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自分が他者と異なるセクシャルマイノリティだと気付いたのは、そこそこに早い時期だった。
父親は鉄道運転手で、母親は薬局で働いていた。
裕福ではないけれどそこそこ安定していて、当時の独裁政権による恐怖政治に怯えてはいても、幸い、家族や近しい友人知人が粛清や逮捕の対象となったこともない。
可もなく不可もなく普通。
ありふれているようで、実は世の中にひと握りもいないような、奇跡のような少年時代だった。
その中で、ただひとつ、ただひとつだけ、世の中の〝普通〟から外れてしまっていたとするならば。
ラーグハルト・フライムは、同性も愛せた。
初恋は、幼馴染の、同い年の少女だった。
それは13歳の少年の、何の罪もない、純粋で、ありふれて、微笑ましい恋だった。
けれど。
その可愛らしい幼馴染と、手を繋いで、キスをして、それだけで無邪気に、得意になって喜んでいた、その、いくばくか後に。
ある日、目を奪われたのは、友人の弟だった。
初めは勘違いだと思った。
けれど、それは、日を経るごとに強くなり、確信へと変わっていった。
可愛らしい幼馴染の少女にしたように、無邪気な少年に触れたい、抱き締めたい、と。
その確信は、すぐさま絶望に転じた。
それは認めがたい事実で、その事実によって、自分の人生は一挙に困難なものに変わったように見えた。
1950年代。
自分のこの特性は、世間一般的にはマイノリティで、かつ大多数からは容易に許容されざるものだということを理解できるほどには、既に分別がある年頃だった。
しかして、世間の潮流と自分の感情に折り合いを付け、起用に生きていくほど、まだ大人ではない。
悩んで、悩んで、悩んで悩んで。
誰にも言えぬまま、相談できぬまま悩み、悩み悩み悩んで。
結局、ラーグハルトは、逃げ出した。
故郷を離れ、士官学校へと。
初恋の少女も。
二度目の恋を知った少年も。
全部、全部ぜんぶ、置き去りにして、逃げ出した。
その時のラーグハルトにとっては幸運なことに、独裁者は軍人だった。
当時、独裁者の率いる軍部への就職を望み、また試験を通って士官学校へと進むことにも成功した優良な男児は、家族共々優遇されたのだ。
士官候補生を出した家庭は、理不尽な逮捕や粛清に合う確率が低くなる。
ならば、士官学校へ行く、というその主張は、外から見れば家族親戚を守らんとする少年の、ただ高潔な覚悟の表明であったのだ。
その内に抱えたものが、実は、大半逃避であったとしても。




