魔王は捕虜に質問す 2
今回も短いです。
話の流れとしてはほぼ進行していません、というのも息抜きに近い回である為です。
だから閑話に近い話ではあります。むしろ閑話と言った方が良いかもしれません、そんな話ですが楽しんでいただければ幸いです。
魔王城には、修練所や工場など、特定の用途が決まった部屋以外も無数にある。
それらの部屋は昔、この魔王城に住み込んでいた兵士や給仕の魔族に宛がわれていた。もちろんそれは10魔族の皆も同じである。
まぁ、部屋と簡潔に言ってはいるが、彼らに与えたのは一種施設と呼んだ方が正しいかもしれない。
リジィー・スロードは何となく、とある扉の前……シュリの部屋の前でその事を思い出していた。
(確か……シュリに与えたのは巨大な書庫であったはずだ。当時の彼女は、魔法はもちろんの事、ありとあらゆる知識を欲していた。故に当時使っていた書庫を改装し、シュリに与えた上で、新たな書庫を作ったのだったか……)
その後、この部屋がどうなったのかは知らない。その場をどう扱おうが、部屋の主であるシュリの自由だったからだ。
だからこの扉の先……そこに広がるのは、シュリの趣味や性格が露わになった世界のはずなのだ。
……何故だろうか……そう意識すると途端に入るのを物怖じしてしまう。やましい事など何もないのに不思議だ。
……シュリには既に連絡を取り、捕虜と会う約束を取り付けている。その際、ノックも何も必要ないと言われている。
だからこのまま扉を開けて入っていいはずなのだ。シュリが言っているのだから問題ないはずなのだ……だがそれが出来なかった。
時間を無駄にする事十数分、何故か躊躇う感情に活を入れ、扉を開けて中に入った……
「お待ちしておりました。リジィー様。」
開けた扉の前、笑顔で出迎えるシュリの姿がそこにある……もしかしてずっと待っていたのか?
まさか扉の前にいるとは思っていなかった俺は、彼女の姿に驚き、何の反応も返してやる事が出来なかった。
「玩具に会いたいという話でしたよね。奥に場を設けましたのでどうぞ此方に。」
シュリは俺の対応を気にしていないのだろう。笑顔のままに俺を先導し、奥へ向け歩き始めた。それに付いて歩きながら、女性の部屋を除くのは悪いと思うが、周りの光景を眺めまわす。
……多くの本棚が周りに広がっていた……元が書庫なのだからこれは当然か……だが人間の略奪により、本棚に仕舞われている本は少ない……穴あきになった本棚ばかりである。
残った本も、多くがもう長い事読まれていないのだろう……埃をかぶって放置されていた。ただこれは仕方ない事だろう、シュリは頭が良いため、書物であれば、一度目を通しただけでその全てを理解できるのだ。まぁ私の友が残した本は何度も読んでいるみたいだが、それも遠くない未来に理解するだろう。
彼女にとって、本は知識を得る為の道具に過ぎないのだ。だから何度も同じ物を読む事自体が珍しい。
……その考えがあったから、一つの本棚を発見した時に視線を釘づけにされたのだ。
その本棚は本で埋め尽くされていた……それも埃をかぶっていない事から、最近も手にした形跡があると見える。
シュリに対して持っていた評価からすると、それは珍しい……いやほぼあり得ないと言っても良い事だった。自身の中で、ふつふつと好奇心が湧いてくるのが感じて取れた。
こっそりとシュリの案内をそれ、その本棚の前に立つ……さっと内容を拝見して戻れば、シュリにはばれないと考えたからだ。
本棚にある本……その題名を流し見し、その中の一つを適当に手に取る。
相手の心を読む方法、固いガードの崩し方、相手をその気にさせる誘い方……戦闘時の駆け引きの本だろうか?魔法を扱う彼女にとって接近戦の対策は必須なのだろう。
それと共に自身の手にした本を開く、表紙に書かれたタイトルは……周りを出し抜き勝つ方法……周りの10魔族に負けない様に、シュリは今も自身を高めているようだ。
適当にその本を開き、中の内容に目を通す。そこに書かれた内容は、なかなかに興味深い物だった。
