イビルフラワー退治(ボス登場)
ミィナが猫耳をぴくぴくとさせる。
「今の声は村の外──森の方からにゃ」
俺はミィナが指し示したほうへと走った。
ミィナとエレンもそれについてくる。
村を出て、鬱蒼とした森の中へと入っていく。
背の高い木々が多い中を走っていくと、途中、イビルフラワーの死骸をいくつか発見した。
花は刈り取られているから、冒険者の仕業だろう。
おそらくはルークたちだ。
さらに進んでいくと、やがて森の中の広場のような場所が、木々の先に見えてきた。
そこにいたのは──
「……なるほどな、親玉がいたか」
俺は森の中を駆けながら、そうつぶやく。
道理でアホみたいな数のイビルフラワーがいるわけだ。
俺の視線の先、森の中の広場にそそり立っていたのは、イビルフラワーの親分のようなやつだった。
これまで戦っていたイビルフラワーも大きいとは思っていたが、それよりもさらに一回りも二回りも大きい。
その巨大植物の全長は、六メートルほどにも達する。
一般的な成人男性の背丈の三倍よりもなお大きいと言えば、そのサイズ感が伝わるだろうか。
最上部には、これまた巨大な花が一輪咲いている。
人ひとりを余裕で包み込めるほどの大きさだ。
花を支えているのは、人の脚よりも太い茎を何十本も絡めて束ねたような巨大茎で、その頑強さは大木の幹を思わせる。
下部では無数の長く太い蔦が、触手のようにうねうねと蠢いていた。
その巨大植物モンスターの周囲の地面には、先ほどまで戦っていたイビルフラワーの成長前のようなやつが、何体分も生えている。
いずれも花はつぼみ状態で咲いておらず、サイズも人間大やそれより大きいもの小さいものとまちまちだが、あれらが成長したら、俺たちがこれまで倒してきたあのイビルフラワーになることは間違いないだろう。
つまり、あの親玉が今回のイビルフラワー大量発生の元凶に違いない。
逆に言うと、あいつを倒さなければ、いくら雑魚を倒しても意味がないということだ。
そして──
「いやぁあああっ……! や……やめて、ください……!」
「だ、だめぇぇっ……! こんなのぉっ……!」
二人の冒険者がまるで生贄のように、触手のごとき蔦に捕らえられていた。
神官アデラと、魔法使いシェリルだ。
二人の美女は蔦によって両手両足を拘束され、宙に吊るされている。
アデラの純白の神官衣も、シェリルの魔法使いのローブも、今やビリビリに破り裂かれていた。
彼女らが吊るされた下の地面には、聖杖と神官帽、魔法使いの杖と鍔広の三角帽子が、敗者の証のように無様に転がっている。
そして──そんな二人の様子を目の当たりにしながら、何もできずに手をこまねいていたのは、剣士の青年ルークだった。
「くそっ……! 俺のアデラとシェリルを、放せぇっ! ──うぉおおおおおおっ!」
ルークは剣を片手に、巨大イビルフラワーへと立ち向かっていく。
襲い掛かる蔦の攻撃をかいくぐって仲間たちのもとにたどり着くと、二人を絡め取っている蔦を必死に切り捨てていく。
だがそんな決死の突撃は、無謀であった。
「しまっ──ぐわぁあああああっ!」
複数の蔦を束ねたものによる殴りつけ攻撃が、横薙ぎにルークの体を捕らえた。
剣士の青年は派手に吹き飛ばされ、大木の幹に強く背中を打ちつけると、そのままずるりと崩れ落ちた。
俺たちが現場に到着したのは、そんなタイミングだった。
大木の根元に崩れ落ちたルークを見れば、気絶をしているだけで命に別状はないようだった。
「ミィナ! ルークを安全な場所に移動させてくれ!」
「了解にゃ! まったく、手間を掛けさせるなにゃよ」
気絶したルークの体を、ミィナが背負って森の中の広場から引きずり出していく。
さて──
どういう流れでこういう状況になったのかは知らないが、放っておくわけにもいかない。
俺は聖斧ロンバルディアを肩に担いで、巨大植物の前へと歩み出ていく
