リジィーズブートキャンプ
今回……というよりかは昨夜からですが、レイアウトの変更を試してみました。
これで少しでも読みやすくなっていたら良いのですが、もし逆に読みづらくなっていたら。適当にメールか何かに文句でも書いてくだされば、前のレイアウトに戻します。
作者の環境がら、スマホによる確認が出来ないので、もしかしたら其方の方は読みづらくなっているかもしれません。そういった方も文句があればご報告ください。よろしくお願いします。
魔王城の内部には様々な施設が存在する。
サロスが普段活動している工場に始まり、料理を作る為の厨房や、様々な武器防具などを保管する武器庫、多種多様な道具やマジックアイテムを保管する道具部屋、価値ある金品を保管しておく宝物庫などなど、上げればきりがないが多くの施設が存在した。
そしてこの修練所もその施設の一つであった。
多くの者が一度に鍛錬を積める様に、とても巨大に作られたその場は、人間の体はもとより、昔の魔王の姿でも、端から端まで走り切るにはそれなりの時間が必要だった。
壁には模擬刀から始まり、多種多様な武器が揃えられ、一定の区間ごとには、様々な大きさの、鉄でできた案山子が無造作に積み上げられていた。
「よ~~し、準備体操は済ませたな?僕がさっき言った通り、これから君達には腕立て伏せをしてもらう、自身の限界だと思ったらそこでやめていいからな。」
その広い空間に響き渡る声があった。少しばかり靄のかかった様なその青年の様な声は、並べられた男子奴隷の前、そこに立った石の人形から発せられていた。
リジィーはそのゴーレムの先にいる人物に声を掛ける。
「ご苦労ニルブニル、私もこの場を使わせてもらうが……いいかな?」
その突如掛けられた声に、ニルブニルは慌てたように、無骨な石の体を回し、此方に向き直る。
「リジィー様!?もちろんです。むしろ許可が必要なのは此方です!!」
「いや、後から来たのは私だ……ところで、腕立て伏せをさせるのは、今の筋力を暫定的に測るためか?」
きっと本体は必死に頭を下げているのだろう。それに苦笑を返しながら、世間話程度に自身の考えを聞いてみる。
それに、ぶんぶんとゴーレムの首を縦に振りながら、ニルブニルは答える。
「ええそうです!!それと共に成長を実感させる狙いもあります。」
「ふむ、素晴らしい。やはりお前に任せて間違いなかったようだ。今後もこの者達の成長に貢献してくれ。」
労いの言葉と共に、その場から離れ待たせていたブラウの下へ戻る。
俺の背には、より一層、張り切ったニルブニルの声が掛けられている。
ブラウは、俺の一連の行動を意外そうな顔で此方を見ていた。
「……意外でした。わざわざ声を掛けるなんて……」
俺はなんだと思われているのだろうか……部下の働きを纏め、その労に対し感謝を示すのは、上に立つ者の義務のはずだ……
それすらも怠る、怠け者とでも思われているのだろうか……
「……まぁそんな事はどうでもいい。ブラウ、体術の心得は?」
その質問に、ブラウは首を振り答える。
「なら、何が出来る?何でもいい、得意な事を言ってみろ。」
「……料理なら多少は……」
……そういう事を聞いている訳では無いのだが……
まぁいいか、そういった技術を持ち合わせていないのだと解釈しよう。
俺は壁に掛かった刃が潰された刀を一つ手にし、ブラウに持たせてみる。
それを頼りなく持った彼女は、少し重たそうに構えている。
「振ってみろ」
……やはりまともに触れないか。
刀の重さに振り回され、尻もちをついたブラウを他所に次の武器を手に取る。
それは小さな短剣だった。
リジィーの手の指を伸ばしたその全長、それよりも少し長いぐらいの刃のそれは、レンジャー職の者が好んで使う武器だった。
何故なら、この武器の利点はその扱いやすさにあるからだ。
いくら遠距離戦主体の弓を扱っても、どうしても近接戦をこなさなければいけない事がある。
その際、身に着けていても弓の行動を阻害することなく、尚且つ、咄嗟に受け流しによる防御が可能であるこの短剣は重宝していた。
もちろん刃は潰してある。
刀より軽いこれならば問題なく扱えるはずだ。
その短剣を手渡し再度降らせてみると、動きはぎこちないが問題なく振れる様だった。
「よし、なら短剣を扱えるように訓練していこう。」
「はい!!」
快活な返事が心地良い、ブラウもやる気があるようだった。
……だがそれとは別にひとつ気になる事があった。
