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ギルバートの場合

ギルバート視点の話。

ギルバートは自分の顔が嫌いだった。強面で普通にしていても、怒っているとか不機嫌だとか誤解され、照れたり笑ったりする顔ですらどこか人に恐ろしさを感じさせてしまうらしい。30を超える見合いも、一目見た瞬間に相手が気を失ったり逃げ出したりがほとんどだった。

 幼いころつけられた「魔王」というあだ名が40を過ぎても領民たちの間での通称となっているくらいには、彼の顔は恐ろしかった。

 自分の容貌に対する人々の視線が嫌で、20を過ぎたころになるとめったに外には出ず兄の領地経営を手伝いながら半引きこもりのような生活を送っていたのに、幼馴染の友人リードが主催で開いたパティーに来いとむりやり引きずられるようにやってきた。

 自分とは違い要領のよい友人は王宮内では宰相としてめきめき実力をつけているらしい彼主催のパティーは大変盛大に行われた。

 ギルバートはきらびやかな人たちに気後れし、壁の方に移動して周りの様子を眺めることで時間をつぶそうとした。

 名目はリードの息子の誕生日会ということで、人の比率はどちらかといえば若い人が多い。40を過ぎた独身男がいるには少し肩身が狭かった。

  そうしてよく見ると、人波が男と女で大きく2つに分かれていることにギルバートは気が付いた。

 若く美しいドレスを纏った娘たちは、リードの息子を中心に集まり、男達は一人の女性に話しかけていた。

 男たちの壁の隙間からちらりと見えた彼女は、とても美しい少女だった。

 金髪に青い瞳、恐ろしく整った顔立ちの少女は、取り囲む男たちに対し始終笑顔を向け慣れていることだと感じさせた。

 彼女から目が離せずつい目でおっていると、肩を叩かれた。振り向くと、横にもう一人の幼馴染で王宮騎士をしている友人のマイクがいた。

「よっ、めずらしいじゃん。ギルがパーティーにくるなんて」

「マイクか、久しぶりだな。リードに連れられてこられただけだ」

「基本お前領地からでないひきこもりだもんな。まぁたまには外の世界を感じた方がいいっていうリードの配慮だろ」

 あまりにもあけすけな友人の台詞はギルバートの痛いところだ。そんな配慮はいらないと思いつつも、気にかけてくれたことがうれしいと感じてしまう自分に苦笑をする。

「で、さっきからギルは熱心に『高貴な薔薇姫』を見ていたみたいだけど、あの子すごい美人だろ?」

 マイクのいう『高貴な薔薇姫』が誰をさし、なおかつ見とれていた自分を見られていたという事実に顔がこわばった。

「何がだ」

 普通の人間ならビビッてしまうような不機嫌な顔になっているはずだが、ただ照れているだけだとわかっている友人は笑ったまま聞かれてもいないのに彼女のことをぺらぺらと話し出した。

 国でも大貴族の公爵家の末娘で、名前はマリア。16歳。親兄弟の愛情を一身に注がれて育ち、13歳で社交界デビュー、他の兄弟たちとは違い婚約者がいないので多くの男たちからアプローチをうけつつもすべて断り、ついたあだ名が『高貴な薔薇姫』。どんな男が彼女を落とすのかと賭けまで行われているという。

(正に高嶺の花だな)

 全てにおいて自分と釣り合わない相手に、彼女のあだ名はまさにぴったりだと思った。

 自分には手の届かない世界の住人をこうして遠くから眺めている時点で、わかっていることだ。特にさびしいともむなしいとも思わない。

 すでに結婚に夢も希望もなかったギルバートは、幸せな将来をつかむであろう輝かしい少女を再度眺めようと友人から彼女に視線を移すと、なぜかこちらを見ていたマリアと視線が合った。

 マリアは周りの男性たちに断りをいれるとギルバートとマイクの立っていた壁の所までやってきた。

「はじめまして、私マリア・リィ・エリストンと申します。貴方様のお名前を教えていただいてもよろしいですか?」

 優雅に礼をしてから、ギルバートに微笑みかけるマリアに周りがざわめいた。この時、ギルバートは知らなかったのだが、何もしなくても勝手に周りが話しかけてくるマリアにとって、マリアから初対面の男性に話しかけることなどそれまでなかったことだったのだ。

 ギルバートはいきなりの出来事に助けを求めるように、隣に立っていた友人を見る。マイクは少し目を見開いて二人を交互に見ていたが、静観することに決めたのだろう場から一歩退いて集まってきた野次馬達に紛れてしまった。

 薄情な友人に怒りつつも、淑女から名乗られたのにいつまでも返事をしない礼儀違反をするわけにもいかないと、動揺する心を抑えてギルバートは少女に名前を告げた。

「ギルバート・リィ・フォンデュだ」

 この出会いはただお互いに名乗りあっただけで、すぐに周りにいた男性たちが彼女を守るように連れて行ったことで終わってしまった。

 しかし、この日を境にリードからパーティーに無理やり連れて行かれ、そのたびにマリアに会うようになる。

 マリアは会うたびに自分に話しかけてくるが、気のきいたことなどなにも言えないギルバートは逃げるようにその場を後にすることで精一杯だった。

 何度か同じことを繰り返していくうちに、ギルバートは自分がからかわれているのではないかと思い友人たちに相談してもニマニマとした笑いをうかべてはぐらかされまったく要領をえない。

 だから本人に直接聞いた方が早いと思い、はじめて自分から声をかけた。

「どうして私なんかに話しかけてくるんですか。見ての通り、私は貴方より20歳以上も年上で人から怖がられる顔だし、口下手で、人見知りで、独立もしないで兄世話になっている。自分で言うのもなんですが、ろくでなしのだめ人間です」

 自分を貶める言葉だがが、事実である。なのに、彼女は「それがどうかしたのですか?」とまるでなんでもないことのような顔をした。

 不思議そうな顔でそういわれて、逆に言葉につまったギルバートはまた逃げるようにその場を後にした。

 このままではいけないと、君にはもっと似合う相手がいると言葉を尽くしても彼女は全く気にしないでにこにこと笑っている。

「ギルバート様は私のことがお嫌いですか?」

「いや・・そんなことはない・・・」

「私はギルバート様のことが好きです」

 同じようなやり取りを何度繰り返しただろう。子供ながらの率直な好意に次第にほだされていくのを感じながらも、後ろ向きなギルバートはマリアの想いに応えることを引き延ばしていた。


 


 自分よりずっと年下の少女の愛に振り向くまで、まだまだ時間がかかりそうであった。

 

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