野盗
馬車の外に出ると、そこは森の中の一本道のようだった。
その途上で馬車が立ち往生している。
馬車の行く手を邪魔するように立ちふさがっているのは、野盗と思しき武装した粗野な男たちだ。
その数は、正面に立ちふさがっている者と周囲の森に隠れている者を合わせると、全部で二十人から三十人程度といったところか。
剣や斧、槍、弓などといった思い思いの武器を手に、へらへらとした笑いを浮かべている。
そして男たちは、馬車の中から姿を現した俺たちの姿を見て、一斉にどよめいた。
彼らは口々に、歓喜の言葉を漏らす。
「ひゅーっ! おいおい、極上の獲物が乗っていやがったぜ」
「とんでもねぇ美少女が四人もいやがるとはな。ははっ、今日の俺たちはツイてるぜ」
「けどよ、格好を見た感じ、あんなかわいいナリして全員が冒険者ってわけか?」
「ヤだぁ、僕ちゃん怖ぁい。殺されちゃう~」
「ははははっ。油断して殺されたやつぁ、あの極上の女どもにありつけねぇってわけだ」
「よぉし、通行料を払ったら通してやるつもりだったが、計画変更だ。──全部奪うぜ。男は殺す、女は生け捕りだ。一人も逃がすなよ。気合い入れろよテメェら!」
「「「おうっ」」」
五倍ほどの人数差があるせいか、俺たちが冒険者であると見込んでも、男たちは強気だった。
まあ、そこはそうなるか。
普通の実力の冒険者では、この人数差をひっくり返すことなど到底不可能だ。
ちなみに乗合馬車の御者はというと、護身用らしき槍を一振り携えてはいるものの、男たちの圧倒的な人数を前にして腰を抜かしているようだった。
ううむ……どうも穏便に切り抜けるのは難しそうだが。
まあ一応、呼びかけるだけはしておくか。
俺は御者を守るようにして男たちの前に出ると、彼らに向かって声をかける。
「あー、お前ら。今ならまだ見逃してやることもできるが、痛い目を見る前に立ち去る気はないか? 悪いが戦力は俺たちのほうが圧倒的に上だ。俺たちを攻撃しても、お前らは何も得られない。ただ失うだけだ」
すると俺の言葉を聞いた男たちは、どっと笑った。
「ぎゃはははっ! おいおい今の聞いたかよ! 『悪いが戦力は俺たちのほうが圧倒的に上だ』だってよ!」
「脳みそ湧いてんのかおっさん? そんな歳にもなって英雄ごっこかよ、あぁん?」
予想通り、男たちは聞く耳を持たなかった。
だよな、分かってた。
そんな俺のもとに、ミィナ、エレン、セラフィーナの三人が寄り添ってくる。
「はぁーっ。せっかくのダグラスの厚意を笑って、ムカつくやつらにゃね」
「ま、しょうがないでしょ。全員バカそうだし。こういうやつらは、実際に痛い目を見なきゃ分からないよ」
「虫けらどもがダグラス様の善意を嗤ったことは、万死に値します。最低でも全員半殺しですね」
「いや、落ち着けセラフィーナ。わざわざ同族殺しをして、お前らの手を汚すこともないだろ。自衛の結果殺しちまうのは仕方ないと思うが、なるべく痛めつけるだけで済まそうぜ」
「別にこんなやつらなら、殺してもいいと思うけどね。ボクたちが見逃したら、ほかの旅人を襲うんだろうし。いっそここで全滅させたほうが世のため人のためだよ」
エレンもそれなりに長く冒険者をやっているだけあって、そのあたりはドライだな。
まあいずれにせよ、一番大事なのは俺たち自身の身を守ることだ。
俺はまず【守護乙女の祝福】を発動させる。
それを見た三人の嫁たちは、俺に口づけをしてくる。
三人の姿が光り輝き、ミィナ、エレン、セラフィーナは可憐な神装へと変身を遂げた。
それを見てぽかーんとした様子を見せるのは、俺たちを襲おうとしていた男たちだ。
「な、なんだぁ……!? 女の格好が……変わった……?」
「ヤベェ、なんだあれ……天使か女神か、伝説の戦乙女か……俺、夢でも見てんのか……?」
「ごくっ……。ただでさえ極上の女どもが、神々しく化けやがった……」
「ははっ、たまんねぇな……! こんな女どもを襲える機会なんて、一生に一度もねぇぞ。今日はなんて日だ」
俺の嫁たちを見る男たちの目が、さらなる欲望の色を帯びる。
……なんか妙な副作用があるな、【守護乙女の祝福】。
まあ俺も最初に見たときはだいぶハァハァしたし、分からんでもないが。
一方でこちら側にも、驚いている人物がいた。
弓を手にした少女ビナーが、目を丸くして三人の神装少女を見る。
「そ、それは、何です……? まるで神器の力のような……」
そうつぶやくビナー。
俺はその言葉に、引っ掛かりを覚えた。
「……ん? ビナー、お前さんも『神器』ってものを知ってるのか? 俺はこの間、ティフェレトって女剣士から初めてその名前を聞いたんだが」
「え、ティフェレトって……ティフェレトちゃんに会ったんですか!? ──じゃあまさか、ティフェレトちゃんが言ってた『強いやつ』って、ダグラスさんのこと……?」
「待て、ビナー。その口ぶりだとお前さん、ティフェレトと知り合いなのか?」
「え、ええ。だって私は──」
話がキナ臭くなってきた。
だがそんな俺たちの会話を断ち切るように、野盗のリーダーと思しき男が声をかけてくる。
「おいおい、俺たちを無視して世間話とは、ずいぶん余裕じゃねぇか。──おっさん、あんたは邪魔だからもう死ね。おいお前ら、やっちまいな」
「「「おうっ!」」」
ビナーと話の続きをする間もなく、男たちが襲い掛かってくる。
──ちっ、仕方ねぇな。
話はあとだ。
「ミィナ、エレン、セラフィーナ、仕方ないからやるぞ。自分の身を守るのを最優先にして、できれば御者も守ってやってくれ」
「了解にゃ!」
「任せて、ダグラス!」
「かしこまりました、ダグラス様」
よし。
俺はさらに、もう一人の少女に手短に問う。
「ビナーは、自分の身は自分で守れるか?」
「えっ……? は、はい。少なくとも、守ってもらう必要はないです」
「よし、いい子だ。──ロンバルディア、【手加減】を使うぞ」
『承知した、わが主よ』
スキルの発動と同時に、ロンバルディアの刃が薄緑色の淡い光を帯びる。
これでロンバルディアは一時的に刃の切れ味を失い、なまくらになった。
ぶん殴ることしかできない武器に変わったわけだが、ここではそのほうが都合がいい。
「い、いい子って……多分ダグラスさんより私のほうが、だいぶ年上だと思いますけど……」
一方でビナーは口をとがらせて、少し不服そうにした。
やはり見た目通りの歳の少女ではないようだが、その辺の話もあとでいいだろう。
そうこうしていると、男どもが武器を振り上げ、ついに目の前までやってくる。
「よし、それじゃやるか」
俺はロンバルディアを手に、ずんずんと前に進んでいった。





