新たな地と出会い
エルフの集落を襲う古竜を倒した俺たちは、エルフの魔法剣士オーレリアと別れると、ウェントワース王国の領土を出て隣国へと向かった。
もっと力をつけるための武者修行がてら、かわいい嫁たちとともにのんびり世界旅行をしようというのが今の俺の目的だ。
そうしてたどり着いたのは、森林王国ラクリース。
豊かな自然を活かした素朴な国で、水と果物と野菜がおいしいことで有名だ。
俺と嫁たちは今、そんなラクリースでもそこそこ発展した商業都市に来ていた。
昼下がりに目抜き通りを歩いていれば、あちこちの屋台や露店から物売りの威勢のいい呼び声が飛んでくる。
塩焼きにした肉や魚、あるいは香ばしく焼かれたパンや果物を詰めたパイなどのいい匂いがあちこちから漂ってくる。
さらには煮物や漬物なども売られているし、新鮮な生の果物や野菜の叩き売りなども見られる。
「活気があって、いい街ですね、ダグラス様」
俺の隣に寄り添ったセラフィーナが、街の様子を見ながらそう声をかけてくる。
銀髪の少女の小さな右手は、俺の武骨な左手ににぎにぎと指先を絡めている。
しかも俺の腕に抱き着くようにして寄りかかってくるので、彼女の体温や豊かな胸の感触などが賢者のローブの布地越しに伝わってきて、とても幸福感がある。
一方、俺の右手側にいるミィナもまた、俺の手を握っているのだが──
「セラフィーナ、それはくっつきすぎだから少し離れろといつも言ってるにゃ。ダグラスが歩きにくいにゃよ」
そう言って、セラフィーナに食ってかかる。
猫耳族の少女は、確かにセラフィーナと比べると控えめな手のつなぎ方だ。
だがそれに、セラフィーナはむっと眉を寄せる。
「はあ~? どうして駄猫にそんなことを指示されなければならないんです? ──ダグラス様、ご迷惑ではないですよね?」
「前々から思ってたにゃけど、その『駄猫』って呼び方なんなんにゃ! ──ダグラス、そんな女に気を使うことないにゃよ。迷惑だったらミィナが嫁の先輩としてビシッと言ってやるにゃ」
「何ですかそれ。先に妻になったから偉いとでも? ベアトリス姉さまみたいなことを言うんですねこの駄猫は」
「なんにゃ、文句あるにゃ? そっちこそ王女だからって自分が一番だとでも思ってるにゃ?」
角を突っつき合わせ、威嚇し合うセラフィーナとミィナ。
俺は苦笑する。
と、そこに──
「ダグラス~、おいしそうなアップルパイが売ってたから買ってきたよ。──はい、あーん♪」
屋台で買い物をしていたエレンが戻ってきて、俺の顔の前にパイを差し出してくる。
確かにいい匂いだ。
俺は口を開けて、エレンが差し出してきたパイにかぶりつく。
「はぐっ、むぐむぐ……。んっ、うまいな」
「あ、やっぱり? じゃあボクも──はむっ、もぐもぐ……うん、おいしいね♪」
「「なっ……!?」」
俺がかじりついたところからパクパクとアップルパイをほおばっていく剣士の少女の姿を見て、セラフィーナとミィナが驚愕の声をあげ、わなわなとした。
さらにエレンはパイを最後まで食べきると、自分の指先までぺろりぺろりと舐め、俺に向かって心なしか妖艶にも見える笑みを浮かべてくる。
「んふっ。ダグラスとキスするときの味がするかも」
「「んなっ……!?」」
それを見たセラフィーナとミィナの二人は、慌てて別の屋台の食べ物を探しはじめる。
まったく、何をやっているんだか。
『のうわが主よ。あれは何じゃ?』
一方で斧形態のロンバルディアからは、思念会話が飛んでくる。
「ん、あれって?」
『ほれ、右手側の少し先の店に、赤と白の衣服が飾られておるじゃろう。それに街では先ほどから、あのような格好で売り子をしておる者たちをよく見かける気がするぞ』
「あー、サンタ衣装な」
ロンバルディアが言った衣服店の前を通りかかると、その店先には白いモコモコが付いた赤地のかわいらしい衣装が展示されていた。
飾られていたのはいわゆる「ミニスカサンタ衣装」というやつだ。
ミニスカかどうかを横に置けば、この手の衣装は年末のこの時期にはウェントワース王国の街中でも──あと聞いた話だと高級風俗店でも──目立って見かけるようになる。
俺はその店の前に立ち、あごに手を当てて真剣に考える。
「これはなかなかデザインが秀逸だし、仕立ても良さそうだな。三着、いや四着買っておくのもありか。……いやしかし、荷物もかさばるからやめておいたほうがいいか……?」
俺の頭の中は、ミニスカサンタ衣装を着たわが嫁たちの姿でいっぱいになっていた。
ヤバイ、めっちゃ見たい。
ちなみに目の前に飾られているミニスカサンタ衣装、なかなかいいお値段はするのだが、今の俺の財布には古竜の巣穴から強奪した財宝もあり、この程度ははした金の域でもある。
これはもう、買うしかないんじゃないか……?
