魔王は捕虜に質問す
短いです。
覚えている人は覚えているでしょうが……スアー公国で捕まえた女の捕虜が登場します。
その上で、捕虜に対する考え方など、一部差別とも取れる様な考えが出てきますが……作者は気弱な日和見主義者なので、ぶっちゃけ差別とか全然考えていません。誤解なき様お願いします。
では以上の事を踏まえた上で、本編に入ります。
「もっとだ……もっと情報が必要だ。」
リジィー・スロードは寝室として使っている自室、自身の今の体には大きい椅子に腰かけていた。
先の呪いの一件の後、スロノドールに一日の暇を出し、ワインを手にし戻ってきたアグリウスに、事情と共に清掃を頼んでいた。
故に、当分の間玉座の間は使えない状況であった。だからこうして自室に戻ってきたのだが……
考える事は貴族の情報ばかりである。
「赤い髪のエルフ……よくもまぁ、名前も知らぬ相手を信じる気になる物だ……」
赤い髪のエルフ……その外見的な特徴しか手に入らなかったのである。性別は中性的な顔であったため解らないらしく、現状の情報はそれのみなのである。
だからもっと詳しい情報が欲しかったのだ。偶然ではあるが、それに繋がる武器と人間を捕らえていた。ならそこからも情報を手に入れるべきだろう。
思考を纏めると共に連絡の魔法を紡ぐ……俺に忠誠を誓ってくれている相手は、すぐにそれに応え、魔法を繋いでくれる。
「どうしましたか?リジィー様……何か道具が入用ですかい?」
「急な連絡ですまない、サロス。つい先日、アグリウスを通して渡した武器の鑑定結果を聞きたいのだ。」
スアー公国首都ブレマス、その中心地に立つブレマス城に襲撃を掛けた者……既に俺の手によってこの世にはいなくなったが……その者が手にしていた魔法武器の話である。
その魔法武器を先日サロスに鑑定を頼んでいたのだ。彼なら、その武具を作成した者が誰か解ると思っての行動だった。
「ああ、あの剣の事ですか……」
サロスに鑑定を頼んだ時は剣を誰が作ったまでは深く考えていなかった。中級魔法が仕込まれていた事から、昔の魔王城の遺物だろうと思っていたのだ。
……だが今は違う。サロスが言いよどんだのを確認し、さらに自身の考えに確証を得る事が出来た。
「……リジィー様……あの剣なんですが。我々の技術で作られた物ではありません。多分ですが、人間が作り出した魔法武器であると思われます。」
「やはりか……くははははは!!そうなると人間は……いや、マクジ共和国は中級魔法までは自在に扱える事になるな!!」
厳密に言うと、魔法武具を作る際に用いられる技術と、魔法を発動する為に必要な知識は違う……しかし、いかに用途が決まっていると言えど、あの魔法武器は中級魔法を際限なく使用したのだ。
ならその前提で動いた方が良いだろう、場合によっては上級魔法の境地にまで辿り着いているやもしれん。
「だが疑問なのは魔力の問題だな……見た所ではあるが、剣士の者が自在にそれを扱っていた……となると魔力の消費も抑えているという事か?」
疑問は口をついて出る。それは思考を纏める為の物であり、特段答えを欲しての事では無かったが、サロスはその疑問に明確な答えを出してくれた。
「ああ、それなんですが……あの剣自体が魔力を入れる器になっていた様なんです。今はもう空に近いですが、魔力の容量自体は相当大きいですね……反面、剣としての性能は鈍らに近いですが。」
「ふむ、剣の見た目ではあるが、あれも一種のマジックアイテムと見るべきなのか……なかなか面白い作りじゃないか。」
見た目で騙す……古典的な手ではあるが、昔から使われるほど効果的な手なのである。まんまと俺はそれに騙されたらしい。
「ありがとうサロス。引き続き道具の作成を続けてくれ。」
「了解しました。リジィー様。」
感謝と共にサロスとの連絡を切る。これで敵の実力を暫定する事が出来た。
……赤い髪のエルフは少なくとも、中級魔法自在に扱える。先の呪いは中級魔法の区分であり、今のサロスの鑑定結果からも相応の技術を持っていると推測できる。
