(1)どうしてこうなった(全部私のせいです)
かつて、若き国王フェリクス様が国政を担い始めた頃。
「若い王などすぐに壁にぶつかるだろう」と高をくくっていた重鎮貴族たちは、王家を意のままに操ろうと裏で暗躍していた。
だが、彼らにとって最大の誤算――それが、正妃セレフィーナ様だった。
旧フェルゼン帝国の皇女である彼女は、息を呑むほどの美貌だけでなく、驚異的な聡明さを備えていた。山積する難局を次々と完璧に処理し、夫であるフェリクス様を完璧に補佐していく。彼女が睨みを利かせている限り、腐敗貴族どもが付け入る隙など、王宮のどこにも存在しなかったのだ。
そう、誰もが認める完璧な国母――のはずだった。
――それが。
「セレフィーナ! 貴様の悪辣な所業、もはや見過ごすことはできん! 王城の使用人を虐げ、果ては余が心から愛するコレットと、その身に宿った余の子の命まで狙うとは……! 貴様のような嫉妬に狂った悪女など、王妃の座はおろか、この国にいる資格すらない! 今すぐ国外へ追放処分とする!!」
絢爛豪華な大広間に、フェリクス様の怒声が響き渡る。
壇上には、おびえた被害者を必死に演じている私――元男爵令嬢の側妃コレット。
そして床の上で、いわれのない罪を突きつけられながらも、背筋をピンと伸ばして冷徹な瞳で見据えてくるセレフィーナ様。
絵に描いたような「真実の愛による悪女の断罪劇」。
取り巻きの貴族たちが嘲笑を浮かべる中、衛兵の手によってセレフィーナ様は大広間から連行されていった。
……。
…………。
は????
何、勝手に国外追放してるのーーーーー!?!?!?
いや待って! 待って待ってフェリクス陛下、話が違いすぎます!!
聞いてた筋書きと全然違うんですけど!?
事前の打ち合わせでは「離宮への幽閉」か「辺境での蟄居」って言ってたじゃん!
あの黒幕貴族たちだって「権力は奪うが、国政に行き詰まったら幽閉先でその頭脳を利用する」っていう、図々しくも国家を破綻させないための保険を残す腹積もりだったでしょう!?
国外追放って何!? 完全に手放しちゃったよこの人!!
あの超ド級チート頭脳を国外にポイ捨てしたら、あの毎日山のように届く難しい書類、誰が見るの!? 私!? 「あ、はい、分かりましたぁ」って怪しい予算案に全部ハンコ押しちゃうよ!?
どうしてこんなことになっちゃったの!?!?
……いや、加担した私が一番悪いんだけど!!
「コレット、もう怯えなくていい。これからは、そなたをこの国唯一の王妃として、余が守ろう」
私の手を取り、やけに晴れ晴れとした、けれどどこか虚ろな笑顔を向けてくるフェリクス陛下。
その顔を見つめながら、私の胃の底は今にも裏返りそうだった。
(いやいやいや笑顔で私の手を取ってる場合じゃないから!! あの完璧超人のセレフィーナ様を完全に追い出しちゃったんだよ!? 私ひとりで王妃のお仕事とか絶対無理だから!!)
頭の中で警報が鳴り響く。
カンカンカンカン! 危険! 詰みです! 間もなく、この国終わります!
事の発端は、ほんの一年前。
のどかなド田舎で「今年も春植えのジャガイモがよく育ったわね〜」なんて平和に暮らしていた私のもとに、怪しすぎる手紙が届いたあの日からだった――。




