竜退治(1)
俺はセラフィーナ、ミィナ、エレンの三人を連れて、問題の火竜が棲みついたという辺境の地へと向かう。
馬を使ったり徒歩で移動したりで、現地に到着するまでには三日がかかった。
やがて火竜が棲みついた山の、最も近くの村へとたどり着く。
俺たちはそこで、悲惨な光景を目にすることとなった。
「ひでぇな……」
俺はその光景を見て、ぽつりとつぶやく。
村は焼け落ちていた。
家々はいずれも倒壊し、全身が焼け爛れて死んだ村人らしき死骸も、百ほどの数を発見した。
死骸は老若男女、老人のものも子供のものも、男のものも女のものも平等にあった。
何の偏りもなく、ただ無差別に殺されていた。
「これが、ドラゴンの仕業……許せない……!」
人々の変わり果てた姿を見て、セラフィーナが怒りに震えて拳をにぎりしめる。
ミィナとエレンもまた、厳しい表情だった。
「種族の生存競争だ。許せないっていうのは俺たち人間の勝手な言い分だろうが──だったら向こうさんにも、それなりの報いは受けてもらうだけだ。行くぞ」
俺のその言葉に、三人の少女たちは力強くうなずいた。
俺たちは焼かれた村をあとにすると、ドラゴンが棲みついたという山へと向かい、麓についてからはその山を登っていく。
「でも、ダグラス……。そのドラゴンに、本当に勝てるの? “太陽の双璧”の生き残りの話を信じるなら、やっぱり並のドラゴンではないんだよね……?」
登山の最中、エレンがそう聞いてくる。
冒険者パーティ“太陽の双璧”の全滅の報は、命からがら逃げ伸びてきたパーティメンバーの一人、Cランク冒険者のシーフによってもたらされた。
その冒険者から話を聞いたのだが、この地に棲みついたドラゴンは、“太陽の双璧”が以前に戦ったことのあるドラゴンとは段違いのおそるべき強さだったという。
体の大きさも、鱗の硬さも、爪や尾の破壊力も、そして灼熱の炎の威力もすべてが想定を超えており、“太陽の双璧”は善戦をしたものの力及ばず、ついには瓦解、壊滅したらしい。
「若竜でないことだけは間違いないだろうな。壮竜か古竜か……。いずれにせよ、ドラゴンとなんてやり合ったことはないから、強いのも弱いのも実際に殴り合ってみなけりゃ分からん。ただ、冒険者ギルドが発行しているモンスター図鑑では、若竜の格付けがAランクだったか」
「はい。そして壮竜はSランク。古竜は格付け不能です」
セラフィーナがそう付け加える。
俺が実際に戦ったことがあるモンスターで最も強いのは、Bランクのキマイラだ。
あるいはイビルフラワーの親玉がキマイラ以上の強さだった気もするが、イビルフラワーは多種多様すぎて、図鑑には明確な格付けがされていない。
あれに格付けをするとしたら、B+ランクなのか、Aランクなのか。
いずれにせよ、これから戦うことになるであろうドラゴンは、キマイラよりも二ランク以上強いのはほぼ確実だ。
その二ランク以上強いというのが実際に戦ってみたときにどの程度のものなのかは、やってみないと分からないのだが。
「ま、出たとこ勝負しかねぇだろ。なるようになるさ」
「ワイルドにゃね……。冒険者ってそんなもんにゃ?」
「まあな。それに多少は英雄風でも吹かせねぇと、この聖斧ロンバルディアを使っている身としては格好がつかねぇ」
俺はそう言って、ミィナに笑いかける。
ちょっとばかり、天から幸福をもらいすぎたとは思っていた。
ここらで一度、命の一つもかけて英雄の真似事でもしないと、ぬるま湯のような膨大な幸福に押し流されてしまいそうだ。
とは言え、むざむざ死にに行くつもりもない。