(献身的に尽くせばいつか報われる。相手の求める事を自ずから実践する事、尚且つ押し付けがましくない様に。時にはプレゼントも考えよう、意識させれば此方の物……上の地位の人物に取り入る方法だろうか?……別に今の忠誠でも十分なのだがな。)
確かにシュリの思いは嬉しいが……俺に返せる物には限りがある、最大限の礼で返すつもりだが……それ以上の褒美を望まれても困る所だった。
……何か褒美を考えておいた方が良いかもしれない。それはシュリだけでは無く、他の10魔族にも当てはまる事だろう……何か唯一無二で喜んでくれる褒美があっただろうか……
「リジィー様?どうかなさいましたか?」
シュリのその言葉が、思考に沈み始めた意識を現実に引き戻した。
遠くから聞こえるシュリの張った声は、思いのほか時間が経過していた事を認識させる。
「何でもない。今其方に行く。」
慌てて返事をし、本を戻し彼女の下へ向かった。彼女は、不思議そうに俺の姿を見ていたが、俺が先を促すと何も聞く事無く歩き出す。
その姿に内心で謝罪しながら俺は、自身が出せる褒美について考え続けていた。答えは出る事が無かったが、やがてこの部屋の中心、シュリが生活している空間であろう場所に辿り着く。
其処は簡素ではあるが綺麗な空間であった。
シュリの私服が掛けられているであろうクローゼットや、一人で使うには少し大きめの机をはじめ、一通りの雑貨が揃っている。
そのどれもが、俺が女性に対し持っている印象とは裏腹に簡素である。というのも、スロノドールの私服の印象が強いため、装飾が多い物を考えていたのだ。
だが違う、決して品が無いという訳では無い……いやむしろ上品であると思う。何といえばいいか……静かな……くつろげる空間……というのが当てはまる空間が其処にはあった。
……だからその異様な光景が際立っているのもまた事実だった。
普段シュリが使っているのだろう大きなベッド……その上に首輪をした裸の女性が座っていたのだ。
咄嗟に目を逸らしたから良く解らないが、首輪から伸びていた鎖はベッドの下に続いていた……その事から、現状で彼女の行動できる範囲はベッドの上だけである様に思えた。
……出来る限り状況を分析する事で、彼女の肢体を思い出さない様にしていたが……それも限界だった。さすがに男である自身には刺激が強すぎる光景だった。
髪の毛はスロノドールに近い銀髪……それを腰の辺りまで伸ばしている。体形は胸は小さめではあるがしっかりとあり、二つの双丘はその谷間がしっかりと確認できた。それと共にその山頂……桃色の点が……これ以上思い出すのはよした方が良いだろう。昔の体ならともかく、今の俺では情欲が抑えられるとは思えない。
……腰もほっそりとしていた……そしてその細さを際立たせる様に、少しばかり大きめの尻肉が……俺は馬鹿か!!考えるのはよせと言っているのが解ら無いのか!?何故こうも取り乱す!!いつも通りに接すればいいだろう!!
……やはり感情の制御がうまく行かない……昔、何度か不可抗力で女性の裸を見る事があったが……その時でもこんなに取り乱さなかったのに……
「…………シュリ……何故彼女は裸なんだ?」
出来る限り他の事に意識を逸らす為、シュリに問いかける。依然動揺が続いてはいるが、努めて平静を装いながらである。
「……玩具に服って必要ないじゃないですか?」
不思議そうにシュリは問いかけ直す。捕虜の話を聞いた時も思ったが……どうにも彼女にとって捕虜という存在は、奴隷よりも下に位置しているらしい……
それこそ文字通り、人間としてすら扱っていないのだろう。奴隷が衣服を着る事を許している事から、その様に伺える。
「……ああ!?そうですか!!すみません。配慮が足りませんでした!!服を脱がせる過程も楽しみたいという事ですね?」
……どうにも何か勘違いされているらしい……先ほどイレ―ナがした誤解と同じ様な勘違いを……俺はそれほど情欲に飢えているように見えるのだろうか?
