神様、帝国ぶらり旅!
街道を帝都に向かって歩いて行くと、何やら前方が騒がしくなってきた。周りの会話から察するに、誰かが貴族の馬車を止めてしまったようだ。
「おい、そこの平民。この馬車が貴族の物と知っての邪魔立てか?それとも、知らずに馬車でも奪おうとしたか?
平民ふぜいに馬車など似合わん、近づくだけでも死罪と知れ!」
側にいる護衛らしき男と臣下の者たちが、地面に倒れた家族に唾を吐きかけ罵倒している。
「いえ、盗むなどとんでもありません。
この子が馬車に気付かず飛び出してしまい、申し訳ありませんでした。どうかご慈悲を!」
「虫けらにかける慈悲などない。すぐに処刑しろ!」
馬車の中から陰湿な貴族の声が聞こえると、集まった人々はその言葉に目をそらし始めた。
(人間はいつもこんな調子なのか?)
彼方に驚いた様子は微塵もなかった。ただ眼光は激しい怒りと悲しみが同居しているようだった。
「残念だけど、いつもこんな調子さ」
「大将さん、彼方さん、これは余りにも酷すぎます。
何とかなりませんか?」
直音の気持ちは至極当然だが、ここで騒ぎを起こしたら面倒なことに巻き込まれるのは必至だ。
「彼方!まさか・・・」
彼方が馬車に近づくと、すぐさま護衛に取り囲まれた。
(さぞや高貴な方の馬車とお見受けする。このような平民などを相手にされては家名に傷がつくと言うもの。見たところ先を急がれるのではないか?)
彼方の気品ある見た目と言葉に気を良くした貴族は有頂天だった。
「おお、そこの者。私の高貴さが分かるか、そうか(笑)
平民など虫けら同然、いくらでも湧いてくる。どれだけ潰してもキリがないからな」
(高貴な振る舞いに感謝いたします。あなたは帝国でも名のある貴族なのでしょう)
「そうだ、当然だ。私は有名だからな(笑)
もう良い、先を急ぐぞ!わっはっはっ!」
気分を良くした貴族一行が馬車を進ませると、この騒動は決着した。
俺はあの時、彼方が短気を起こして実力行使に出のではないかと勘ぐった。しかし実際は彼方の見事な振る舞いと品格に、神様スゲー!と、ついつい嬉しくなってしまった。
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
助けられた人々がお礼のコーラスを奏でるなか、彼方は人間をどのように感じたのだろう。
(汝に神のご加護があらんことを)
◇◆◇◆
そろそろ日も暮れ始め、辺りが薄暗くなってきた。虫の声に風情を感じながら、腹の虫が情緒を壊してくれた。
「そう言えばお腹が空いてきたな」
「実は私もです・・・」
「そうそう、彼方は食事とかはどうしてるんだい?」
(特に必要としない)
「イイなぁ、やっぱり神様スゲーよ」
「大将さん、神様は凄くて当然ですよ。
だって神様ですもの(笑)」
「取り敢えず近くの街に行こう!」
「そうですね」
こうして、俺たちは薄暗くなった街道を月明かりだけを頼りに街を目指した。