夜道をイチャイチャしながら進むこと
すっかり夜も更けた中、セラフィーナが用意した魔法の灯りを頼りに、俺たちは村へと続く道を進んでいく。
村までは三時間ほどで着くというが、ここまででその半分ほどを歩いただろうか。
朝から夜まで歩き詰めの強行軍だったこともあり、うちの嫁たちの顔にも疲労が色濃く見えてきた。
と言っても、エレンは体力もさすがなもので、まだまだ平気な様子だ。
厳しそうなのは、残りの二人。
「ミィナ、セラフィーナ。かなり疲れているように見えるが、大丈夫か?」
「だ、大丈夫にゃ……。自分で今日行くって言ったんにゃから……頑張るにゃ……」
「わ、私も、大丈夫です……どうか、お気になさらず……はぁ、はぁ……」
「そうか? どっちか一人なら、俺がおぶっていくこともできるが」
「おぶって……って、おんぶですか!?」
「「おんぶ!?」」
くわっと、三人がものすごい勢いで食いついてきた。
なぜかエレンまで。
「そ、それは……やっぱりミィナは、すごく疲れている気がしてきたにゃ。ダグラスにおんぶしてもらわないと、もうダメかもしれないにゃ」
「何を言っているんですかこの駄猫は。私こそ最高に疲れています。ダグラス様におんぶをされるべきはこの私です」
「あー、ボクも疲れてきたかも? ひょっとしたら、ダグラスにおんぶしてもらわないと、もう一歩も歩けないかも?」
口々に疲労を主張し始めた少女たち。
約一名、完全にダウトなやつがいるが。
「ん、エレンは普通に元気そうだから却下な」
「えーっ、ずるいよ! ボクもダグラスにおんぶされたい!」
「わかったわかった、また今度な。──ミィナとセラフィーナはどっちかおぶってやるから、ジャンケンでもしてどっちにするか決めてくれ」
「わかったにゃ。ミィナの観察力と反射神経を総動員して、セラフィーナを打ち負かすにゃ」
「いいでしょう。予言の巫女の力よ、今こそ私に勝利の道を指し示すのです」
「「──最初はグー! ジャンケンぽん!」」
結果、ミィナが勝利の拳を天に突き上げ、セラフィーナは地面にがっくりと崩れ落ちた。
意外と元気そうだなお前ら。
そんなわけで、ミィナが俺の背中に抱き着いて、俺がそれをおぶっていくことになった。
「にゃふーっ、ダグラスのおんぶ、ゲットだにゃ♪ にゃにゃっと」
ミィナが背後から、俺に跳びついてくる。
そして獣人の少女は、しなやかな腕を俺の首回りに、健康的な脚を俺の腰にぎゅっと絡ませ、上半身を密着させて俺に体重を預けてきた。
やや小柄とはいえ成人女子であり、まあまあ立派な胸が背中に当たってきたり、ほんのり汗のにおいの入り混じった女の子の香りが漂ってきたりで、結構ドキドキとしてしまう。
「えへへーっ。ダグラスの背中、大きくてお父さんみたいにゃ」
俺の耳元で、ミィナがささやいてくる。
あたたかな吐息が俺の耳や首筋吹きかかってきて、いろいろとヤバい。
だがよこしまな気持ちでおんぶしようと言ったわけじゃないし、ここは平常心だ。
別の話をしよう。
えーっと、お父さんみたい、お父さん……そうだ。
「そういえばミィナの家は、ご両親はどうしているんだ? 一度あいさつに行ったほうがいい気はするんだが」
「んにゃ? あー、それは気にしなくていいにゃよ。うちの両親は放蕩者にゃ。ミィナが成人したら、二人でふらっとどこかに行っちゃったにゃ。今どこにいるのか、ミィナも知らないにゃ」
「お、おう、そうか」
すげぇ両親だな。
いや、獣人族はそんなものなのかもしれないが……しかしミィナの口ぶりから察するに、彼女の両親が特別なんだろう。
あとは、セラフィーナの家はウェントワースの王家で、ひと通り周知は済んでいるし……となると、残るはエレンか。
「エレンのご両親は、今はどうしている?」
