充実した日々
ドキドキしながら封筒を開ける。
何だろう? 何が書いているのかな?
『好きです』とか書いてったりー!
『放課後、屋上で待ってます』
ひと言しか書いていない。
誰? でも、この筆跡は微妙だ。
女なのか、男なのか分からない。
でも、放課後に屋上ってあれしかないですよね?
絶対にあれですよね!
「放課後、屋上に来るように書かれている」
「女の子?」
「うーん、分からん。名無しの太郎さんだ」
「見てもいい?」
俺は杏里にもらった手紙を渡す。
鑑識班の出番だ。
「この封筒はその辺で売っているし、この筆跡からも男女が分からない……。でも、放課後に屋上って事は……」
どうする?
「とりあえず行ってみるよ。杏里は心配しなくてもいいよ」
「……うん。前と逆の立場になっちゃったね」
そういえば杏里も屋上で何度か告白を受けたらしいな。
ついに俺にもそんなイベントが。
でも、答えは一つ! もし、付き合ってくださいとか言われたら、俺はこう答えるだろう。
『だが断る!』
俺は意志の強い男。
杏里以上の女性はこの世にいないのだ。
そして、あっと言う間に放課後。
時間が流れるのは早い。
「じゃ、俺はこの後予定があるので……」
「なんだ、先に帰るのか? ボウリングのチケット手に入ったから一緒に行こうと思ったのに!」
高山! なんでそうポンポンと……。
まぁ、いい。
「すまん。先約なんだ。ボウリングはまたの機会に」
「しょうが無いな。天童がいないと、面白くないしなっ」
なんでそうなる? 俺だってボウリング位できますよ?
「悪いな」
俺は呼び出された屋上に向かう。
杏里はそのまま教室に残り、杉本と何か話していた。
さて、さっさと終わらせますか。
屋上に行く階段を上がり、扉を開ける。
少しだけ冷たい風が吹く屋上。
そろそろ冬になるのかな。
フェンスの手前に立ち、向こうを向いて立っている生徒がいた。
誰だろ?
「俺を呼び出したのは君か?」
その生徒は振り返り、俺の目の前にやってくる。
「来てくれてありがとう。その手紙を書いたのは私」
見た感じ真面目そうな女の子で、それなりに可愛い。
ま、杏里の方が可愛いけどね!
「名前も書かないで、なんで俺を?」
彼女はゆっくりと俺に近づき、顔を覗き込まれた。
何を見ているんだ?
「傷、すっかり治ったみたいだね。ごめんね、急に呼び出して」
彼女は俺から少し距離を取り、真っ直ぐに俺を見てくる。
もしかして、いよいよか?
内心ドキドキしながら彼女が口を開くのを待つ。
「天童君、結婚式も披露宴もすごくかっこよかったよ」
「おう、ありがとな」
頑張りましたからね!
いやー、結構準備も大変だったんですよ!
「あのね、噂で聞いたんだけど……。姫川さんとお付き合いしてるの?」
きた。何となく聞かれるような気がしていたけど、ストレートに聞かれた。
「そうだよ。姫川さんと付き合っている」
少しだ悲しそうな表情をする彼女。
俺が悪いわけではないけど、何となく心が痛い。
「そっか……。じゃぁ、あの結婚式も二人が望んでいた事なんだね」
「……そうなるかな」
スっと彼女が俺に抱き着いてきた。
おっふ、何ですかこの展開!
「ずっと、好きだったの。初めて天童君を見た時、一目で恋に落ちた」
俺は優しく彼女の肩を握り、突き放す。
俺には心に決めた人がいるのだ。
「ごめん。君の気持ちには応えられない。俺は杏里の事が好きなんだ」
「……わかってた。多分実らない恋になる事はずっと前からわかってたよ。ごめんね」
「じゃぁ、なんで……」
「振られたかったの。自分の想いを伝えて、振ってほしかった。私も次の恋にいきたいから」
もし、俺が杏里と付き合っていなかったら、彼女と付き合っていたかもしれない。
でも、今の俺には心に誓った杏里がいる。
「ごめんな。新しい恋ができるように応援しているよ」
彼女の瞼に涙が見えた。
「うん。ありがとう、最後まで聞いてくれて。ずっと好きでした……」
そんな事を言われると心が痛くなる。
なんでだろう。俺があの子に好きになられて、告白を断る。
でも、心が痛くなるのは罪悪感があるからなのか?
