316話 試合開始のCブロック
Bブロックの試合が始まり、Cブロックの試合が始まる。会場では司会の声が響き渡り、部屋で待機していたCブロック参加者たちの耳にも届いてくる。
その中に、彼……コーロラン・ラニ・ベルザはいた。
先ほどまでの試合を見て、コーロランの胸は熱くなっていた。
Aブロックでは妹であるコロニアが、Bブロックでは兄であるゴルドーラが。それぞれ、白熱した戦いを繰り広げていた。
どちらも勝ち残るまでにはいかなかったが、それでもその姿は今でもまぶたに焼き付いて離れない。
「ふぅ……」
Cブロックの試合の準備も終わったようで、何度か深呼吸を繰り返す。
改めて周囲を見回せば、様々な人がいる。見たことのある顔、見ない顔。魔導学園関係者、冒険者、その他……
「けへへへ! オラっちがナンバーワンだ!」
コーロランのように静かに構えている者もいれば、なんかすごい騒いでいる者もいる。
スキンヘッドの男が、声高々に騒いでいる。周囲の人間はなにも言わないものの、白い目で見ている。
上半身は裸で、所々傷だらけ。間違いなく貴族ではない……冒険者かなにかだろうか。
なんにせよ、見た目で判断する訳ではないが……ああいった輩は、すぐに脱落してしまうだろう。
「……そろそろか」
Cブロック試合が始まると、司会がアナウンスし……それぞれ、参加者たちは動き出す。
気合いを入れている者や、見た感じ気を抜いていそうな者と様々だ。
魔導大会は、コーロランにとって一つの目標でもあった。
大会に出場制限はないが、コーロランは学園に入学してから参加することを決めていた。学園で自分の力を高め、それを確かめる。
とはいえ、これまでに目立った功績を上げられているわけでもない。エランのクラスに試合を挑んだが、見事に完敗……
それからは、自分を見直して魔導を学び直した。
王族として、一人の魔導士として……
「あまり、緊張されませんよう。
コーロラン様なら、素晴らしいパフォーマンスができるはずですよ」
「! リリアーナさん……」
ふと、コーロランに話しかけてくる声があった。
リリアーナ・カロライテッド……魔導学園生徒会副会長にして、兄ゴルドーラの婚約者だ。
きれいな人で、ひと目見た瞬間その美貌に見惚れた。
婚約者というが、それは形ばかりではなく、彼女は本当に兄が好きなのだと、知っている。
コーロランにも婚約者はいるが、こちらは本当に形ばかり、といった関係だ。関係は良好とは、とても言えない。
なので、兄が羨ましいことこの上ない。
「様はやめてください、先輩じゃないですか」
「いえ、王族相手に敬意は払わなければ」
……学園では、王族相手だからといって畏まる必要はない、としている。
しかしリリアーナは、ゴルドーラに対しても年下のコーロランに対しても、その姿勢を崩すことはない。
それが彼女らしいと言えば、らしいのだが。
初めて会ったときから、彼女はこんな感じだ。ゴルドーラはもちろん、コーロランにも、妹のコロニアにも。
もちろん、それが悪いこととは言わないが。
「もう入場です。コーロラン様、お手柔らかにお願い致しますね」
「……こちらこそ」
参加者たちは、部屋を出て、廊下を歩き……ついに舞台上へと、立った。
湧き上がる歓声、圧倒的な熱量……ただ見ていただけのものとは、まるで違う。観衆に囲まれ、注目されている。
それは、この場に立った者しかわからない感情だった。
『さあ、いよいよCブロックの選手たちが出揃いました! 果たしてこのブロックを勝ち残るのは誰か! 王族コーロラン選手か、ソロ冒険者パパピン選手か、有名貴族ドリア選手か! はたまたダークホースが隠れているのか!
この私、今から胸が熱くなって、目が離せそうにありません! まあ、司会なので目は離すことはないんですがねがははは!』
「うるせー! 面白くねえんだよ!」
「さっさと始めろ!」
盛り上がる司会、それに野次を飛ばす人々。司会は一瞬しゅんとするが、すぐに切り替える。
切り替えの良さが彼の良いところでもある。
『皆さん待ちきれないようです! では、早速始めていただきましょう!
Cブロック、試合開始!』
もはやお約束になりつつあるやり取りの後、試合が始まった。
各、一斉に動き出す。そんな中……
「…………降り注げ、雷降万柱!!!」
一つの魔術が、唱えられた。それは、コロニアのように無詠唱で、というものではない。
しかし、唱えられたそれはこの場で誰よりも早く、その言葉は紡がれた。
天へと掲げられた杖の先端が光り、空模様が変化していく。
先ほどまで快晴であった空は、ゴゴゴ……と雲が集まり、ゴロゴロと音が鳴る。暗雲立ち込める天から、眩く光る雷が会場へと落ちる。
しかも、何本もだ。
『おぉっと、これは魔術か!? それも……これは、雷の属性だろうか!
魔術には基本的に火、水、土、風属性しかないとされているが、だとすればこれは複合魔術だろうか!』
「ふぅーっ……早口影響が、ボックの特技でねぇ」
『その魔術の術者は、ナーダ・デルマニ! 魔術の早撃ち魔導士として有名だ!』
天から降り注ぐ何本もの雷。その魔術を放った男は、髪をかきあげてため息を漏らしている。
そのため息は、自分に対する賛美のようだった。
司会が言ったように、魔術は基本的に四つの属性に分けられる。これは、そのどれにも検討しない。
もっとも、以前魔獣騒ぎでエランが放った氷属性の魔術のように、二つの属性の魔術を組み合わせ新たな属性の魔術を生み出すことはできる。
単一魔術はある程度決められた詠唱があるが、複合魔術は個人で開発するもの。ゆえにそれがない。
初めて見る者も、多く……なにより、複合魔術を行える者は、ただ魔術を使うよりもより才に溢れているということだ。
「……っ」
まさかこんなにも早く、しかもこんな大規模な魔術を使うとは。
強大な魔術を単純に放つだけなら、防ぎようはある。だが、降り注ぐ雷撃を防ぎ続けるのは至難の技だ。
コーロランもリリアーナも、なんとかかわせてはいるが……
「さあこのまま! ボックの単一勝利で決まぶべらっ!?」
……その瞬間、魔術が急に止まった。
効果を発動した魔術が止まるのは、その効力を発揮し尽くしたときか、魔術を打ち消されたときか……はたまた、術者の意識が飛んだときか。
「けへへへへーぇ! こんなもんかよ魔導士さんよぉ!」
先ほどのスキンヘッドが、ナーダの顔面を吹き飛ばし、その意識を軽々と刈り取っていた。




