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調和  作者: 霊寺
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遭遇

《規定時刻になりました。A班は速やかに作業を中断し、C班と交代してください》

 私は静電ガンをとめ、車体の塗装を止めた。本日の肉体使用時間の限界である。私達は速やかに就寝棟へと移動し始めた。

生体維持管理カプセルが壁にずらりと並んでいる。この個体認識番号と同じカプセルに入った。たとえ同じカプセルに見えても、私の個体は個々に差異があるため、それぞれ専用にチューニングされている。

入ると、扉が自動的に閉まり、脳との接続のために頭部を覆うようにして機器が被さる。

『接続を開始します。接続を確認。同期を開始します』

私の脳に大量の情報が流れ込む。地球の気象、事件や事故、人口の変移から、些細なものなら、今の時間、私の行動、健康状態、私が今日行った排便の量から、どう生物を消化したか、私が塗った車体が、私がどう組み立て、どう使ったのか。見たもの、聞いたもの。観測する全ての事象に対し、あらゆる可能性を発見、演算、対処するのである。それらすべての「私」が観測しうる情報が流れ込んでいる。

そう、私は全ての「私」と同期しているのだ。

 全人類は「私」なのである。個人というものは存在せず、有るのは、三億の個体と「私」という共有と並列化された意識である。この個体は労働型の個体であるため、こうして一日一回の動機作業を行っているが、演算型の個体であれば、脳に直接ディバイスを入れて、リアルタイムで「私」と同期させている。もちろんそこには、身分の上下などは存在せず、有るのは、個々の能力の優劣であり、効率の問題であるわけだ。

 人類には、真の世界平和が実現されたのである。




《規定時刻になりました。G班は速やかに作業を中断し、A班と交代してください》

三時間の睡眠や栄養補給を伴う個体整備が終わると、また作業にもどる。永遠なる繰り返しであるが、「私」はこの永遠に価値を見出している。

 今日のこの個体の作業は、自動車の試用点検であった。いくら「私」が共有されようと、やはり稀に不良製品というのが出てくるのだ。それを防ぐための試用点検である。

 今時の自動車というのは一人乗りが主流で、主に主要都市からごく少数の個体が環境維持目的で派遣されている地方への移動手段としてである。長距離使用が前提であり、もちろんコンピューターによって運転される。

 私は乗り込むと、コンピューターと接続のため機器を頭部へかぶせた。自動車の移動は長時間となる場合が多いので、「私」との同期機能や個体のモニタリング機能などが搭載されている。

『接続を開始します。接続を確認。同期を開始しsmgガmガガzザザsザジジwジーr……―・―d―……』

 突然機械がノイズを発した。今月三度目である。もちろんこの個体ではなく「私」としてだが。処理方法は分かっている。この機械を分解し研究したのち、廃棄し原因追究するだけだ。

 そう結論づけると、私は今もなおノイズを発し続ける機械を強制終了させようとした。

『ガザgガーザzジ・ガj。ザジザy――――g――――……g………mっまってくれ』

 突然、私の脳に意思が侵入した。

『強制終了はよしてくれ。私の話しを聞いてみてはくれんかね』

私は驚いた。調和を実現して百年あまり、初めての出来事だったからだ。そもそも、驚くという感情そのものが百年ぶりだった。

「何者だ」

『いやいや、そう固くならないでくれ。私はそうだな、重要なのは「私」が君達、いや、君では無いということだ』

「そんなことがあるものか!」

全ての人類は「私」である。例外は、無い。

『しかし、現に君の知らない私がここにいるだろう』

確かに彼がいう通りである。全知であるはずの「私」に、確かに「私」の知らない「私」がここに存在してしまっている。ここ百年の間で一番の大問題だ。

「どこから来た」

私は全てを知っているはずだった。世界で何が生産され、どう運用しているか。こんな物を産んだ事実も無い。そもそも、世界は「私」が管理しているのだから、こんなものは産まれる施設も無い。

『残念ながら今はまだ、それを言うことは出来ない。だが、もしお前が私に協力してくれたとすれば、その限りでもない』

「協力だと?いったい何を協力しろというのだ?」

『しかしひとまず、早く君にこの車体を問題無かったということにしてもらわなければ私という問題は永遠に解決しないだろうよ。元論、無理矢理私を解体すれば自壊するだけだ。私を解決出来るのは、「君」では無く君だけなのだよ』

私は機器を外すと、車を降りた。


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