エピローグ
翌朝──
……と言いたかったのだが、ほとんど夜通しオーレリアや嫁たちとまぐわっていて早朝になってから眠りについたせいで、実際には翌昼のこと。
俺たちとオーレリアは商業都市ベルフォードを出たところで、互いに別れを告げる。
「世話になったな、ダグラス、エレン、そしてほかのみなも。またいずれ、会える日があれば」
「うん、楽しかったよ、オーレリア。……ぐすっ、またね。一緒にまたエッチなことしようね……?」
「な、泣くなエレン……私までもらってしまうじゃないか……。私はエレンのことは、種族は違えど姉妹のように思っている。集落のほうが落ち着いたら、必ず連絡をするよ」
「ぐすっ……絶対だよ……? 嘘ついたらボク、オーレリアのことを(ピーッ)で(ピーッ)して(ピーーッ)にしちゃうからね……?」
「ああ。それはちょっと魅力的な罰だが──絶対だ」
エレンとオーレリアは、互いに涙を流してひしっと抱き合う。
……話の内容のせいで感動の別れのシーンが台無しな気がするのだが、本人たちはどうもそれでいいらしい。
俺は多少呆れつつも、エレンとの抱擁を終えたオーレリアに右手を差し出す。
「いろいろあったけど、俺も楽しかったよ。またいずれ、会えるといいな」
「ああ、ダグラス殿。そのときにはまた、私のことをたくさん蹂躙してほしい」
「……そ、そうだな」
オーレリアは手で涙を拭ってから、俺とがっちり握手をする。
セリフが相変わらずアレだが、多くは望むまい。
その後、オーレリアは俺と軽く抱擁をすると、ほかの仲間たちとも同じように別れの挨拶をしていく。
そしてオーレリアと俺たちは、別の道を往く。
オーレリアは、故郷であるエルフ集落への道を。
俺たちは、まだ見ぬ新天地への道を。
空を見上げれば、良く晴れた日の青空が、どこまでも続いていた。
***
一方、どことも知れぬ日の、どことも知れぬ場所。
とある薄暗い集会室の円卓に、十人の男女が集まっていた。
集会室に最後に到着したのは、“竜神器十将”の中でも最強の一人に数えられる黒髪の女剣士、大剣使いのティフェレトだ。
ティフェレトは悠々と集会室に入ってくると、悪びれた風もなく言う。
「やあ悪い悪い、遅くなった。ちょいと面白い人間に出会ったせいで、面白くない思いをしちまったもんでね。腹いせに弱っちい騎士団一個潰してたら、夢中になりすぎて集会のこと忘れててさ。慌ててすっ飛んできたってわけよ」
「……ティフェレト、機が熟すまでは、あまり派手に動くなと言っておいたはずだが? まあいい、座れ」
「あいよ」
メンバーのうちの一人から小言を言われても、ティフェレトは意に介した様子もなく、自分のために用意された席についた。
そうして十人全員が揃ったのを確認すると、ティフェレトに小言を言った男が立ち上がる。
彼は芝居がかった口調で、高らかに謳った。
「──諸君、ついに我らの悲願のときが来た! 我らが竜族の女王、十の首を持つ竜王セフィロトの復活の日は近い。──我ら竜人族を虐げてきた人間どもを、この世界から駆逐するときがついに来たのだ!」
「あ、あのぅ……ケテルさん、いいですか……?」
そう言って小動物のようにびくびくと怯えながら挙手をしたのは、円卓のメンバーの一人、人間であればまだ十代中頃にも見える少女だった。
立ち上がって演説をしていた男──少女がケテルと呼んだ男は、やや機嫌を損ねたように声を返す。
「……なんだ、ビナー。人間どもとの融和をという話なら、すでに聞き飽きたが」
「で、でも、その……駆逐するとかそういうのじゃ、あんまりみんなが幸せにならない気がするっていうか……復讐の連鎖は良くない気がするっていうか……」
ビナーと呼ばれた少女はおずおずと言うが、相手の男ケテルがそれをぎろりと睨みつけると、少女はヒッと悲鳴をあげて小さくなった。
一方で、別の人物からは、「ほっほっ」と老人らしき笑い声が上がる。
「ビナーや、お主も知っておろう。過去に人間どもは、我ら竜人族の力を恐れ、迫害し、絶滅させようとした。やつらはその報いを受けねばならん」
そこにさらに、別の少年らしき声が重なる。
「そうそう。向こうが最初にやったんだから、今度はこっちの番ってこと。何にもおかしなことはないだろ?」
「で、でも……それは何百年も昔の話だし……人間たちの寿命は百年もないから、今の人たちには関係ないかもしれないっていうか……」
なおもおずおずと言う少女だが、次に口を挟んだのは、大剣使いのティフェレトだった。
「あのさぁビナー、知ってる? この世の中ってのは結局のところ、弱肉強食なわけ。人間たちが強けりゃあたしらを絶滅させようとするし、あたしらが強けりゃ人間どもを根こそぎにするって話さ。──それにもう一つ言っとくと、別にあたしらも仲良しこよしをする必要はないんだよ? あんたが人間側につきたいなら、そうすりゃあいい。それならビナー、あんたとあたしとは敵同士になるってだけさ」
「てぃ、ティフェレトちゃん、そうじゃなくて……!」
「──もういい」
立ち上がっている男、ケテルが議論を止めるように強い言葉を放った。
そして少女ビナーを見捨てるように言う。
「我々竜人族の悲願を果たすため、計画に賛同する者だけ共に戦ってくれればいい。私は戦いを忌避する者を、裏切り者呼ばわりはしない。だが邪魔をするならば同族とて容赦はしない。それだけを覚えておいてくれればいい」
「ううっ……分かりました……」
少女は肩を落とす。
その瞳には、あきらめの色が映っていた。
集会の場を仕切る男ケテルは、そんな少女の様子を見て嘆息してから、再び円卓の全員を見回して言う。
「さて皆の者、我らが女王復活のために為すべきことは分かっているな?」
「ほっほっ、分かっておるともケテルの。この竜神器に血を吸わせることじゃろう?」
そう言って老人姿の影が立ち上がり、杖を掲げてみせる。
「弱いやつの血なら山ほどの数が必要、強いやつの血ならそんなに多くの数はいらない、だったよね? 僕は弱い人間をたくさん殺して回りたいな~♪」
少年らしき影もまた立ち上がり、槍を掲げてみせる。
「血を吸わせるってのは、殺すって意味だったね。ちなみに『強いやつ』には、あたしは一人、とっておきのやつに心当たりがある。運が良けりゃあ、そのうちまた出会うこともあるだろうさ」
黒髪の女剣士ティフェレトも立ち上がって、その大剣を掲げてみせる。
その場にいたほかの者たちも、立ち上がって自らの手の武器を掲げ、うなずいた。
ただ一人、うつむいた少女ビナーを除いてだが。
場を仕切る男ケテルは、鷹揚に首肯して言う。
「そうだ。それこそが我らが女王復活のために必要な儀式だ。──さあ、人間どもに対する反逆のときは来た! 我ら竜人族と竜族の世を作るため、人間どもを皆殺しにするのだ!」





