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神には届かない  作者: 空野
ペッパーボックスの黎明
93/93

6

 

 1965年、冬。


 映画の帰り道、さみぃ、さみぃと横はしきりに呟いていた。


「ギャスパー寒がり?」


 グースの問い掛けに、ギャスパーはチッと舌打ちする。


「これで寒くねぇなら人間じゃねぇ、そいつは小型の白熊だ」


「まぁ確かに寒いけど」


 吐く息が白い、と、グースは空を見上げ、釣られたように、その横で縮こまるアランも少しだけ視線を上げる。


「雪降るかなぁ」


「勘弁しろよ。路面凍ると走り込み行けねぇだろ」


 また舌打ちしてぶつぶつ言うギャスパーを横目に、ルイは映画のパンフレットをチラリと見下ろす。


(まさか、このメンツで青春映画観に行くことになるとはなぁ)


 一年前に、ただ一度だけ偶然に、一緒に乱闘騒ぎを起こしたあの時ですら、想像していなかった。


「そもそも、学校占拠されるとも思わなかったけど」


「ああ?」


 思わず呟くと、怪訝そうにギャスパーが振り向く。


「いや、映画より俺らの方が作り話みたいな目にあってんなって」


 パンフレットを振って笑うルイに、ハッと、鋭く白い息を吐く。


「なるほどな、確かに」


「この前の事件、何年かしたら絶対ハリウッドが映画化したがると思わない!?」


 アランが両手を広げる。いやにフワフワの耳当てが、ノッポのそばかすに、何となくシュールだった。


「そしたら、きっとグースは主人公だろ!?あ、それとも、クレイガン少将が主人公かな!?」


「俺より少将の方がいいと思うよ」


 グースは苦笑いして首を振る。


「それに、もう少し……もう少し、映画化まではかかる」


「……そうだね」


 ふと、あの事件で減った顔を思い出して、皆で黙り込んだ。

 奇跡のような結末だったけれど、犠牲がゼロだったわけではない。


 寒空の中、喧騒の街を、ぞろぞろと4人で歩いて。


「……それでも、仕方ないよな」


 ポツリと、ルイは言った。


「それでも俺達は、生きてるし」


 だから、と笑う。


「映画になった時は、観に行こうぜ」


「そうだね」


 グースが頷いて、アランも、気を取り直した様に笑った。


「ま、そういうのも弔い方か」


 ギャスパーは首を傾けてポキポキと音を鳴らす。


「雪が降る前に帰んぞ」


「ええ、せっかくだからゴハン食べてこうよ」


 アランが気軽にギャスパーに意見する日が来ようとは、と、ルイはもう一度笑った。


 内戦から4年目の冬。


「じゃぁ間を取って、何か買って帰ろう。俺達の部屋おいでよ」


 グースが提案して、それいいね、とアランが声を高くする。


「そのまま泊っていい?」


「あ?いいのかよ、お前、神経質そうだろ、そういうの」


「いいよ、別に」


 存外に気遣いのあるギャスパーの声に、グースは気負いなく笑う。

 それを見て、ルイは軽く目を瞬いた。


(グースが、誰かが泊まるのを許すとはねぇ)


 コイツも変わったな、と思って。

 ふふ、と鼻を鳴らす。


(で、俺もそれで良いと思ってる)


 誰かを自分達のテリトリーに入れることに、ほんの少し、抵抗がなくなって。

 何もかも少しずつ変わっていたことに、ふと気付く。

 たぶん、きっと、良い方へだと、信じながら。


 そうして、変わるけれど、変わらないだろうと信じたいものも増えながら。


「んじゃ、将来映画化決定した時に取材受ける予行練習とかもするかー」


「何年先の話だよ」


 アランにグースが呆れて肩を竦めて。くしゃみをするギャスパーは、また、寒い寒いと呟いた。


 パンフレットを折りたたんでポケットに突っ込みながら、ルイは笑う。


「何年先だが知らんけど、いいだろ、口裏合わせとこうぜ、今から」



 事件から少し経つ。

 内戦終結からは、まもなく4年が終わり、5年目となる。


 それぞれの時間で止まっていた時計。

 いつかそれぞれのタイミングで、着実に、少しずつ、互いに時刻を告げ合いながら、動き出していた。


ご完走ありがとうございました。


あなたに良い出会いがありますように。

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