女王との戦い(5)
──古代遺跡「竜のアギト」、ダグラス──
転移魔法陣が強い光を発し、やがて消え去った。
それを確認した俺は、安堵のため息を漏らす。
よかった、これでいい。
俺を慕ってくれた最高の美少女たちは、もうこの場にはいない。
ここに残るのは一人のおっさん冒険者と、神話級の巨大モンスターだけだ。
いや、違う。
一振りだけ、まだ残っているか。
「……悪いなロンバルディア。お前には最後まで付き合わせちまって」
俺がそう伝えると、相棒からは呆れたような思念が返ってくる。
『わが主よ。おぬしはこの期に及んで、まだ自分を信じられんのか。我は最初に出会ったときに言ったはずじゃぞ。おぬしは自分を過小評価しておると』
「ああ、言われたな。懐かしいよ。ずいぶんと昔のことみたいに思える。……でもそれとこれと、何の関係があるんだ?」
『……はぁ、まあよい。つまり我が言いたいのは、おぬしのような者に抱かれてこの場にいられることは、我にとって幸福だということじゃ。「悪いな」などと謝られても、何を言っておるのかとしか思わん』
「……そっか。ありがとうな、ロンバルディア。愛してる」
『~~っ! お、おぬし、どうしてそういうところだけイケメンになるんじゃ!』
「ははははっ。照れてるロンバルディアもかわいいな」
格好つけて、たった一人でこの場に残ったのは少し寂しいとも思っていたが、そうでもなかった。
最後まで俺のわがままに付き合わせるロンバルディアには悪いが、こいつのおかげで温かい気持ちにさせてもらった。
さて──
「──それじゃ、そろそろ始めるとするか、女王様」
俺は、竜の女王──十の首持つ竜王セフィロトを見上げる。
俺を見下す神話級の巨体は、何のつもりか攻撃の手を止めていたのだが。
そいつは俺に向かって、こう返してくる。
『まったく、人間というのはどうしてこうも愚かなのか……。自らの身を犠牲にして愛する者たちを逃がしたつもりでしょうが、何の意味もありません。この世に蔓延る人間どもは、すべてわが力によって滅びる運命なのですから』
相変わらずの尊大な物言い。
だが俺はそれに、鼻で笑って応える。
「おいおい、勘違いはよしてくれよ女王様。確かに俺は、自分の身を犠牲にして嫁たちを逃がしたが、お前さんに負けてやるとは言ってねぇぜ」
『……何をいうかと思えば、この期に及んで世迷言ですか。まったく……もういいわ、虫けら。お前は滅びなさい』
十の首持つ竜王は、ブレス攻撃の構えをとった。
十の竜頭の口内が、煌々とブレスの輝きで満たされていく。
一方で俺は、正直使いたくはなかった切り札スキルを発動する。
「とっておきだ。俺の命をくれてやるよ、女王様──【生命燃焼】!」
それに伴い、金色の闘気が俺の全身を覆った。
俺の体が、かつてないほどの激しい力で満たされていく。
『何をしようと無駄なこと──死ね』
竜王の十の口から、ブレス攻撃が一斉に放たれる。
【絶対防御】も【魔断の斧】も品切れの俺には、完全な回避は不可能。
ならばいっそ──
エネルギーの奔流が、俺の全身を包み込む。
完全復活を果たしていない女王ゆえ、そのブレス攻撃一つひとつの威力はさほどでない。
だが十を合わせたトータルの威力では、古竜のそれをも遥かに上回る。
やがてブレスがやむ。
もうもうと煙が立ち込める中、女王が高らかに笑う。
『あははははっ! 口ばかりが達者なだけの、他愛もない虫けらだったわね。最後に何やらこけおどしをしていたようだけど、すべて無意味──』
「──いや、そうでもねぇさ」
煙がやむ。
俺は当然のごとく、そこに立っていた。
俺が立っていた足元周辺の石床は、溶けたり腐食したりでかなり抉れていたが、俺が立っているその場所だけは無事だ。
女王は驚きの声をあげる。
『なっ……!? なぜ塵になって消し飛んでいないのです、虫けら! 私の十のブレスの直撃を受けたはず……!』
「ああ、受けたよ。ただ、そいつの威力が大したことはなかったってだけだ」
俺の体は、確かにブレス攻撃のダメージを負っていた。
炎で皮膚が焼け爛れ、凍傷を受け、雷撃にも焼かれ、毒液と酸で腐食して全身はボロボロになっている。
だが死ぬようなダメージではない。
到底そこまでではない。
スキル【生命燃焼】は、命を燃やすことによって俺に爆発的な闘気を与える効果がある。
それによる闘気の増加量は、【鬼神化】をも遥かに上回る。
そうして得た莫大な闘気の防御力に加えて、俺は【毒耐性】【炎耐性】【氷耐性】【雷耐性】【酸耐性】のすべての耐性を備えている。
だから生き残ったというだけの単純な話だ。
ちなみにこの【生命燃焼】は、効果こそ非常に強力なものの、途中でスキル効果を切ることができないという点でポンコツきわまりないスキルである。
最後の一滴まで、俺の命を燃やし尽くすスキル。
つまりはそういうことだ。
「さて、こいつはお返しだ、女王様──【アヴェンジ】!」
パチンッ。
俺が指を鳴らすと、十の首持つ竜王セフィロトの全身に異変が起こった。





