ホワイトクリスマス
水族館からシャトルバスに乗り、最寄りの駅まで移動する。
バスの中は人がたくさん乗っており、恋人たちも多い。
「水族館、楽しかったね」
「あぁ、ちょっとしたアクシデントはあったけどな」
まさかイルカショーであんなことになるなんて。
でも、一緒に舞台裏を見て回れたのは良かったかな。
手元のスマホを操作し、さっき撮った杏里の写真を見る。
ペンギンと杏里のツーショットはなかなかのレア写真だ。
「あ、その写真……」
「さっき撮ったんだ。なかなかよく撮れているだろ?」
杏里が俺の肩に頭を乗せ、スマホを覗き込んでくる。
「そういえば司君と一緒に写真撮ってなかった」
「そういえばそうだな。よし、この後街に行ったら一緒に撮ろうか」
この後の予定を軽く杏里と話し、バスを降りてそのまま駅に。
待ち時間なく電車に乗って街に行く。
「学校とバイトがないと、なかなか街には来ないもんだね」
「まぁ、近所の商店街でだいたい用事は済んでしまうからなー」
電車を降り、そのまま改札口に移動する。
外に出るとさっきよりも風が冷たくなっており、空もどんよりと曇ってきた。
「なんだか急に寒くなったね、司君大丈夫?」
「俺か? 俺は平気だけど」
「そう、さっき濡れたからちょっと心配しちゃって」
「服は乾いたけど、寒いといったら寒いな」
冬だし、外だし、風も冷たいし。
「こうすればもっとあったかいよ」
杏里が俺の腕にからまってきて、手を握ってきた。
そしてつないだ手を、俺のジャケットのポケットに入れる。
そのまま杏里は体を俺にぴったりとくっつけて、歩き始めた。
「ほら、こうするとあったかいでしょ?」
「そ、そうだな。あったかいよ」
すこし、どもってしまった。
なんだか杏里の様子がいつもと違う気がする。
俺の思い過ごしか?
「少し時間もあるし、たまには二人でゆっくり歩きたいな……」
目的地はあるけど、少し時間が早い。
予定の時間になるまで杏里と一緒に街をぶらつく。
アーケードに鳴り響くクリスマスのメロディー。
それを聞くだけでなんだか楽しい気分になってくる。
杏里と二人でただブラブラと歩くアーケードも悪くない。
「あ、司君サンタがいる」
杏里の視線を追ってみると、確かにサンタがいた。
子供達に風船を渡して、何かチラシを配っている。
「あのサンタ、太ってないな」
「そうだね、少しやせてる?」
クリスマスの時期、街にはサンタがあふれているが、あのサンタには何なんとなく違和感を感じた。
サンタの近くを通りかかり、視線を向けて観察してみた。
「……なんか聞き覚えのある声だな」
あの動き、そしてその声。
「ほら、そこの子供たち! 風船をあげるからこのチラシをパパとママに見せるんだぞ!」
「風船! 二個ちょーだい!」
「ダメダメ! 一人一個!」
「弟にあげるの! サンタなんだからケチなこと言わないの!」
「わかったよ、だったらママとパパにケーキをねだるんだぞ。ほら、風船やるから」
「わーい! ありがとうサンタのおじさん」
なんだか、サンタは忙しそうだ。
「お、おじさん……。おじさんじゃない!」
俺の隣で杏里がサンタをじーっと見ている。
「あ、あのさ。もしかして……」
「あ、あぁ……。ちょ、ちょっと声かけてみるか」
俺は杏里と一緒にサンタの目の前にやってくる。
そして、恐る恐る声をかけた。
「風船くれよ」
「子供だけなんですよー、って天童! なんでお前がここに!」
白く長い髭の上には知っている顔。
なぜか高山がここにいる。
「いやいや、それはこっちのセリフだよ。何してるんだ?」
「いやー、休みの予定だったのに、急にバイトが。でも。夕方までだからさ」
「あの、彩音は?」
「彩音とはこの後待ち合わせ。多分喫茶店とかにいるんじゃないかな?」
まさかの高山。
あれだけ張り切っていた高山がサンタになっている。
バイトの邪魔をしてはいけないので、早々に立ち去ろう。
「じゃ、俺たちデートの途中なんで」
「あ、待てよ! ケーキ買ってくれよ!」
「悪い、ケーキは家に帰った後に作る予定なんだ」
「そっか、じゃぁクッキーでもいいからさ。クッキー買って、SS31の展望室でしゃれこんでもいいんじゃないか?」
SS31。通称エスエスサーティーワン。アーケードから少し離れた高層ビルだ。
最上階は展望室になっており、遠くまで見通せる。
海も山も港も駅も、もちろん夜には夜景も見ることができ、恋人たちにも大人気のスポットの一つである。
ただし、この場所で待ち合わせをすると破局するという都市伝説があったりもする。
「じゃ、少し買っていくよ。バイト頑張れよ」
「おう、サンキュな! メリークリスマス!」
軽く高山と話してその場を去る。
手にはある意味押し売りされたクッキーの入った紙袋。
まぁ、目的地に行く前にちょっと寄り道してもいいよね。
再び杏里と一緒にアーケードを歩き始める。
「高山君、バイトだったんだ」
「急な欠員でも出たんだろうな」
「そっか。彩音さみしがっていないかな?」
「どうだろう。でも、俺達が杉本さんを誘うより、この後高山と二人になった方がいいんじゃないか?」
「そうかな……。でも、高山君もバイト断ればいいのに。せっかく彩音だって、いろいろと今日の日の為に――」
杏里は何かを言いかけたが、ワタワタしはじめ、話を途中でやめてしまった。
杉本は何か計画でも立てていたのかな?
まぁ、高山も結構正義感が強いというか、責任感があるというか。
根はまじめなんだよな……。
握った手がいつもよりも温かく感じる。
寒いせいなのか、それとも杏里の想いなのか。
「で、でもね。彩音には悪いけど、私は司君と二人で過ごせて幸せかも」
杏里の笑顔が眩しい。
「俺も杏里と一緒に過ごせて幸せだよ」
つないだ手は温かい。
外は寒く風も冷たいが、つないでいる手は温かい。
空を見上げると雪がちらついてきた。
どうりで寒いはずだ。
「司君! 見て、雪だよ!」
「お、やっぱり降ってきたな」
「ホワイトクリスマスだね!」
二人で見上げた曇った空。
ちらつく雪は真っ白で、少しずつ増えていく。
雪が杏里の頬にくっつき、溶けてしまった。
「冷たい」
俺は頬に着いた水滴をぬぐい、そのまま杏里の頬をなでる。
「大降りになる前に帰ろうな」
「うんっ」
雪降る中、俺たちのクリスマスデートはまだまだ続く。