いやだが、荷物がかさばるのがなぁ。
と、そんなことを考えていると──
「はわっ……か、かわいいです……! やっぱり人間の文化はすごい……こんなの滅ぼしたらダメですよぅ……」
俺の隣に見知らぬ一人の少女が立っていて、俺と同じように、ミニスカサンタ衣装を食い入るように見ていた。
空色の髪をした少女だ。
年の頃はうちの嫁たちと一緒か、それよりもやや幼いぐらいに見える。
だが普通の人間の少女と呼ぶには、どこか不思議な印象がある。
空色の瞳の奥に宿る深みは、見た目通りの年齢の娘が持てるものではないようにも感じる。
するとそのとき、店の奥から一人の店員がやってきた。
「いらっしゃいませ、お客様。こちらのサンタ衣装をお気に入りですかな?」
腰を低く、揉み手をして現れた店員の男は、油断のならないやり手に見えた。
この衣服店の店主といったあたりか。
だがそうして声をかけられると、俺の隣で見ていた少女は、慌てた様子を見せる。
「はわっ……! す、すみません、あんまりかわいいから見てただけなんです! ごめんなさい、ごめんなさい──さようなら!」
ぴゅーっと、少女は慌てて逃げ出してしまった。
あっという間に人混みの中に消えていく。
俺はそれに苦笑しつつ、現れた店員へと向き直って返事をする。
「この衣服店の店主か? 四着ほど買おうかどうか迷っているんだが、何しろ旅の身で荷物がかさばるのでどうしようかと迷っている。金は十分にあるんだが」
「ほほう、そうでしたか。それでしたらお客様、当店にはちょうど良いものがございますよ。少々お待ちを」
そう言って店主は、店の奥に引っ込んでいく。
そしてすぐに、一枚の布袋と、一個のちょっとした大きさの木箱を持って戻ってきた。
布袋は畳まれていてポケットにも入る大きさだったが、店主がそれを広げていくと、旅の荷物を運ぶにも足る大袋サイズのものであることが分かる。
「この布袋は魔法のアイテムでしてね。見ていてください。こうして袋に箱を入れるでしょう? それをこうして畳んでいくと──」
店主は持ってきた木箱を布袋の中に入れると、袋を元あったように畳んでいく。
すると、中に入れた箱はどこへやら。
布袋は再び、ポケットサイズまで小さくなってしまった。
店主が布袋を渡してくるので受け取ると、重さもわずか──袋の分ぐらいしか感じられない。
袋を店主に返すと、店主は再び袋を広げて、中から木箱を取り出してみせた。
それを見たうちの嫁たちから「「「おおーっ」」」と感嘆の声があがる。
「袋の中は異空間につながっていると言われておりまして、最大収容量は大きめの衣装箱数個分にも及びます。これとこちらの衣装を四着お付けして、今なら特別価格、全部込みにして金貨三百枚でいかがでしょう?」
「安い。買った」
即買い決定だった。
平民の年収にも相当する金額だが、お役立ち度を考えれば余裕で払える額である。
袋の性能をその場で再確認したり、セラフィーナが魔法で魔力を感知したりしつつ、最終的に購入を決定。
良い買い物をした。
俺は嫁たちを連れ、ほくほく気分で衣服店をあとにした。