……訂正したかったが……誤解しているとは言え、俺の意思を尊重してくれているのだ。その気遣いに水を差すのは躊躇われた為、裸の女が服を着終わるのを待つ。
その後シュリはこれもまた気遣ったのだろう。事が終わるまで席を外すと言い、俺がそれに対し返事をする前に去ってしまった……
残されたのは、俺と女の二人である……彼女は、シュリに捕まった時に着ていたであろう服を着ている。
その視線は不安げに揺れている……もう敵意を持つ余裕も無いのだろう、イレ―ナとは違い従順な姿が其処にあった。
……それこそ、どんな命令でも聞いてくれると思わせる程の……いや、シュリがどういった教育をしたか解らないが、事実そうするのだろう。俺に害を成す可能性が少しでもあれば、シュリは席を外さないはずだ。
生唾を飲み込む音が体内に響き渡った……それと共に自身の感情に呆れかえる。
俺の今の目的は情報収集だったはずだ、スロノドールを傷つけた赤髪のエルフ……そいつに繋がる情報の為にここに来たのだ。決してこの捕虜に自身の情欲をぶつける為では無い。
なら、今するべき事はこいつを抱く事では無い。色欲に流されそうな思考を強引に引き戻し、俺はベッドの上に上り、彼女の前に腰かけた。
「……名は知らないが、お前の名に興味は無い。だから私の目的だけを達成する事にした。其処にお前の拒否権は無い……解ったか?」
多少威圧的な発言になったが……そうしないと、また変な気が起きそうだったからだ、別にこの女に怒りを持っている訳では無い。
……だが、彼女からしたら俺が怒っている様に見えたのだろう。体を大きく震わせ、恐怖に揺れる瞳を必死に俺に合わせながら、無理やり笑顔を作っていた。
「はい、リジィー様……存分に……私の体をお使いくだ……さい……」
シュリの話では、生きる為なら何でもするという事だったか……覚悟はしているのだろうが、やはり辛いのだろう、声はこれ以上ない程に震えていた。
彼女は依然震え続けている指で自身の服を脱ぎ始めようとしている。それを止めながら、先ほどのイレ―ナとは程遠いその姿に呆れる。
いっそイレ―ナと同じ様な気概でも持っていれば名を聞いても良かったが……その必要はなさそうだった。
「勘違いするな、私の今の目的は情報だ。俺の質問に嘘を言わなければそれでいい。」
「はい……解りました。……雰囲気作りの一環なのですね……何なりとお申し付けください。」
……絶対に解っていないな……いちいち訂正するのも、理解してもらうのも面倒だ。俺の指示通りにしてくれるというのならそれでいいのだと妥協しよう。
「では最初の質問だ。とある者から、リリア誘拐の依頼……その前払いの報酬で、マジックアイテムを渡されたと聞いた。お前もそれを所持しているか?」
「…………はい、このイヤリングがそうです。……それがどうかしましたか?」
彼女は、右耳に付けた小さなイヤリングを指さす。自身の想定していた質問と違ったのだろう。その答えは戸惑いが見て取れた。
「お前に質問を返す権限は無い。それをよこせ、それとそのアイテムの効果を簡潔に教えろ。」
だがその疑問に答える義理は俺には無い、彼女の疑問を封殺し、要求を突き付ける。
彼女は俺の機嫌を害したと考えたのだろう。慌てて震える声で謝罪すると共に、急いでイヤリングを取り外し、俺の手に渡してくる。
「すみませんでした、リジィー様。……そのアイテムの効果は生体感知です。……私見ですが、中級魔法であると思われます。」
やはりか……これもサロスに鑑定してもらうとしよう。今後の行動を組み立てながら、先ほどイレ―ナにした質問を繰り返す。
「依頼の主……その素性は解るか?」
「申し訳ございません!!解りません!!どうか……どうかお許しください。」
……俺は一体何だと思われているのだろうか?頭を下げながら、必死に慈悲を懇願される……もういちいち考えるのも疲れてきた、彼女の反応は無視した方が良いだろう。
「……では、赤い髪のエルフについて何か知っているか?」
答えはもちろん、知らない、であった。まぁ当然か……此処で知っていると言われた方が驚く話だ。
……ともかく、マジックアイテムは手に入った。これで当初予定していた目的は達成したのだ……後は何をしようが自由なのである。
……ふと彼女の胸元を凝視していた……少しぐらいなら触ってもいいのではないだろうか?
