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幸せの村  作者: かえで


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8/13

決戦前

クマとの戦いの準備に入ります。かつてのクマの被害をもとにある程度描いたつもりですが、今後にもその迫力が出るかどうか。

レスティは、苦虫を噛み潰した表情を隠そうともせず、私の話を聞いていた。

 ラティとの約束を交わした晩、私は、ラティを家に連れてきた。私は、夕食を家で取ってもらい、その席で今後の事を、ラティを交えてレスティに話す積もりでいたのだ。

 レスティは、私がラティを連れてきた事に驚かなかった。

 いつものようにおいしい夕食を取りながら、私はレスティに、私の決意を全て伝えた。

 話の後も、レスティは何も言わず、私ともラティとも目を合わせずに、むっとした表情でスープを飲みつづけていた。

 彼女は言葉でこそ反対しなかったが、明らかに反対していた。

今でも確証はない。あくまで私の推測の域を出ない。だが、それは決して間違っていないと思っている。

 食事が終わった後、レスティはラティと二人きりで話がしたいので、私に席を外して欲しいと告げた。

 私は了承した。

 レスティは私にとって母親のようなものだ。確か、ナミィを初めて両親に合わせたときも、私の母親は、ナミィと二人きりで話させて欲しい、と言ったように記憶している。

 私はラティをリビングに残し、表に出た。

 空はどんよりと曇り、今にも泣き出しそうだった。それは、あたかも私の今後に対する不安を具現化しているかのようだった。

 だが、私の心は決まっていた。

 私は、ラティツィータを守り、そして、彼女が生まれ育った村を守ってみせる。

 そう結論したのには訳があった。

 おそらく、私がこの村から出て行けば、奴の襲撃は避けられるはずだ。だが、よく考えてみれば、それでは事態は解決しない。私が逃げた所で、奴の襲撃こそ避けられるかもしれないが、他のクマの襲撃は避けられない。ハイイロオニグマと言う種の性質上……。

 私は、久しぶりに、拳を握り、繰り出してみた。かつて体が覚えた感覚に従って。

 体に痛みはない。

「直っている……」

 かつてハイイロオニグマに襲われ、負傷をした後の事。

 退院後、拳を繰り出してみたときには、体が痺れるように痛くて仕方がなかった。いずれは医者に元通りに動くことができるようになるだろうといわれた。だが、私の心の中に生じた痛みへの恐れは、もはや私を戦士たらしめなかった。

 私は握った拳を開いた。


―もう一度奴と戦おう。そして勝つ。今度こそ何も失わずに


 少しして、私は小屋に戻った。

 食卓には、ラティとレスティが向き合い、何かを話していたようだったが、私が小屋に入ると同時に、タイミングよく話が終わったようだった。

 激しい言い合いがあったのだろうか。レスティは顔を真っ赤にしていた。対するラティは完全に泣いていたのだろう。目を腫らしていた。

 私は、ラティを家に送り届けることをレスティに伝え、彼女と小屋を出た。

 彼女の家までの道中、私はそれとなくレスティと何を話したのかを聞いてみたが、ラティは、腫らした目を隠すこともせず、ただ微笑んでいるだけだった。

 ラティを彼女の家まで送り届け、家に戻った後、レスティにも同じ質問をしたのだが、彼女もラティ同様、渋面のまま首を横に振るだけだった。

 だが、私はこう言うシチュエーションを一度経験しているので、それほど深刻には捉えなかった。ちょうど、私の母親とナミィとが、全く同じ状況だったからだ。


 翌日、私は村長に、ハイイロオニグマを迎え撃つ準備をするように申し出た。

 元々、村長は腕利きの猟師だった。彼はハイイロオニグマの恐ろしさを知っていたが、同時に戦い方を心得ていた。そんな彼の協力が得られたのは、心強い限りだ。

 現在、群がどの辺りにいるのかを確認するため、調査隊が結成された。腕利きの猟師たちで結成された精鋭部隊。

 彼らは、猟師の特技を使い、ハイイロオニグマの足跡や糞の分布状況から、現在の群の大体の位置を割り出す事ができるのだという。

 そこに私が入る事はなかったが、私は村長や、他の猟師たちと共に、どうやって戦いを進めていくかの作戦を立てる事になった。

 当然、私はハイイロオニグマの標的が私かもしれない、などとは言わなかった。それをいった所で、何にもならない。むしろ、それを言ってしまう事によって、ハイイロオニグマをよく知る猟師以外の人間の反感を買って、動きにくくなると思ったからだ。

 それは、今でも必要な嘘だったと思っている。

 実際、奴とのいさかいは私だけだが、他のクマにしてみれば、この村の存在は、自分たちの縄張りを侵す侵入者の巣なのだ。

ハイイロオニグマにとって危険な存在だと認識されるに足る村。この村の猟師は、それほどに森の奥に狩りに行っていた。

私がいようがいまいが、遅かれ早かれこの村はハイイロオニグマの群と激突する事になっていたと言う訳だ。

 だが、その当時、私はそんな事はしらない。ただただ、自分の責任を全うしようとしていた。

 私が、村長や長老たちと作戦を練っている間に、調査隊が戻ってきた。

 クマは、村から半日ほど東に歩いた、うっそうと茂った森の中を拠点にしているらしかった。私が思っていたより、だいぶ接近が早い。それほど時間は残されていない。更に、クマと戦う為の武器もあまり揃っていない。クマと戦うための火器は無論の事、対クマ用の槍やトラップが、こんな小さな村にあるわけもない。

となれば、現在村にある罠を有効利用するしかなかった。後は、戦闘用に作られた訳ではない、農作業用に使う刃物などを戦闘に用いるしかない。

 今回使用することになったこれらの罠は、元々シカや野ウサギを捉えるためのものだった。これらの罠では、強力なハイイロオニグマを撃退するのにはとても使えそうになかったが、スイッチとしては使えた。つまり、罠そのものにハイイロオニグマを倒す力はないが、後で人為的に製作されたハイイロオニグマを倒せるだけのトラップに連動させる事で、一つの武器として使える事が確認できたのだ。

 そこで我々は、クマが村の入り口付近の数多くの巨木に爪あとをつけた際に通ったルートを割り出し、そこにトラップを仕掛けた。そのトラップというのは、奴らが、野ウサギなどを捕らえるためのトラップを稼働させたら、周囲に設置した無数の竹やりが飛び出てくる仕組みのものだ。

 設置の際に長い時間がかかると、我々が何かをそこでしていたことが匂いでわかってしまう。そのため、我々は、罠を予め組み立て、ハイイロオニグマの通りそうな所に、トラップをおいてくるだけで済むように計画をたて、実行に移した。

 農作業用の道具は、猟師がたまに熊狩りに用いる弓を除いては、あまり武器として使えそうなものはなかった。草を刈る鎌などは、人間相手には十分武器になるが、クマ相手にはどう考えても武器にはなり得ない。クマの体を傷つけることは可能なのだが、そこまで近づくことができない。もし、農耕具を武器として使えるとしたら、クマが弓で大地に倒れたときに、止めを刺すのに使うくらいだろう。

 私と村人は知恵を出し合って、必死にクマを倒せるトラップを考えた。

 そして、ついに激突の日は来た……。

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