうさん、私、今度はドレス着てみたい」
と華弥。
「私、今度はトンカツたべたい」
と愛。
優結はぷりっとしたお尻をこっちに向けて、湯船で犬かきをしようと奮闘中だ。
「よしそろそろ上がろうか」
3人を先に上がらせ、俺も続こうとすると、体を洗い終わった巴が3人と入れ違いに湯船へ入ってきた。
「パパ、今度は私と入りましょ……」
そろそろのぼせそうなんだが、まあいいか。
ガラガラ。
「とーちゃん、入るよー」
翔子までやってきた。
翔子の風呂はすごく早い。
まさに烏の行水という感じなのだが、決して不潔な様子はなく、しっかり洗えているようなので、要領がいいということなのだろう。
今もそそくさとシャワーを浴び、頭にシャンプーを振りかけている。
格好も性格も男の子みたいな翔子だが、こうして入浴する姿を見るとやっぱり女の子だなと実感する。
すらりと伸びた健康的な手足と、瑞々しく柔らかで綺麗な肌が魅力的だ。
そうして翔子に少し見惚れていると、巴に耳を引っ張られた。
「……パパ、こっちも見て」
「ごめんごめん」
いつも眼鏡な巴も、入浴時はもちろん外している。やはり見えにくいようで、やや眉根を寄せてた表情になるのだが、それがまた可愛らしい。
「……パパ、さっきの話……私、本気よ……。絶対……パパと結婚する方法を……見つけるわ……。
……だから、是非……お嫁にもらってね……」
「ああ、楽しみにしてるよ。
それから、七五三の着物、華弥に着せてくれてありがとう」
「うふふ……いいってことよ……。私はそのうち……本物の……ウェディングドレスを……着るんだもの……」
「そ、そうか……」
「とーちゃん、巴ちゃん、先にあがるね。ごゆっくりー」
巴と話しているうちに、翔子のお風呂はもう終わったらしい。湯船に入らずシャワーだけで済ませていることもあるが、本当に早い。
俺と巴も翔子に続き風呂から上がった。
お風呂から上がると、愛と優結が華弥の髪を乾かしてあげていた。
華弥も嫌がることなく、されるがままになっているが、何だかその姿はお姫さまと2人の侍女のようで、とても様になっていた。
でも、
「風邪を引くから早く服着なさい」
いつまでも裸なのはちょっとお姫さまっぽくないかな。
その後、歯磨き等を一通り終えた華弥、愛、優結を部屋に連れて行き、寝かしつけた。
リビングへ戻ると、巴が2階の自室へ行くところだった。
手には夕食前に読んでいた本を持っている。よく見ると、子ども向けの法律の本のようだ。図書館から借りてきたらしい。
「勉強もいいけど、ほどほどにして早く寝なよ」
「……おーけー」
親指を立てて部屋へ引き上げていった。
洗い物は、沙織と理沙が済ませてくれたようだ。寝るまではまだ時間がある。これからどうしようかと思っていると、翔子が近付いてきた。
「とーちゃん、ゲームしよー」
「よし、やるか」
まだそう遅い時間じゃないし、少しくらいなら大丈夫だろう。
そう思ってゲームの準備をしていると、お風呂へ向かう美貴と凛の声が聞こえてきた。今日は2人で入るようだ。
「凛姉さん、パパと結婚できないって知って泣いた時の話、教えて」
と美貴。
「な、何でよ。そんなの忘れたわ」
「そんなこと言わずに聞かせてよ。どうやって悲しみを乗り越えたの?」
何だか気になる話をしているな。ともあれ、あの2人も仲直りできたようでよかった。
「惜しい! もう少しだったのに」
「あはは。とーちゃんがボクに勝つなんて100年早いよー。もう1回、いっとく?」
「そうだな……、ってもうこんな時間か。もうやめて寝よう」
「はーい。明日またやろうね、とーちゃん」
翔子との対戦につい熱くなり、思ったより遅くなってしまった。
現在、お風呂は、凛と美貴に続き、理沙が上がったところのようだ。ドライヤーの音が聞こえている。
俺は少し晩酌をすることにした。
一人酒をしていると、パジャマ姿の理沙がやってきて隣に座った。
「今からお母さんがお風呂に入るんだって。さっきまで、優結ちゃんたちを見てたみたい」