「その服のままで大丈夫か?動きが阻害されそうなのだが……」
それはブラウのメイド服だった。
というのも、まず間違いないだろうが、スロノドールの趣味全開で作られたであろうそれは、明らかに装飾過多なのだ。
目には映えるが、とてもではないが動きやすい服装……少なくとも鍛錬に励む服装では無かった。
「問題ないと思います。こう見えて結構動きやすいんですよ、これ」
その場でくるりと一回転して、その青い髪とメイド服の裾を揺らしながら、ブラウは可愛らしく言う。
「……本当か?まぁ服が邪魔だと思ったら言ってくれ。他の物を用意させる。」
一抹の不安があったが、ブラウが良いというのなら、それに従う事にしよう。
「ではブラウ。早速だが掛かり稽古という物を開始する。……知っているか?」
「いえ、知りません。」
掛かり稽古という訓練方法について知っているかどうか聞いたが、その答えは予想通りだった。
むしろ知っている方が驚く。
というのもこの訓練方法は、俺のかつての二人の友……魔法を極めた友とは別のもう一人が、俺の訓練に用いた物の一つだからだ。
「簡単に説明すると……二人一組で行う鍛錬だ。片方が一方的に攻撃し、もう片方がひたすら受けに徹する。攻撃側の目的は受けの者に有効な攻撃を加える事だ。もちろん、ブラウにしてもらうのは攻撃だ。」
ざっくりとしたその説明に、ブラウは少しばかり戸惑った様だったが、それでも流れ自体は理解できたようだった。
壁から自身が扱う武器を適当に取り、それを構える。
「よし、理解したならさっそく開始しよう。俺が止めだというまで続ける。それまでは体力が尽きても攻撃し続けろ、もちろん俺を殺す気でな。」
「……大丈夫なのですか?」
「刃は潰してあるから大丈夫だ。……それとも、俺がブラウに後れを取ると思っているのか?」
ブラウは首を横に振る事で答える。そのまま手にした短剣を両手で構える。
……両手で構える武器では無いのだがな。
まぁそこらへんは追々自身で気付くだろう。
後ろではニルブニルの指導の声が鳴り響いている。
その声に応える様に張り上げられる、男子奴隷の声を耳にしながら、ブラウの鍛錬は開始された。
◇◆◇◆◇◆◇
結果を言うのなら退屈極まりなかった。
というのも、ブラウの動きが遅すぎる。それに力も弱い。挙句の果てにはフェイントを入れる事もせずに、ただただ愚直に突撃してくるだけだった。
もう何度目になるだろうか、自身の手にした刀で弾き飛ばされ、地面に叩きつけられたブラウの姿を視界の端で眺め。失敗したかな……と内心で思い始めていた。
実を言うと、俺の目的は二つあった。
一つは単純に鍛錬としての目的、全力で人に掛かるというのは、想像以上に成長に繋がる物なのだ。だから、ブラウにはそれを今やって貰っている。
そしてもう一つ、目的としては此方の方が大きいかもしれない。
……心を折りたかったのだ。
別に廃人にしようという訳では無い、ただ、圧倒的な力の差を感じさせる事で、ブラウの心を軽く折りたかったのだ。
かつて俺もそうだったのだが。一度挫けても尚、上に這い上がろうとした時の成長は、目覚ましい物がある。
それを期待したのだ……
だが、ブラウの根性は想像以上だった。
体力は既に尽きているであろうに立ち上がり、此方を見据えるその瞳には炎が宿っていた。
これ以上続けても折れそうになかった……
気が付けば後ろから聞こえる、男子奴隷の声も絶え絶えになっていた。
きっと、彼らも体力が底をついてきたのだろう。
……男子よりきついであろう特訓をしているのに、よくもまぁここまで粘るな。
再度飛びかかってきたブラウの攻撃を、その場から動くことなくはじき返す。
受け身すら取れずに、再度地面に叩きつけられたブラウの目には、まだまだ消えない炎が宿っていた……
「ブラウ、そこまでだ。もう限界だろう?」
「……ひぃっー……っはー……まだ……だい……じょうぶ……です……」
必死に空気を肺に取り込みながら、掠れた声でブラウは答える。
……なぜこうも、俺の指示に融通が利かない者ばかりなのだろうか。
「始めに言っただろう、終わりだと言ったら終わりだ。いい加減俺も疲れて来たのでな。」
もちろん嘘である。こうでも言わないと、ブラウはまだまだ続けそうな気がしたからだ。
その俺の声を聴いた途端、まるで糸が切れた人形の様に、前のめりに地面に倒れこんだ。
予定とは違う結果になったが、その根性は十分魅力的な個性だった。
彼女に休んでいる様に指示を出し。俺はニルブニルの方の様子を見に行く。
