6
1965年、冬。
映画の帰り道、さみぃ、さみぃと横はしきりに呟いていた。
「ギャスパー寒がり?」
グースの問い掛けに、ギャスパーはチッと舌打ちする。
「これで寒くねぇなら人間じゃねぇ、そいつは小型の白熊だ」
「まぁ確かに寒いけど」
吐く息が白い、と、グースは空を見上げ、釣られたように、その横で縮こまるアランも少しだけ視線を上げる。
「雪降るかなぁ」
「勘弁しろよ。路面凍ると走り込み行けねぇだろ」
また舌打ちしてぶつぶつ言うギャスパーを横目に、ルイは映画のパンフレットをチラリと見下ろす。
(まさか、このメンツで青春映画観に行くことになるとはなぁ)
一年前に、ただ一度だけ偶然に、一緒に乱闘騒ぎを起こしたあの時ですら、想像していなかった。
「そもそも、学校占拠されるとも思わなかったけど」
「ああ?」
思わず呟くと、怪訝そうにギャスパーが振り向く。
「いや、映画より俺らの方が作り話みたいな目にあってんなって」
パンフレットを振って笑うルイに、ハッと、鋭く白い息を吐く。
「なるほどな、確かに」
「この前の事件、何年かしたら絶対ハリウッドが映画化したがると思わない!?」
アランが両手を広げる。いやにフワフワの耳当てが、ノッポのそばかすに、何となくシュールだった。
「そしたら、きっとグースは主人公だろ!?あ、それとも、クレイガン少将が主人公かな!?」
「俺より少将の方がいいと思うよ」
グースは苦笑いして首を振る。
「それに、もう少し……もう少し、映画化まではかかる」
「……そうだね」
ふと、あの事件で減った顔を思い出して、皆で黙り込んだ。
奇跡のような結末だったけれど、犠牲がゼロだったわけではない。
寒空の中、喧騒の街を、ぞろぞろと4人で歩いて。
「……それでも、仕方ないよな」
ポツリと、ルイは言った。
「それでも俺達は、生きてるし」
だから、と笑う。
「映画になった時は、観に行こうぜ」
「そうだね」
グースが頷いて、アランも、気を取り直した様に笑った。
「ま、そういうのも弔い方か」
ギャスパーは首を傾けてポキポキと音を鳴らす。
「雪が降る前に帰んぞ」
「ええ、せっかくだからゴハン食べてこうよ」
アランが気軽にギャスパーに意見する日が来ようとは、と、ルイはもう一度笑った。
内戦から4年目の冬。
「じゃぁ間を取って、何か買って帰ろう。俺達の部屋おいでよ」
グースが提案して、それいいね、とアランが声を高くする。
「そのまま泊っていい?」
「あ?いいのかよ、お前、神経質そうだろ、そういうの」
「いいよ、別に」
存外に気遣いのあるギャスパーの声に、グースは気負いなく笑う。
それを見て、ルイは軽く目を瞬いた。
(グースが、誰かが泊まるのを許すとはねぇ)
コイツも変わったな、と思って。
ふふ、と鼻を鳴らす。
(で、俺もそれで良いと思ってる)
誰かを自分達のテリトリーに入れることに、ほんの少し、抵抗がなくなって。
何もかも少しずつ変わっていたことに、ふと気付く。
たぶん、きっと、良い方へだと、信じながら。
そうして、変わるけれど、変わらないだろうと信じたいものも増えながら。
「んじゃ、将来映画化決定した時に取材受ける予行練習とかもするかー」
「何年先の話だよ」
アランにグースが呆れて肩を竦めて。くしゃみをするギャスパーは、また、寒い寒いと呟いた。
パンフレットを折りたたんでポケットに突っ込みながら、ルイは笑う。
「何年先だが知らんけど、いいだろ、口裏合わせとこうぜ、今から」
事件から少し経つ。
内戦終結からは、まもなく4年が終わり、5年目となる。
それぞれの時間で止まっていた時計。
いつかそれぞれのタイミングで、着実に、少しずつ、互いに時刻を告げ合いながら、動き出していた。
ご完走ありがとうございました。
あなたに良い出会いがありますように。