「そうなんだ。理沙も遅くなってしまったね、色々手伝ってくれてありがとう」
「いえ、私は平気です。お父さんこそ、いつもお仕事ご苦労様」
「どうしたんだい、急に」
「ふふ。こうしてお父さんと2人でゆっくりできる時ってあまりないから」
「そうだな。理沙は一番お姉さんだからって、いつも苦労をかけてごめんね」
「ううん、そんなこと……」
「何かしたいこととかあったら言ってね。どれだけ応えられるか、分からないけどさ」
「私は別に……。あ、じゃあ、一つだけ、いいですか?」
「もちろん」
「その、今、お父さんのお膝に乗って、いい……ですか?」
理沙はとても恥ずかしそうに口にした。
「そんなの、お安い御用だよ。さあ、どうぞ」
椅子を引いて手を広げてあげる。理沙の可愛らしいお願いが愛おしい。
「それじゃあ、遠慮なく……」
理沙は耳まで真っ赤にしながら、俺の膝の上に乗る。
親子として普通の触れ合いだと思うのに、恥らう理沙を見ていると、こっちまで照れてしまう。
俺のほうを向いた理沙は、俺に胸に手を添える。その仕草が、抱きつこうとしてためらっているように思えたので、俺は思い切って理沙を抱きしめた。
「あっ」
「理沙、お前は俺の大事な大事な娘なんだから、遠慮なく甘えていいんだぞ」
「は、はい……」
理沙の艶やかな髪を撫でる。
理沙も俺の背に手を回し、抱きついてきた。
柔らかな体が密着し、風呂上りの火照りを伝えてくる。
理沙は、もともとが控えめな性格なうえに長女としての責任感もあるのか、妹たちに遠慮しがちだ。
その分、妹たちがいない時は、たまにこうして甘えてくることがある。だが、今日はそれだけではなさそうだ。
「今日の美貴ちゃんの話、どう思いました?」
「ああ、美貴、ちょっと可哀想だったな。でも、元気になってよかった」
「はい。……でも、私も思うんです。その、け、結婚とかは、よく、分からないですけど。みんなとずっと一緒にいたいって。
もし、みんなが誰かと結婚して、家を出て行って。それでみんながバラバラになったら、って思うと。すごく、怖いんです……」
そうか。美貴の話を聞いて、色々考えてしまったのか。
子どもが結婚して家を出て行く時を想像するのは、親にとっても寂しいものだが、子どもにとっても不安を感じるものなんだな。
「そうだね。お父さんだって、理沙が誰かと結婚して家を出るって考えたら寂しいよ。でも、それが理沙の幸せになるなら、応援したいって思う。
これから先、どうなるかなんて分からない。でも、少なくとも今は、みんな一緒だ。
今の幸せな時を大切にして、忘れないようにしていこう。
それにこの家に居たければ、ずっと居たっていいんだよ。絶対に出て行かなきゃいけないわけじゃない。
でも、もし、この家にずっと居ることより、大事なことや、幸せになる方法が見つかったなら、それを追いかけていけばいいいんだ。
それまでは、ずっと一緒にいよう。
結婚だってすぐにするわけでもないんだし、ゆっくり考えればいいさ」
ほとんど自分に言い聞かせるように、思いつくまま理沙へと伝える。
何か少しでも伝わったかな、と不安を感じていると、
「はい。いつか、その時が来るまで。ずっと、一緒にいます」
と、瞳を潤ませつつ言った。
そして、
「お父さん、好き……」
頬と、唇の間のあたりへ、口づけてきた。
「うん。俺も、世界で一番、愛してるよ」
俺も理沙の頬と、唇の間へ口づけた。
理沙が部屋へ帰ると、俺も自分のベッドへ入った。
そこでは、天使のような寝顔の華弥たちと、愛する妻・沙織が待っていた。
娘3人を挟んで向かい合った沙織が言う。
「パパって本当にモテモテね。私も娘たちに負けないわよ♪」
唇と唇で、愛を伝え合い、眠りについた。
ああ、俺は本当に世界一幸せだ。
人名にルビを振りました。(2014.4.22)
誤字を一箇所修正しました。(2015.3.15)
改行を増やす等、一部修正しました。
文章の内容自体は変更ありません。(2018.9.29)