うん、シュリも俺の目的が情欲を満たす為だと思っている。それにこの女もそういった様に扱われる事を覚悟している……はずだ。なら少しぐらいなら女の体を知ってみてもいいのではないだろうか?
……それに……俺もいずれは子を成す時が来るだろう。ならその時の為の後学として、今、多少の時間を割いてもいいはずだ……それに相手が誰になるかは解らないが……いざ、その時に適切な知識が無ければ、最悪失敗して、相手に恥をかかせてしまうかもしれないのだ……それを避けるためにも今、この女で練習をしても……
「はぁ……本当に俺は馬鹿だな……それは今じゃなくてもいいだろう。人間を滅ぼし、その上で時間が出来てから、ゆっくりと余裕を持って勉強すればいい。そうだろう?」
「え!?……そう……です……ね?」
適当な理由を付けて、この女を犯そうと考える思考を問答無用で破棄する。独り言として紡いだその言葉に、困惑しながらも女は答える。取りあえず同意しただけだろうから、きっと意味は解っていないのだろう。
その滑稽な姿に呆れながら、俺はベッドから立ち上がる。女は尚も不思議そうにしていたが、それを無視して俺はシュリに連絡を入れた。
「シュリ、俺の要件は終わった。俺はこれからサロスの下へ向かう。シュリは俺の指示を待ち、待機をする様に……後、最低限の服位は与えてやれ、後あまり無茶な教育はするな……人間は脆いからな、発狂されても困るだろう。」
「ご忠告ありがとうございます、以降注意します。話は変わりますが、玩具をお楽しみいただけたのならば、いつでも、使いたい時にお申し付けください。もちろん私も準備をしておりますので、好きな時に言ってくだされば、いつでも、どこでもお相手をさせていただきますので、気軽にお申し付けください。」
一応、捕虜と言えど服すらも許されないのは哀れであった……其の為、忠告の体裁を取りつつ、あまり不当に扱ってやるなと言ったのだが……俺の考えは伝わっていないらしい、まぁ今より酷くなる事は無いだろうから、これ以上の計らいはしてやるつもりは無いが……
それと共に後半の言葉が気になる、準備って何なんだろうか?いつでも、どこでも相手をすると言っているから……模擬戦闘の事だろうか?……10魔族の女性は、時々俺が理解していないままに話を進める事がある……多分重要な事では無いだろうから、そういった時は概ね曖昧な返事で返しているのだが……後々恐ろしい事になりそうで気がして怖い。
……まぁそんな事は些細な事だろう。困惑し続けている女を一瞥し、俺はシュリの部屋を後にした。
既に女に対する情欲など持っていない。未だ見えぬ赤髪のエルフ……その人物に向けて持った怒りのままに、彼に繋がる情報を整理し続けていた。
リジィー・スロード……かつて人間に滅ぼされた魔王は、誰もいない廊下を進む……
その歩みがぶれる事は無い……ただただ、赤い髪のエルフの破滅へ向けて突き進むだけだった。
イレ―ナとクーネの扱いの差は、魔王様に気に入られたかどうかです。それ以外に理由はありません。
クーネはイレ―ナと違い、今後再登場するかは未定ですね。機会があれば出す気ではありますが……
次回はマクジ共和国に移動するか、もしくはスロノドールの設定掘り下げ回になる予定です。
最近時間が取れない都合上、更新が一日開く事があるかもしれませんが、その際はご了承ください。
ではまた次回の機会に




