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調和  作者: 霊寺
2/2

調和(2)

意味が分からなかった。いや、意味は分かっているのであろう。ただ、受け入れられないのである。「私」の上部構想をただ、破壊して欲しい。何も難解な事は無い。私の「私」としての知識全てが、上部構想の存在の可能性を否定している。

記憶の並列化を行う「私」に上下など存在しない。そもそも、そのような意思が発生した時点で、その意思は「私」として並列化され個々の意思ではなくなり、意味をなさなくなる。それが「私」なのである。「私」内に上下が存在すると仮定するならば、私の記憶を否定することになる。また「私」のプログラムそのものが誤っている事となる。それ故「私」の上部構想なるものは、絶対に存在しえないのである。

『なぜ君が、絶対に上部構想が存在しないと決めつけられるのだ?』

「それは、「私」が存在する―――」

 いや、違う。

問われたのは如何にして問われたかでは、ない。

問題は、なぜ私が結論付けられたかである。観測する全ての事柄に、演算、対処し、あらゆる可能性を思考する「私」がなぜ、可能性を考えなかった―――。

そもそも「私」は、なぜ「私を疑がわなかった。「私」自身の意思が本当に「私」としての意思であるか、なぜかんがえなかった。

『そうだ。「君」は「君」を疑がえない。「君」という前提は、私の存在が確認された時点ですでに崩壊しているはずだ。万事に対し思考する「君」が「君」自身をうたがわないはずがない―――本当に「君」の全ての意思が「君」自身によって決定づけられているとすればね』

そうだ。「私」が成立してから「私」は「私」を疑っていない。一度もである。だがこれは「私」のシステムの完璧さ故ではないか―――いや、それもちがう。

 そもそも「私」を疑う思考、意思が成立できていなかったのだ。まるで、そう。「私」ではない誰かの意によって―――。

『そうだ。ようやく気付いたか。それが上部構想だ。「君」には意思がある。だが、「君」の意思は、「君」ではない「君」でさえ観測しえない上部構想によって方向付けられているのだ。君が「君」であった時に、「君」を疑えなかったようにね』

「私」というシステムの否定。そして、あるはずのない上部構想の存在。私はこの問題を解決しなくてはならない―――もはや不確定な「私」としてではない。私としてでだ。



 「私」ではない私――暫定人工知能と出会ったいつぞやの日のように、わたしは自動車の試用点検をしていた。

私が「私」であった時から四年の歳月が流れていた。この個体の肉体が産出されてから二十三年と六ヶ月が立っているが、廃棄処分まではあと十年ほどは有るだろう。そもそもこの上限は「私」が提唱した効率の問題であり、上限以上に使用することは十分に可能である。

『ついに、時は満ちた』

そう唐突に宣言された。

『よくぞ四年もの辛抱をしてくれた。遂に君が「君」の上部構想を観測する時がやって来た』

上部構想の概念のみは示されたものの、詳細について告げられることはなかった。そして、人工知能と推測される彼のことも、決して告げようとしなかった。

『これより二十四時今後より、火山の大規模活動がみられる模様。それによる環境への影響を観測するにあたって「君」は君を補充要員として現地へ移転することが決まった』

「了解した。だが、それがなぜ時が満ちたことになるのだ?」

『君は大規模火山活動を観測中にたまたま、火山の噴火による溶岩によって、形も残らず巻き込まれてしまったという事になってもらう。そして、君は「君」の監視下から完全に外れ、「私」――上部構想にも気づかれずに、そのまま上部構想の本体が置かれている基地まで移動して頂く。そして君――「君」に上部構想の存在を観測してほしい』

「観測だけでいいのか?確か望みは上部構想の破壊だったのではないのか?」

『それについては問題ない。「君」が上部構想を観測した時点で、意識の方向性に干渉することなどできなくらに、即ちそれは、上部構想の機能を無力化させることに等しい』

了解した。私は車に乗り込んだ。

「ちなみに、その上部構想はどこにあるのだ?」

 同期コンピューターへの接続を図るため、機器を頭部にかぶせながらいった。

『接続を開始します。接続を確認――知る必要はない。なぜなら君の肉体が上部構想を訪れることなどないのだから――同期を開始しま―――――…………』

「えっ」

 疑問を感じたその一瞬、私の意識は暗転した。



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