……そのエルフが単独で行動していない可能性もあるが、少なくとも貴族があったのはそのエルフのみだ。なら呪いを掛けた人物はそいつで特定できる。その上で思考を修正するとしたら、俺とサロスの今の関係の様に、赤髪が設計図を作成し、それを作成させた……と考えるのが現状で一番理解できる。
故に現状の仮想敵は赤髪のエルフ単独である。しかしこれは状況によって変わる事でもある。其処ら辺は随時修正が必要だろう。
「後はあの女からの情報を得れば……そういえばシュリも一人捕らえたという話だったか……ならそいつからも情報を得られるだろう。早速移動するか。」
リジィー・スロードは椅子から立ち上がり移動する、その足には迷いが無く、静かで、冷静な怒りを身に抱えた魔王は、赤い髪のエルフにどんな苦痛を与えるべきかを考え続けていた。
◇◆◇◆◇◆◇
「元気にしていたかね?……そういえば名前を聞いていなかったな。名乗りたまえ。」
魔王城の無数にある施設……その一つである監禁用の部屋で、リジィーは目の前に座る女に話しかける。
彼女の体は、監禁という言葉から想像される物とは程遠い……というのも、何の拘束を受けてもいないのだ。
鎖で拘束されても無ければ、牢に入れられてもおらず、むしろその逆……この部屋の中でのみに限るが、彼女の行動は自由であった。
一応そういった拘束施設も別にある。だがリジィーは彼女を其方には送らせず、この部屋を与えたのだ。
魔法により施錠された牢獄……中から出る事は叶わないその部屋は、住み心地が良い様に配慮して作られている。また食事も三食欠かさずに出している、決して、不当な扱いをしている訳では無いのだ。
「イレ―ナ・ソシュード……よ。リジィー・スロード様」
しかし、イレ―ナと名乗る彼女の声は刺々しい。
その名前を頭の中に叩き込みながら、彼女が何故こんなにも敵対的なのかを疑問に思う。
アグリウスの事だから決して俺の意思に反した事はしていないだろう。部屋という牢獄に監禁しているとはいえ、体の拘束は行っておらず、室内は軽い運動位なら出来る程に広い……閉塞感も無いはずだ。
では食事がまずいのだろうか?しかし現状この魔王城……その全員の食事はサロスが作っている……彼の食事が不味い訳が無い。捕まえる時に多少手荒な事はしたが、それ以降彼女に危害を加える者もいないはずだった……待遇の不満でもないだろう。
……ブラウの時もそうだったが、何故か俺は女性との対話が苦手らしい。10魔族の女性とは問題ないのに……不思議だ。
「ふむ……何か不満があるのか?叶えられる範囲なら努力するが?」
考えても答えが出そうになかったので、いっそ聞く事にした。ブラウとの対話の経験から、互いの認識を共有するのは、とても大事な事であると悟ったためだ。
だが、俺のその申し出を受けても彼女は此方を見据え続ける。その瞳は俺の内心を見透かそうとしているように見えた……裏も何もないのに警戒心が強いものだ。
しかしそれも数秒、言葉には依然、警戒と緊張を含めたままイレ―ナは話し始める。
「……一体何が目的なんですか?魔王リジィー・スロード……そんなまどろっこしい事をせずに、さっさとレイドみたいに私を殺せばいいじゃないですか。」
彼女の言葉に何となく理解できた。どうにも彼女は、俺が処刑する為にこの魔王城に攫ったと思っているのだろう。だから、甘い言葉が何かしらの罠に見えて仕方ないのだろう。先ほどからの警戒の理由はそれからだろう。
取りあえず彼女の警戒心の理由は解った。それは彼女の勘違いだと訂正しようと思ったが……それ以上にどうしても訂正したい部分が一つあったために後回しにする。
「……いろいろと訂正したい部分があるが……需要な部分をまず一つ上げる。今の俺の名は魔王では無い!!リジィー・スロード……それが俺の今の名だ!!」
名前に固執する訳では無いのだが……さすがに魔王リジィー・スロードは無いだろう……何で前世の名と今世の名を混ぜたのだろうか……それが解らない。
