235話 魔人
ノマちゃんを、あんな目に……殺そうと、した。そう、レジーは悪びれもなく言う。
それを聞いた瞬間、私の中で血が熱くなっていくのを感じる。
この気持ちは……怒りだ。
「お前……!」
「あー、誤算ってのもちょっと違うか。元々は"そういうつもり"でやってたことなんだからな」
私の怒りに気づいているのかいないのか……いや気づいていないわけがない。私が怒っているとわかった上で、こいつはヘラヘラと笑っている。
私を怒らせたいなら、それは正解だ。私は今、こいつを思い切りぶん殴ってやりたい。
それどころか……
「おいっ、いきなりどうしたというんだ!」
「……」
レジーの襟元を掴み上げる私の手首に、ルランが触れる。その感触に少しだけ頭が冴えて、手を離す。
少し浮いていたレジーは、受け身も取れずに地面に落ち尻をつき……げほげほ、と咳き込む。
けれど、その表情から笑みが消えることはない。あぁ、なんて腹立たしい顔なんだろうか。
「……そういえば、俺が手を下したわけじゃない、魔石による被害者が出たと聞いたな。
まさかそれが……」
「……」
ルランも、どうやら話くらいはわかっているみたいだ。ルランがやったのとと同じ手口で、被害者が出たこと……いや、元々ルランはレジーたちの真似をしていたんだから、同じ手口ってのも違うか。
なんにしても、被害に遭ったのが、私にとって大切な人だというのは、理解したみたいだ。
……やっぱりルランは、あれ以降事件は起こしていないようだ。その理由は今は、どうでもいい。
今は……
「おーおー、怖い目だ。アタシを殺したい、そう思ってるな」
「殺してやりたいとは思ってるよ」
初めてだ……誰かに対して、こうも怒りの感情を覚えたのは。
そうか、これが……殺意、ってやつか。
ただ、まだだ……まだ、こいつには聞かなきゃいけないことがある。
「さっき……まじん、とかなんとか言ってたよね。それ、どういう意味」
「どういうもなにも、言葉通りの意味さ。
そもそもアタシらが人間に魔石を飲ませてたのは、魔人を作り上げるためだったんだからな」
隠す気はないのか、私の質問に素直に答えている。ただ、質問の意味に対しての答えではない。
魔人、ってのがなんなのかはわからないけど、どうやらそれを作り出すために、こいつらは人々を襲い続けていたみたいだ。
……そして、ノマちゃんがその、魔人という存在なのだと。
「魔人って、なに」
「おいおい、こんなとこでのんきに話してていいのか?
オミクロンを倒したあの二人、さっきからお前を探しているみたいだけど……」
「……質問に答えろよ」
ゴルさんと先生は、私を探してくれている……二人の視点だと、ダークエルフが現れて眠らされて、気がついたら私だけいなくなっていた。
しかも、目が覚めたら魔獣が町中で暴れ回っていたんだ。私を探すどころじゃなかっだろう。
で、落ち着いた今探してくれている……
その気持ちはありがたいけど、私は今、こいつから目を離すわけにはいかない。
「おー怖。まあ隠す必要もないから、特別に教えてやろっかなー」
……教えるつもりはない、と突っぱねることもできるだろう。だけど、そうしない。
むしろ教えると言って、今みたいに焦らすことで、私の気持ちを逆なでしているようにすら感じる。捕まって、抵抗もできない相手に、いいように転がされている。
「まあ教えるっつっても、本当に言葉通り以上の意味はない。魔と人の中間にある存在……それが魔人さ」
「……魔物や魔獣とは、違うの?」
「あれらは魔の獣だろう? そうじゃねぇ……人が、人のまま魔の力を手に入れた存在。純粋な人間でも、魔族でもない存在のことさ」
魔人……聞いたことないけど、言葉通りの意味ってことか。魔の人ってことで、魔人。なんか、すごい物騒な響きだ。
そう、ノマちゃんには人の血と魔の血が流れていると言っていた……って、ことは……
魔石が人の体内に流し込まれて、魔石に溜まっていた魔力が弾ける。それが体内で暴れ回り、普通なら死んじゃうけど……どういう理由か、二つの魔力が混ざりあった。
それが、魔人と呼ばれる存在だと。でも……
「でも、肝心なことを聞いてない。魔人ってなに。言葉通り以上の意味はないって言ったよね、だったらなんでノマちゃんを魔人なんかにしたの。魔人ってのがなんなのか、知ってないとこんなことしようとは思えない!」
のらりくらりとかわされているが、こいつはやっぱり核心は隠している。言葉通り以上の意味はないとか言いながら、本当は知っているんだ。魔人っていうのがなんなのか。
それを教えようとしないのは……私への嫌がらせか……?
知らなければ、わざわざあんな大勢殺してまで魔人を作ろうとはしない。
そう、魔人がどういう存在なのかを知っていないと、あんな事件は起こさない。だから、こいつは知っている!
「別にそのノマってのを魔人にしたくてしたわけじゃねぇよ。たまたま、そいつに適正があっただけのことだ。数撃ちゃ当たるって言うだろ……」
「そういうことを聞いてるんじゃ……!」
「おいよせ。……こいつはおそらく、なにも話すつもりはない。ただ俺たちを弄んで楽しんでいるだけだ」
ルランに止められ、私は荒くなった息を整える。落ち着け、深呼吸だ……
この女が、なにも話すつもりはないというのはわかった。結局わかったのは、ノマちゃんが魔人っていう存在になったってことだけ……その魔人が、なんなのかもわからない。
たとえなんであっても、私はノマちゃんの味方だけど。
「……ルラン。キミもこいつを許せないのは、わかるよ。でも、私だってこのままこいつとはいさよならするわけには、いかない」
「……言っておくが、人間に渡すつもりはないぞ。お前たちの監視下に置かれれば、俺が簡単にこいつに話を聞きに来れなくなる」
この飄々とした態度が続く限り、ダークエルフのことも魔人のことも、いつ聞き出せるかわかったもんじゃない。
喋りたくなるまで弱らせるか、他の方法を取るか……とにかく、時間が必要だ。
「わかってるよ。……一つ、考えがある」
これまで話をしていて、気持ちを乱されたりしていたけど……一旦落ち着いてみると、思い出したことがある。
それは、師匠との生活の中で教えてもらったもの……聞いても、絶対に使わないだろうと思っていたし、師匠も私が使うと思っていなかったかもしれない魔法の話。
……『絶対服従』の魔法。それを、今からレジーにかける。
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