1.23真龍ってかっこつけすぎじゃないでしょうか
「せ、や、か、ら、違う言うてるやろ。そこは、こう、空間の見えへんところをギュッとするんや! 何回言わせんのよ」
サクラによる時空魔術の指導が始まって一ヶ月、俺は毎日のようにサクラに扱かれていた。
いや、情報空間へのアクセスはできたのだ。半月ほどかかったけど、それでもかなり辛辣な言葉が飛んできたけど。そしたら、次にサクラが言い出したのだ。
「いい加減、迎えに来るのが面倒や。アルが転移魔術覚えればええんと違うか」
そして始まった更なる指導。正直きつい。大体、サクラの教え方が悪い。冒頭の言葉から分かると思うけど、サクラの説明は極めて下手だ。同じフレーズでの説明しか飛んでこない。
しかも、できないと辛辣な言葉が飛んでくる。こっちはバリエーション豊富に。
これで見た目が三角メガネかけたザマスおば様みたいだったら心が折れていたに違いない。可愛らしい幼女だから許されているけど。
指導開始から一時間ほどして。
「ふ~、時間やわ。今日はここまで! もうちょっとやから、夜寝る前とかに頑張りや」
必死に空間の見えないところを認識しようとしていた俺にサクラの声が届き、俺は理力を使うのを止めた。
「うーん、もう少しな気がする」
部屋を出ていくサクラを見ながら俺はつぶやいていた。
説明下手なサクラだが、時空理術の使い方は一流だと思う。いつも連れてこられるときに見ていると分かるのだが、理力の使い方が芸術的だ。俺も、その理力の動きをトレースしているつもりなのにできていない。
理術の基本は、現象の理解、理力の変換、現象の再現と言われる。そのうち、現象の理解は転移の理論をサクラに叩き込まれた。理力の変換は、サクラのお手本を何度もみて学んだ。
問題は現象の再現だ。これには現象が起こるイメージが大事だ。だが地球で転移などというと、オカルトかファンタジー扱いである。そのイメージが強い俺には難しい。
いくら目の前で見せられても何かトリックが、などと心のどこかで疑ってしまう。
「地球でのイメージが邪魔をしているのか」
「それは、あるかもやな。一回、全部忘れてみたら。あ、それええな。私が全部忘れさせたげようか。そしたら、おやつのことも忘れるかなぁ?」
気づけは、サクラが帰って来ていた。手にはお菓子皿とお茶をもって。悪口も添えて。
「せめて、それ食べてからにして」
サクラがやると言ったら、本当にやりかねない。だからせめて、皿の上のうまそうなアップルパイを記憶があるうちに食べたかった。
「冗談に決まっとるやろ。分かっとるくせに」
素敵な笑顔でお菓子皿を俺の前に差し出してくるサクラ。残念ながら俺には冗談には聞こえなかった。言わないけど。
だがしかし数日後、その冗談は現実のものとなった。
進展のない俺に業を煮やしたサクラが、またしても乱暴に転移魔術に引きずり込んだ結果、頭を強打したのだった。おかげで何かを閃いて転移理術を覚えた俺だったが、サクラの恐ろしさを再認識する結果となった。
本当に痛かった……。
サクラに転移理術を習っている間、ただ、転移の訓練だけをしていた訳では無い。情報空間に俺の記憶の限りの情報を登録したり、保存されている情報を読み進めていた。
地球の情報登録は、他の情報空間を利用する人達を含めた多数の人たちからの要望だった。
大変そうに思われた情報登録だったが、作業自体は簡単だ。
ただ、これを登録しようと思うだけでよかった。そうすれば勝手に足りない情報を脳内から補足して保管してくれる。指一本動かさない作業。情報空間、インターネットの数百年先を行きそうなスーパーなシステムだった。
その後は情報の検索を行った。こっちは、知恵と技術を欲した俺の要望だ。これも言葉やイメージで検索可能だった。
その検索機能で俺が初めに探ったのは、彼らが何者であるかということだ。疑っている訳では無いけど、気にするなというのが無理な相談だった。
不都合な部分は隠されているとは思うのだが。
だが、これに手こずった。なにしろ長老とかサクラとかで検索するとヒット数が膨大だ。仕方がなく、長老でヒットした古~いテキストを読み進めて何とかキーワードを探り当てた。
そのキーワードは、『真龍』だ。
この『真龍』というのは、彼らの総称のようであった。『真龍』とは何かを追い求め人の理から外れてしまった者達のことであると書かれていた。
地球でいうと、ファンタジーに出てくる仙人みたいなものだろうか? 霞ではなく、お菓子食べているけど。
そこからさらに読み進めると、初めに『真龍』へと到達したのは長老だったようだということが分かった。その後、『治癒』、『武』、『鍛冶』とそれぞれ極めた事柄で呼ばれる人が入りだし、順次増えていったようだ。
残念ながらこの辺りは、推測になってしまう。『時空』いやサクラと言った方が分かりやすいか、が登場していない頃の記録なので、資料が少なくて。
さらにテキストを読んでいく。すると総勢十数名の登録情報が確認された。死亡等の抹消情報は一切見当たらなかった。
『真龍』と呼ばれる者は、死なない、もしくは果てしなく長寿ということだろうと理解することにした。
『真龍』、きっと頂点を極めたすごい人の集まりだろう。人から外れてまで自らの信念を追い求めているのだから。だけど、いや、だからこそ思う、もうちょっと違う名前は無かったのかと。中二病みたいな名前ではないかと。
残念に思いながら、俺は情報空間を閉じた。




