この時を大切に
観覧車も無事に一周し、全員戻ってきた。
一番初めに降りた俺と杏里はみんなが戻って来るのを見ていた。
が、なぜかみんな無言だ。
心なしかみんな赤面している気がする。
いつものハイテンションお祭り男の高山も無言だ。
俺は気が利く男。ここは何も聞かないでおこう。
「どうだ、みんな観覧車楽しかったか?」
でも、やっぱり気になりますよね!
「お、おぅ! 楽しかったぜ! な、彩音!」
「う、うん。思ったより楽しかったよねっ」
なぜかもじもじしている杉本。
ふーん、これは何かありましたね。
「え、遠藤も楽しかったよな!」
「僕かい? そりゃ楽しいさ。優衣と一緒に初めて乗った観覧車だからね」
さらりと発言する遠藤。
隣に立っている井上はさっきから遠藤の袖を握っており、終始無言。
なになに? 何があったの?
「良君も観覧車ではしゃいで大変だったよ!」
良君の腕をつかみ、真奈がやってくる。
しかし、良君の顔色があまりすぐれない。
「え? はしゃいで揺らしたのは真奈ちゃんじゃ……」
「何か言った?」
「いえ、何でもないです……」
おーう。すっかり尻に敷かれていますね。
こりゃ将来どうなる事やら。
「さて、そろそろ帰るか?」
「そうだね。私も電車があるし、早く帰らないと怒られちゃう」
真奈は実家から電車で来ており、帰らなければならない。
今度何かイベントがあったら家に泊めてもいいかな?
「っしゃ! 帰りますか!」
「あ、折角だし、みんなで写真撮ろうよ!」
「いいね、じゃぁ、誰かに頼むか」
辺りを見渡すと一組のカップルが歩いている。
「すいませーん! 写真撮ってもらっていいですか!」
ん? 声をかけたカップル。
どこかで見た事があるような……。
「あれ? 天童君?」
あー、さっき話しかけられた人だ。
「あの、みんなで写真撮ろうかと思って……」
「いいよー。雅、少し待ってて」
「今日はみんなで来ていたんだね。学生っていいねー」
ほんわかした雰囲気の雅さん。
大人の女性って感じがするな。
「おーい、写真撮ってくれるって」
「やった! ほら、みんな並ぼうぜ!」
カメラを持った純平さんにみんなで笑顔を見せ、観覧車をバックにみんなで並ぶ。
俺は杏里と後列に。しかも一番端っこだ。
いいよ別に、俺が真ん中じゃなくてもさ。
真ん中には良君と真奈。
その周りを俺達が囲んでいる感じだ。
「撮るよー! ハイチーズ!」
掛け声とともに俺達は満面の笑顔。
高山はブイサインをしっかりとしている。
「いいねー、もう一枚撮るよ!」
「「はーい」」
「ハイチーズ!」
シャッターが切られる瞬間、杏里が俺の腕に絡まってきた。
そして、俺の腕に杏里の体がしっかりとつくっついている。
握った手はもちろん恋人つなぎだ。
あん、もー杏里さんたら大胆なんだからっ!
「おっけー! ちゃんと撮れたよ」
「ありがとうございます」
純平さんからカメラを貰い、お礼を言う。
「あ、天童君。俺達も写真撮ってもらっていいかな?」
「いいですよ!」
純平さんからカメラを預かり、カメラを握る。
俺達と同じように観覧車を背景に並んだ二人。
画面に映った二人は大人の雰囲気だ。
立ち方も何となく大人っぽい。
二人で腕をからませ、大人の恋人同士って感じがするな。
「撮りますよ。ハイチーズ!」
何枚か写真を撮り、カメラを返す。
「ありがとう。記念になったよ」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「じゃ、またね」
「純平、そろそろ行こうか。早くしないと渋滞に巻き込まれるよっ」
「そんなに慌てなくてもいいだろ? 旅館までそんなに遠くないし……」
「私は早く温泉に入りたいの! じゃ、またね。姫川さんと仲良くね」
二人が俺達から去っていく。
車で来て、温泉に行く。学生の俺とはやっぱり違うんだな。
いつか、俺も車の免許を取って杏里と一緒にドライブにって、温泉に……。
大人っていいな! 高校卒業して、大学に行って、社会人になる。
あんな感じの仲良い恋人になっていたら、俺もきっと幸せなんだろうなー。
「何見てるの?」
「ん? 大人っていいなーって」
杏里が少しだけ困った顔つきになっている。
何だろう? 変なこと言ったかな?
