autumn-1965
金色の木の葉の向こうに、真っ青な空が覗いている。
「撤収作業めんどくせー」
「フライム大佐、手が止まっています」
「ちょっと休憩だよ」
「何度目の休憩ですか」
本部だった丸太小屋の前、片付けるべき資料を片手に持ったまま空を見上げるラーグハルトに、リンドマンが溜息を吐く。
「硬いこと言うなよ。作戦総司令官様々なんか、撤収サボって早々に飯に行っちまったんだぜ?」
「今回は、それは特例です」
「俺も行きたかったなー。腹減った」
ボヤくラーグハルトは、ポケットから瓶を1つ取り出した。
「これでも食っちまうかな」
「それは」
白い錠剤の入った瓶に、リンドマンは目を丸くする。
「少将の」
「さっき着替えてた時に、スキ見て上着からスってやった」
体に悪いしな、と。ニンマリ笑う隻眼を、数秒、見詰めてから。
「……それ、中身、全てラムネですよ」
「へ?」
リンドマンは、いつもの生真面目な表情のまま、瓶を指で示した。
「今朝、隙を見て私が擦り替えました」
「……お前、真面目な顔して俺より手癖悪ぃのな」
「上官の健康の為です」
心做しか満足げなリンドマンの声に、はっは、と笑ったラーグハルトは、うーん、と伸びをする。
「今夜、アイツも誘って飲みに行くか」
「いいですね」
「で、このラムネ、一気にアイツのジョッキに全部ぶちまけてやろうぜ」
「その作戦に全面的に賛成します」
「きっとポッカーンてした後、慌てて上着の中探るぜ、アイツ。んで、〝いつ盗った!?〟って言う」
「それは……目に浮かびます」
ふふふ、と珍しくリンドマンは肩を震わせて、ラーグハルトもケラケラと笑った。
カサカサと金色を風が揺らす音が響く。
眩しい光が、降って来ていた。
「……腹減ったな」
「秋ですからね」
「おう」
空を仰ぎ見て、リンドマンがフムと顎に手を当てる。
「すぐに、冬が来るでしょう」
そうだな、と笑って、ラーグハルトは視線を空から地上に戻す。
賑やかに、穏やかに動き回る軍人達を見て、更に目を細めた。
「そうしたら、さらにすぐに春が来るぜ。それで夏も来て、また秋になって、一年が巡る」
満ち足りた声の響く空の下。
1965年、秋。
止まっていた時間は、緩やかに、動き出していた。
あなたに素敵な出会いがありますように。
本編はこれにて終了。
気力があれば、ノベルゲーム時に身内向け版の追補編として付けていた以下も追加するかもしれません。
「ウェルロッドの憂鬱」
ラーグハルトの追想。
士官学校から現在まで、有能な男が隠し通したもの。
※成就しないですが、同性に恋した顛末の話なので注意
「ペッパーボックスの黎明」
事件の数ヶ月前。
ルイとグースとブラッディ・ギャスパーの関係。