胸がチクチクする。
「伝えてくれてありがとう。その気持ちに応えられなくてごめんな」
彼女は振り返り、再びフェンス越しに遠くを見ている。
もしかしたら泣いているのかな?
でも、ここで声をかけるのは違う気がする。
俺は色々と考えながら屋上の入り口に向かって歩く。
……入り口に向かう途中、扉が少しだけ開いているのに気が付く。
何となく、誰かがいるような気がした。
途中からダッシュして扉を一気に開ける。
「何でいるんだよ」
「……ごめん。どうしても心配になって覗きに来ちゃった。司君だって前、覗いていたでしょ?」
まー、確かにそうですね。
「覗きはあまりいい事ではないぞ?」
「うん……。告白されたの?」
「まー、そうだけど。断ったよ、俺には好きな人がいるって」
少しだけ頬を赤くする杏里は可愛い。
そんな可愛い彼女が俺の恋人なのだ!
「その好きな人って……」
「杏里の事に決まってるだろ? さて、用件も終わったし、帰ろうか」
「うんっ」
杏里と誰もいない階段を下りながら、文化祭の日を思い出す。
杏里のドレス姿も綺麗だったし、誓いのキスとかも……。
あかん、何だか恥ずかしくなってきた。
つないだ手からも俺の熱が伝わっていたらどうしよう!
「俺はずっと杏里の事が好きだよ。死ぬまでずっとだ」
「うん……。私もずっと司君の事好きだから、私の事も好きでいてね」
杏里の手を握り、杏里の方を見てみる。
階段の段差のせいか、ちょうど俺と同じくらいの背の高さになった杏里。
自然と杏里の顔が近づいてくる。いや、俺が近づいているのか?
鼻と鼻がくっ付きそうになる。
あ、この雰囲気……。
「ゴホンッ! あー、んー」
俺と杏里は光速で離れる。
え? 何? 誰?
「あー、お熱いのは良いけど、出来れば誰もいない所でしてほしいもんだな」
「高山。何してるの?」
「んー、何となく心配だったから階段下で待機していた。姫川さんが天童の後をこっそりついて行ったから、ここは親友として追わないとダメだろ?」
「ご、ごめんね。杏里が行った後に、高山君も追いかけて行ったので、その流れで私もこっそり来ちゃった……」
杉本さんまで……。
あー、恥ずかしい!
「高山!」
「な、なんだよ」
「ボウリングは何人までできるんだ?」
「四人!」
「みんな、この後の予定は?」
「「ボウリング!」」
話をすり替える。
真っ赤になった杏里も可愛いけど、このままだったらきっとゆでだこになだろう。
「杏里、ボウリングした事あるか?」
「あ、あるよ。アベレージで二百位だけど……」
おっふ。何それ? 結構なハイスコアじゃないですか?
「杏里、ボウリングうまいんだね! 私なんて五十位だよ!」
五十……。杉本さんはスポーツタイプじゃないからなー。
「っしゃ! じゃぁ、お互いにペアになった勝負だ! 負けた方がアイスおごり!」
良いだろう。俺だってそれなりにできる!
杏里に良い所見せるぜ!
「良いだろう! 俺の腕を見せてやる!」
毎日が楽しい。毎日色々な事がある。
全く同じ日はなく、その日はその日ににしか訪れない。
だったらその日を楽しもう。
やりたい事、やらなければならない事。
俺達はそれぞれの未来を描きながら、その日を過ごす。
たまには休む事もあるけれど、それでも一日一日を大切に過ごす。
大切な人と、大切な仲間と。
「司君、アベレージどれくらい?」
「俺か? 聞いて驚け! 前回は三十だ!」
ボウリング、うまくならないんだよねー。
何度練習しても。でも、杏里と一緒に、みんなと一緒のボウリングはきっと楽しい。
「ぷはぁー、天童へたくそ!」
「いいんだよ。その場が盛り上がれば! 今日は杉本さんに負けない!」
「私だって負けないからね!」
今日も一日、ありがとう。
俺は毎日充実してます!