「え、ボクの両親? んーとね、生みの親は知らないし、顔も覚えてない。師匠に聞いたところによると、ボクは捨て子だったらしいよ」
「捨て子……? エレンは師匠がいるのか」
「うん。ボクは師匠に育ててもらった。師匠はボクがいた頃には山奥で隠遁生活をしていたけど、今もあそこにいるかどうかは分からない。もうお前は一人前だから出ていけって追い出されたから、戻ると怒られちゃうかもね」
ふぅむ、なるほど。
エレンの師匠とやらには、一度あいさつに行ってみる余地はありそうだな。
「あ、でも、師匠とダグラスとだったら、どっちが強いんだろ。ボクの師匠もめちゃくちゃな強さだったんだよね。ドラゴンぐらいは一人で倒しちゃいそうなぐらい。や、実際は分かんないけど」
「ほう」
人間の中にも、稀に達人と呼ばれる人物が現れる。
古竜のような世界最強クラスのモンスターにさえも、単身で立ち向かえる力を持つ者もいるとかいないとか。
まあそのあたりまで行くと、英雄物語による創作上の話なのか現実の話なのか曖昧になってくる感じだが。
「ちなみに男、女、どっちだ?」
「師匠? 女性だよ。それにすっごい美人。ボクが一緒に暮らしていた頃でも結構歳いってたはずなんだけど、二十代ぐらいにしか見えないの。今思うと、あれは本当に人間だったのかって疑いたくなるよね」
「ふぅん。少し興味はあるな」
エレンの師匠とも一度戦ってみたい、なんて思ってしまうのは男子のサガか。
でも美女と殺し合いはしたくないな。
どっちかっていうとお付き合いを……って、これだけ美少女な嫁たちに囲まれておきながら、俺は一体何を考えているんだ。罰が当たるぞ。
するとエレンが、俺の隣からぴょこっと顔を前に出し、にひっと笑いかけてくる。
「あーっ、ひょっとしてダグラス、ボクの師匠も手籠めにしようとしてる? ……やっぱりダグラス、ボクたちなんて子供みたいにしか見えない? もっと大人の女性のほうがいいの?」
「そ、そんなわけがあるか。俺が興味があるって言ったのは、戦士として一度手合わせを願いたいって意味だ」
「えーっ、ホントかなぁ。……くんくん。あっ、嘘をついてる匂いがする」
「ちょっ、ちょっと待て。そんなのが匂いで分かるのか?」
「あっ、やっぱり嘘なんだ。いやらしーっ。浮気だ浮気」
「なっ……騙された、だと……!?」
俺の反応に、三人の少女たちは楽しげにくすくすと笑う。
いかん、遊ばれている。
と、そこでセラフィーナが、やわらかな笑顔とともに俺に聞いてくる。
「ところでダグラス様のご両親は、いまだご健在なのでしょうか? 私たちも、ごあいさつに行ったほうがよろしいかと思うのですが」
「あー、いや。俺の両親はとっくの昔におっ死んでる。流行り病でな」
「そうでしたか……すみません、ダグラス様」
「いや、構わない。むしろ気を使ってくれてありがとうな、セラフィーナ」
「い、いえ、そんな……」
セラフィーナの頭をなでてやると、賢者姿の少女は頬を染め、恥ずかしそうにした。
とまあ、そんなこんなの与太話のようなものをしながら、俺たちは夜の道を歩いていく。
ちなみに、途中でミィナと交代でセラフィーナをおんぶしたが、ジャンケンに勝ったミィナは少しだけ文句を言ったものの、すぐに納得してセラフィーナに場所を譲った。
むしろ一番不満そうなのは一番元気なエレンだったりしたが、いずれ埋め合わせるよと言うと納得してくれた。
いや埋め合わせるも何も、背負っているのは最初から全部俺なんだけどな。
そうして、やがて俺たちは、村へとたどり着く。
夜の帳が下りる中、村に人通りはなく、家々からは灯りが漏れている。
俺はひとまず、村長の家と思しき村で最も大きな住居へと向かうことにした。