「あはは……これまた、とんでもないのが出てきたね……。本来なら一度、冒険者ギルドに戻って報告、対策を立て直すっていうのがセオリーだけど……」
俺の隣まで来て剣を構えたエレンが、額から冷や汗を流す。
自分の力では押し負けるであろうことを、鋭敏に感じ取っているようだった。
「だがそれでは、あの二人は助からないだろうな」
「だ、だよねー。……どうする、ダグラス。勝てそう?」
「やってみなければ分からないが、おそらくな」
「じゃあ聞き方を変えるよ。──あの二人、見捨てて逃げる? それとも頑張って助ける?」
エレンはこういったあたり、意外とリアリストだ。
彼女もCランク冒険者になるまでに、それなりの経験をしてきているということだろう。
俺はふっと口元を綻ばせつつ答える。
「後者だな。なんならエレンは、下がっていてもいいが」
「冗談。旦那をしっかりと支えるのが、いいお嫁さんでしょ?」
「分かった。だが無理はするなよ。お前たちに何かあるのが、俺は一番嫌だからな」
「うん、分かってる。危なくなったら、すぐに撤退するよ」
そんなやり取りをしている間にも、神官アデラと魔法使いシェリルの苦悶(?)の声が、森の中に木霊していた。
「でもあんな風にめちゃくちゃにされるのも、ちょっといいかも……」
「……ん? エレン、何か言ったか?」
「う、ううん、何でもない! 気のせい気のせい、あははははっ」
エレンが触手にあれこれされている二人の冒険者の姿を見て、よだれをたらしていた気がするのだが……そうか、気のせいか。
「……ねぇ、ダグラス。つかぬことを聞くけど……ひょっとしてダグラスって、体から触手が生えてきたりしない?」
「ねぇよ」
気のせいじゃなかった。
ていうかうちの嫁たち、本当に俺のことを何だと思っているのか。
そして事態はさらに進展する。
ほかの野次馬たちが、現場に到着したのだ。
全部で三パーティ、十五人弱の冒険者たちだ。
「うわっ、何だありゃ!? イビルフラワーの親玉か!?」
「嘘だろ、なんだあのデカさは……!? アレと比べりゃ、さっきまで倒してたイビルフラワーなんて、まるで子供じゃねぇかよ」
「それより見ろよ! 神官ちゃんと魔法使いちゃんが触手に捕まっちまってるぞ!」
「あ、あれはまずいぞ……! ……ハァハァ」
……ブレねぇなぁ、こいつら。
俺は一応、そいつらにも告げておく。
「お前らは危ないから、命が惜しけりゃ下がってた方がいいと思うぞ。あいつは俺とエレンで仕留める」
「へい、ダグラスさん! ダグラスさんの雄姿、俺たちがばっちり見届けさせていただきます!」
「…………」
気が付けば、冒険者どもの俺への態度が百八十度変わっていた。
調子のいいやつらだなおい。
と、思っていると──
「にゃにゃっ……!? ──ダグラス、普通のイビルフラワーがまだいるにゃ! それもたくさん! この広場に近付いてくるにゃ! 近くに来てるだけでも三体いるにゃ!」
目敏いミィナがそんな報告をしてくる。
言われて周囲を見渡せば、森の奥に蠢く気配を多数、たしかに感じることができた。
……ちっ、マジかよ、めんどくせぇな。
大物に集中させろよ。
だがそこで、調子のいい冒険者たちが動いた。
「ダグラスさん、雑魚は俺たちに任せてください!」
「ダグラスさんはあのデカブツを頼みます!」
まわりの冒険者たちは、それぞれパーティごとに分かれて、近付いてきている普通のイビルフラワーを迎撃しにいった。
あ、それはちょっと助かるわ。
あいつらもたまにはいいことするな。
これで俺は、あの親玉イビルフラワーに集中できるってわけだ。
「よし──じゃあエレン、俺たちもやるか。……一応言っておくが、わざと捕まったりするなよ」
「や、やだなぁダグラス。ボクがそんなことするわけないじゃないか、あははははっ……」
「…………」
不安だ……。
と、そんな冗談はさておき。
俺はエレンとともに、親玉の巨大イビルフラワーへと立ち向かっていった。