せめて魔王かリジィー・スロード、どちらか一方のみで呼称してくれればいいのだが……どうせなら今の俺の名で統一した方が解りやすいだろう。そう思っての訂正だった。
しかし、俺の訂正を聞いたイレ―ナは、その大きな目を不思議そうに見開いている……理解できていないらしい。
「……貴方、魔王……何でしょう?」
「ああそうだ。俺はかつて魔王だったし、今も魔王ではある。」
「…………うん?……なら魔王リジィー・スロードで問題は……」
「それがおかしいと言っている!!何故魔王とリジィーを混ぜる!!魔王リジィーだと、名前が続いて気持ちが悪い!!だからリジィーだけで構わないと言っている!!」
「………………え?でも貴方魔王なんでしょ?」
「ああそうだ!!何度言わせれば気が済むんだ!!俺は魔王であるがリジィー・スロードでもある!!だからリジィーの名を使えと言っているのだ!!」
「……………………はい……解りまし……た?」
何故だろうか……イレ―ナは俺の説明を理解していないようだ。そんなに難しい事は言っていないのに何故だろうか……不思議だ……
「……解ってくれたなら良い。話を戻そう……まず、私には現状お前を殺すつもりは無い。」
嘘をつけ……イレ―ナの目が訴えかけてくる。まぁ、彼女の立場からすれば、そう思うのも仕方ないだろう。だから俺の望みを告げる。
「だが、今後のお前の返事次第でそれは変わる。……解るだろう?死にたくないなら私に従え、それ以外にイレ―ナ……お前が生き続ける事が出来る道は無い。」
俺としては理不尽な事を言っているつもりは無い。そもそもの話、彼女が俺に負けなければ……捕らえられたりしなければ、こういう事態にはならなかったのだ。
自身の力量不足……つまり全責任はイレ―ナ自身にあるはずなのだ。その事態を防げなかったお前が悪い、としか言いようが無かった。
それに、これは風の噂に聞いた事だが、女性の捕虜や線の細い男性の捕虜は、半強制的に生かされたまま、兵士や領主の性処理に使われる……という話も聞いた事がある。ならば彼女だって、自身がそうなった時位の覚悟はしているはずだった。
だが、彼女の目に映るのは軽蔑の瞳である。多分だが、俺が性処理として彼女を使う為に攫ったと思っているのだろう。
(……お前だってリリアを攫おうとした事から、悪事を生業としているはずの人間だ、ちょっと傲慢すぎやしないか……)
内心でそう思わなくも無いが、それを隠しイレ―ナに俺の目的を告げる。
「はぁ……勘違いしているようだが……私の目的は情報だ、お前の体に興味なんぞ無い。」
「今の所は……でしょう?今後どうなるか解らないわ。」
どうにも俺は信用されていないらしい……俺としては、余り時間を無駄にしたくは無いのだ、情報が得られ無いなら得られないで、さっさとシュリの方へ行った方が良いだろう。あっちは服従を既に誓っているらしいしな。
「今後どうなろうとお前に抗う術は無い。此処で従うのなら、次の目的……そうだなお前の言う通り、抱く事になるかもしれんな……までは現状維持だ。その時までは、旨い食事もついて、生きながらえる事が出来るぞ。……最終通告だ、決めろ。」
彼女に残された回答は、はいかいいえの二択である。
……当たり前だが、情報というのは出来る限り多角的に手に入れた方が良い、それが主観が混じった物なら尚更である。
その点から……彼女から手に入る情報は出来ればほしい物ではあったが、必須では無かった。だから、いいえと言われたのならばそれまでだと思っている。
其処に他の感情など入らない、別に可哀想とも、憎いとも思わない……ただ、必要ないから処分するだけである。それ以上もそれ以下も無い……いや、むしろ時間を無駄にさせられている現状、マイナスの方が大きいかもしれない。
……ともかく、俺の内心を理解してくれたのだろう。彼女は非常に迷っていたようだが、無言で縦に首を振ってくれる。
その姿に微笑みかけながら、早速俺は質問を開始いした。
「お前と一緒にいた男、あいつが使っていた魔法道具はどこで手に入れた物だ?」
