女王との戦い(6)
「さて、こいつはお返しだ、女王様──【アヴェンジ】!」
パチンッ。
俺が指を鳴らすと、十の首持つ竜王セフィロトの全身に異変が起こる。
炎で焼け爛れ、凍傷を受け、雷撃に焼かれ、毒液と酸で腐食したように、竜王の全身がボロボロになる。
『──ギャァアアアアアアアッ! なんだ、なんだこのダメージはぁあああああっ!』
「なんだってことはねぇだろ、女王様。お前さんのブレス攻撃のダメージだよ」
スキル【アヴェンジ】。
俺が直前に受けたダメージを相手にも返す、因果応報のスキルである。
そして俺は、竜王に向かって挑発を仕掛ける。
「ところで自慢の再生能力はどうした? 首を再生したみたいに、そのダメージもちょちょっと治してみせたらどうだ」
『黙れ虫けら……! この程度、そうまでするほどのダメージではない! 貴様のような脆弱な虫けらとは違うのです!』
「なるほどな、貴重な情報をありがとよ」
俺はニヤリと笑った。
『貴重な……情報……?』
女王が怪訝そうな声を返してくる。
まだ分かっていないようなので、俺は大サービスで説明してやることにした。
「ああ、そうだ。まずそういう言い方になるってことは、あの超回復能力は首を切り落としたとき限定の能力じゃないことは確定だろ? で、その上で出し渋るということは、あの能力には使用回数の制限があるんだろうな──ってところまで分かる」
『なっ……!?』
「さらに言えば、首一つを再生したときもビナーやティフェレトが与えた傷は回復しなかったんだから、一発使えば全身が全回復ってわけじゃない。首一つごとの治癒能力ってあたりか? そりゃあ全身に満遍なく負ったダメージには使いたくねぇよな」
『な、何で……そこまで……!?』
「女王様、あんた戦い慣れてねぇんだよ。封印前は圧倒的な力で世界を蹂躙していたから、戦術なんて考える必要も機会もなかったのかもしれねぇがな」
『ぐぅうううううっ──おのれ、おのれ、おのれ、おのれぇええええっ! 虫けら風情が、調子に乗るなぁああああっ!』
頭に血が上ったらしい女王は、十の竜頭でしゃにむに俺を噛み砕こうとしてくる。
だが【生命燃焼】の効果によって、今や【神速】を使わずともそれと同等以上の速度を持つ俺は、女王の攻撃を余裕で、ときによっては紙一重で回避していく。
そしてチャンスがあるときはロンバルディアを振るい、襲ってきた竜頭を次々と叩き潰していく。
これもやはり【生命燃焼】の効果で、【ホーリースマッシュ】を使わずともそれと同等以上の攻撃力がある。
一撃で竜頭一つを潰すに十分だ。
だが一方で、女王も然るもの。
叩き潰したそばから次々と、その竜頭を再生させていく。
その際には【アヴェンジ】で与えたダメージも、その竜頭に関しては完全に治癒される。
俺は次々と襲い来る攻撃をどうにか回避しながら、女王に向かってボヤいてみせる。
「ちっ……! あと何回あるんだよその治癒能力……!」
『あははははっ! 二度と同じ手は食いませんよ、虫けら! ──さあ、圧倒的な力の差に絶望しながら果てなさい!』
残念ながら今度は情報を漏らしてはくれなかった。
超回復能力に回数制限があることは分かっても、それがあと何回残っているのかは分からない。
そして──再度のブレス攻撃が吐きかけられる。
こいつの完全回避は不可能。
「くっ……!」
俺は横っ飛びに回避して、すべてのブレス攻撃の直撃だけは避けた。
だがそれでも、直撃時の半分程度のダメージは免れない。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」
満身創痍。
【治癒能力】もまるで追いついておらず、もう一撃ブレス攻撃が来たら耐えられないだろう。
なお【生命燃焼】が燃やす命は、外的なダメージに耐える耐久力のようなものとは異なるもっと根源的なものなのだが、それはそれとして耐久力のほうが限界だ。
そんなボロボロになった俺の姿を見て、女王が笑う。
『あははははっ! 虫けららしい無様な姿になったわね。ずいぶんと頑張ったけれど、それもお終い。そのザマでは攻撃を回避するのも大変でしょう──さあ、おとなしく噛み砕かれて塵となりなさい!』
「はっ、お断りだね──【瞬間再生】!」
俺は残しておいたスキルを発動。
これまでに受けたすべてのダメージを癒して、襲い来る竜頭の攻撃を回避する。
『なっ……!?』
「どうした、驚いた声を上げて。瞬間的な超回復能力が、そっちの専売特許だとでも思ったか?」
『ぐっ……おのれ、おのれ、おのれぇえええええっ! 虫けらがぁあああああっ!』
そうしてあとはもう、純粋な殴り合いが始まる。
いきり立った女王と俺の、力の限りの削り合い。
相手の再生能力の残数が先に尽きるか、こっちの耐久力が先に尽きるかの勝負。
俺と女王は、飽くなき死闘を繰り広げた。
どのぐらい長い間戦っていたのか、よく覚えていない。
十分なのか、二十分なのか、それとも三十分以上も戦っていたのか。
潰した頭の数も、途中から数えるのを放棄した。
二十以上を潰したのは間違いないと思うが、三十か、四十か……多分五十には届いていないと思う。
俺のほうは、耐久力が先に足りなくなるか、生命力の灯が先に消えるか、どっちが先かというチキンレースだったが──
それよりも先に、女王の竜頭が再生しなくなった。
俺がロンバルディアで次々と頭を潰していけば、十が九つに、九つが八つに、八つが七つに減り──
女王がついに、本物の悲鳴を上げ始める。
『ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな……! この私が、竜族の女王たるこの私が、お前のようなたった一匹の虫けらに……!』
「はぁっ……はぁっ……うるせぇ、贅沢言うな……! こっちは世界一の美少女たちとのイチャエロハーレムを捨ててまで、お前なんかに付き合ってやるんだ……! ありがたく思え、このバカ!」
『何をわけの分からぬことを……! こんな虫けらに、虫けらに……この女王が……女王たる私がぁああああ……!』
竜頭を潰して潰して、残りは四つ、三つ、二つ、一つ──
「ったく、最後までわがままなやつだったな。じゃあな、女王様。……あと、生かしてやれなくてごめんな」
──ガゴォオオオオンッ!
ロンバルディアの刃が、最後の竜頭を叩き潰した。
十の首持つ竜王セフィロトの巨体は、それでついに動かなくなる。
そして、俺もまた──
「はぁっ……終わった……」
生命力の灯が尽きる。
自らの体が砂のようになって崩れ去っていくのを感じながら、俺の意識は終わりを迎えた。