勝算もなしに命がけの戦いに挑むのは、英雄ですらないただの無謀だ。
例のスキルとその副作用のことは、王都を出立する前にミィナ、エレン、セラフィーナの三人には話して、彼女たちの意志は確認している。
彼女らはいざとなったときには、身を挺して俺を止めてくれると言った。
俺のことは、三人が支えてくれる。
いや、三人と一振りか。
だったら──たかだか火を吹くトカゲもどきに、負けるはずもない。
***
登山を続けていった俺たちは、やがて山頂近く、ドラゴンの棲み処と思しき巨大洞窟の前へとたどり着いた。
洞窟の中からは、ごうごうとおそろしい鼓動が聞こえてくる。
耳に響く音ばかりではない。
もっと漠然とした圧のようなものが、洞窟の中からあふれ出していて、洞窟前に立つ俺たちに寒気を感じさせた。
「だ、ダグラス……怖いにゃ……」
「ははっ……これは、もう……格が違うや……」
「ダグラス様……すみません、私……お役に立てそうに、ありません……」
ミィナ、エレン、セラフィーナの三人は、己の身を抱き、震えが止まらないという様子を見せていた。
俺は両腕を広げ、三人をまとめて強く抱き締めると、次に一人ひとりその頭をなでてやる。
「大丈夫だ。ここから先は俺一人で行ってくる」
「ダグラス、気を付けてにゃ」
「絶対勝ってきてね、ダグラス。死んだりしたらボク、ダグラスのことを一生許さないから」
「ダグラス様……ここでご武運をお祈りすることしかできませんが。どうかご無事で」
そう言って見送る嫁たちに一人ひとりキスをしてから、俺は洞窟の中へと歩いていった。
洞窟は広大で、王城の入り口にあった大ホールがずっと奥まで続いているような、そんな空間だ。
そんなところを歩いていれば、自分がちっぽけな存在になったかのようにも感じる。
だが実際にちっぽけだった俺には、今は力がある。
聖斧ロンバルディア。
こいつに出会ったことが、すべての始まりだった。
そんなロンバルディアが、俺に語り掛けてくる。
『のう、我が主よ。我は不思議なんじゃがの。こんなところに来ずに、のうのうと幸福な日々に浸かっていることもお主にはできたはずじゃ。なぜこの道を選んだ?』
「……さてな、俺にもわからねぇ。ただ、こうしなきゃいけない気がしたんだ。力があるなら多くの人々の命を救わなきゃいけないと思ったとか、そういう綺麗事を言やあ、全部嘘になる。だから、まあ……そういう気がしたって、それだけだ」
『くくくっ、そうか。やはりお主には、英雄の器たる素質があるんじゃろう。我の目に狂いはなかったということじゃ。じゃがお主についていくあの娘たちは、大変じゃのう』
「違いねぇ。とんだ貧乏くじだな」
そうして歩いていくと、広大な洞窟のトンネルが、さらに大きく広がる。
貴族の豪邸すらすっぽり収まるであろうと思うほどの膨大な広間。
その奥に、この洞窟の主がとぐろを巻いていた。
洞窟の主──巨大なレッドドラゴンは、俺が広間に踏み込んだと時を同じくして、その首をもたげる。
次に四つ肢で起き上がり、こちらに威嚇の目を向けてきた。
『……人間、小さき者よ。貴様はたった一人で、ここへ何をしに来た』
地の底から響くような竜の声。
俺は聖斧ロンバルディアを肩に担いで、ニヤリと笑ってこう答える。
「ドラゴン、お前を倒しにだ。シンプルでいいだろ?」
『不遜だな。死ね』
「断る。俺はまだまだ、ミィナともエレンともセラフィーナともイチャイチャし足りねぇんだよ。お前を倒して生きて帰って、今後もたっぷりとエロいことをさせてもらう」
俺は聖斧ロンバルディアを片手で一振りすると、ドラゴンへと向かっていった。