本来なら他者の武器の情報など知らないはずだ……しかしイレ―ナはあいつの名前を知っていた……その点から、多少は情報のやり取りをしていると思ったのだ。
最悪、知らないという答えが来ることも想定はしていた。むしろ、そっちの方があり得る話ではあったが……その時はその時だ、次の話に移るだけだ。
……結果としてだが、その質問は想定以上の回答を得られた。
「リリア・ネガ・シュバルツ……彼女の誘拐依頼、その前払いの報酬です。」
「……ふむ、前払い……か。なら、お前もあの剣を受け取っていたという事か。」
「いいえ違います。私の前払いの報酬はこれでした。」
イレ―ナはその言葉と共に右腕を掲げ、そこに付けられた腕輪を見せてくる。どうやら、それが彼女に与えられたマジックアイテムらしい……思わぬ所で赤髪に近づくヒントが手に入った。
「腕輪?……それはどんな力を秘めているんだ?」
「……有視界内の空間転移です。区分としては中級魔法に分類される物だと思われます。」
「ほう!?空間転移!!それも中級魔法だと!?……ははは、そうか!!あの時の目くらましの後、お前はそれを使って私の裏を取ったのか!!あれは素晴らしい動きだった……ただ、男の動きも一緒に封じた点は駄目だったがな。」
「…………ご忠告ありがとうございます。……もういいですか?」
俺の称賛と忠告に、イレ―ナは苦い顔をして言葉だけの感謝を述べる。彼女がもし、あの男の目を潰していなければ……結果はもしかしたら変わっていたのかもしれない。きっとそう思っているのだろう。
それと共に、話を早く切り上げたいのか、これ以上会話を続けたくない……という思いが込められた視線を俺に向けながら、イレ―ナは話を終わらせようとして来る。
「いいや、まだだ。その腕輪を此方に寄越せ。」
……別にその腕輪が彼女の手にあったとしても問題は無い、この部屋の中では魔法を行使する事が出来ないのだ、いかに強力なアイテムを持っていても、それが使えなければ意味が無い。
では何故腕輪を欲するのか……当然、情報収集の為である。それ以外の理由は無いが、彼女は諦めた様に腕輪を差し出して来た、もしかしたら、逃走を封じる目的だと思ったのかもしれない。
まぁ、彼女の思いなどどうでも良い、俺はその腕輪を受け取りながら次の質問に移った。
「依頼者の素性は解るか?」
「……解るとでも思っているの?」
反抗的な視線と共に聞き返される。彼女の答えは、解り切った結果ではあったが……敵意は想像以上のようだった。
少し捕虜としての態度では無いと思うが、細かな事に目くじらを立てるつもりも無い。敵意を受け流しながら質問を続ける。
「なら赤い髪のエルフは知っているか?」
「知りません。」
彼女の答えは即答である。
これもまた当然か……これ以上の情報は無いのだろう。想定していた事ではあったが、奴は相当注意して行動しているらしい。だが、腕輪という思いがけない情報が手に入った。
これを鑑定し剣の結果と比べれば、剣の作成者と腕輪の作成者が同一人物かが解るのだ。道具の細かな部分まで見分けられるサロスにしかできない芸当だが、現状ではそれすらも重要な情報になり得る。
イレ―ナに感謝を示し、俺は席を立ちあがる。今度ここに来る時……その時はどんな目的で来るかは解らないが……その時の返事までは、彼女はここで生き続ける事になるだろう。
「……そういえば言い忘れていたが……死にたくなったらいつでもアグリウス……あの牡牛頭の悪魔に言ってくれ、あの時の約束通り、苦しむ事無く介錯してやる。安心すると良い。」
彼女の返事は無い。しかしそれを特段気に留める事無く、俺はイレ―ナに与えた牢獄を後にした。
イレ―ナは生き続けているさ……俺達の心の中でな……
一応今後も何度か出す予定です。その上でどんな末路になるかはイレ―ナ次第、きっと次のイレ―ナはうまくやってくれることでしょう。
次回はクーネが出ます。覚えている人がいれば嬉しいですが……
軽く触れますが、彼女の現状は多分イレ―ナより酷いと思います。そんな話になる予定ですが、楽しんでいただければ幸いです。
ではまた次回の機会に