「大人にはいつかなれるよ。でも、この時は今しかないんだよ?」
そうだな。杏里の言う通りかもしれない。
「だな、今は今。この時を大切にしなくちゃな!」
夕日が差し込む動物園。
みんなで駅に行き、それぞれが話しこんでいる。
良君の肩に寄りかかったまま真奈は寝ているようだ。
よっぽど疲れたんだろうな。
「お姉ちゃん、僕やっぱりお姉ちゃんと同じ高校を目指すよ」
「そうなの? やっと希望校決まった?」
「うん。お姉ちゃんや天童さん、それに真奈ちゃんのいる学校に行きたい」
「そっか。やっと決まったね。頑張ってね」
「勉強見てくれる?」
「もちろん。ここには学年トップのみんながいるから絶対に合格するよ」
「ありがとう。僕、頑張るね」
良君の進路も何気に決まったようだ。
自分がどんな事を考え、将来を見て、進学する。
良君は何を目指すのかな?
「ふぁぁぁぁ! 眠い!」
「高山君、声大きいよ。もぅ、しょうがないな。私に寄りかかってもいいよ」
「そっか、悪いな! じゃ、遠慮なく」
いつもより大胆な高山。
どうやら一皮むけた様だ。
「拓海、今日はどうする? 駅から走って帰る?」
「今日くらいゆっくり電車で帰ろうか。また、夜連絡するよ」
「うん。待ってるね」
何だかみんないい雰囲気だな。
周りの話を聞きながら、俺もうつらうつらしてくる。
不意に肩が重くなった。
俺に寄りかかってくる杏里。
昨日も遅かったし、少し寝かせておくか。
「司君……。楽しかったね……」
目を閉じたまま、杏里は何かをモニモニ話している。
寝言? それとも寝たふり?
「俺も楽しかったよ。おやすみ」
こうして俺達の動物園デートは幕を閉じる。
みんなで来る動物園もいいけど、今度は杏里と二人で出かけたいな。
水族館か……。ネットで調べておきますかね。
――
動物園デートから数日後、いつもの様に杏里と一緒に登校。
今ではすっかり慣れたが、一緒に通学する毎日が楽しい。
たわいもない会話、それが日課となっている。
そして、俺は今下駄箱を開け上履きを履こうとしている。
だがしかし、そこには一通の封筒が入っていた。
「司君? どうしたの?」
「ふぁ! あ、え、手紙が……」
思わず動揺してしまう。
もしかして恋文か? 俺には杏里と言う妻がいるのに、そんな俺に恋のお手紙が!
「……水色の封筒だね。見せて?」
おおぅ! 杏里の目が怖い!
何ですかそのつり上がった目は! 普段は絶対に見ないような、暗黒オーラが出ていますよ!
「中も見るの?」
「……先に司君が読んで。その後に内容を教えてもらえるかな?」
俺の手から杏里の手に渡った水色の封筒。
天に掲げ中を透かして見ている。
「あ、後で読もうかな……」
「まだホームルームまで時間あるよ? 今ここで読んでもらえるかな?」
南無。中身は何なのか、差出人は誰なのか。
包み隠さず杏里には伝えよう。
それが男ってもんだ! ごめんよ、名もなき差出人様!