……そこには死屍累々の惨状が広がっていた。
男子奴隷の全員が、仰向けやうつ伏せ問わず、床に転がっていたのである。
ニルブニルはその全員を眺めながら、思案に暮れているようだった。
「あんまり無茶をさせるな、ニルブニル。成長してもらう前に潰れられたら困る。」
「……一応気は遣ったんですけどね。皆妙にやる気があるみたいで、さっき僕が強制的に休む指示を出さなければ、たぶん今も続いていたかもしれないんですよ。」
此方もブラウと同じ状況の様だった。……焚きつけたのは俺だが、まさかここまで効果的だったとは。
ニルブニルにはしっかりと、体調と体力の管理をする様に指示を出しておく。さっきもニルブニルには言ったが、潰れてもらっては困るのだ。
しかしこれでやる事が無くなってしまった……
ニルブニルも手持無沙汰に修練所の内部を見回している。
だからだろうか、何となくその提案を口にしていた。
「ニルブニル、俺と戦ってみないか?」
「……本気ですか?リジィー様。言っておきますが、粗雑に作られたこのゴーレムでも、今のリジィー様には負けないと思いますよ。」
「解っている、だからこそだ。今の自身の力量を把握して置きたいんだ。」
俺の突然の提案に、ニルブニルは困った様に進言してくる。それに俺は、自身の考えを余すこと無く伝える。
実際、それは気になる所ではあった。弱いにしても、善戦出来る弱さなのか、問答無用で敗北する弱さなのかで全然違うのである。
それを理解したのであろうニルブニルは、それでも問題点を指摘する。
「僕の……10魔族全員の忠誠は揺るぎませんが。この場にいる奴隷達は……それにブラウもですか……リジィー様が負ける姿を見たら、まずいんじゃないんですか?」
「その程度で揺らぐ忠誠なら初めからいらない、それに悪事を企てた者がいるのなら、お前たちが私を守ってくれるのだろう?何も問題あるまい。」
ゴーレムは石の塊だ、その表情からは何も読み取る事はできなかった。
それでもきっと、ニルブニルは俺の事を、しょうがない人だと思っているのだろう。
少しばかりの沈黙が続いたが、やがてニルブニルは承諾をする。
「ありがとう、ニルブニル。もちろん全力で掛かって来い……ただ殺さないでくれよ?また500年ほど待たなくてはなるからな。」
「もちろんですよ、リジィー様。出来れば、無理を悟った時点で負けを認めてください。それが一番互いに問題は残らないと思うので。」
その言葉に返事を返しつつ、ニルブニルから離れ距離を取る。互いにある程度の距離を取った所で、それぞれの武器を持つ。
ニルブニルの……ゴーレムの持つ武器は大きな斧だ。刃は潰されていたとしても、その重さだけで簡単に殺傷できるだろう。
対する俺の武器は刃を潰した刀。そして体に隠し持った短剣一本である。
……斧を相手にするのは心許なかった。
気が付けば、男子奴隷は床に転がりながらも、視線を此方に向けていた。
後方からも一つの視線を感じる事から、ブラウも同じ状況なのだろう。
その視線を受けながら、先手を仕掛ける事にした。
「スピードスペル・マジックショット」
放ったのは初級魔法。初歩中の初歩であるその魔法は、牽制程度の意味しか持たない。
事実、ニルブニルはそれを防御する事も、回避することも無く受ける。しかし、衝撃を受けたはずのその体はびくともしない。
だがそれには構わず、距離を詰める。
俺の動きに合わせ、ニルブニルが動き出す。俺の動きの到達に合わせ、丁度重なる様に斧を振る気なのだろう。
しかし俺は足を止めない、一定速度を保ちつつ、半分ほどまで距離を詰めた後、一気に全力を出し加速する。
ニルブニルは斧を振る速度を速め調整する。この程度なら許容範囲なのだろう。
そして、そう対処してくれる事を望んでいた俺には都合が良かった。
「っなぁ!?」
ニルブニルの驚愕の声が響いた。当然だろう、俺が尚も加速したのだから。
無詠唱によってその効力を発揮した初級魔法、ブーストスピード……
その力は、対象の速度を増加させるものである。
だが、それは諸刃の剣でもある。
何故なら、いくら肉体の速度を上昇させたとしても、それに思考や判断がついて行かないと無駄だからだ。
魔法が力を発揮したタイミングが一番危ない。足をもつれさせた時点で、その驚異的な速度に地面で肉を削ぎ落とされる事になるのだから。
だからこそ、生物に……特に自分自身に過剰なブーストスピードを使用する者は少ない。
もちろん、適度であれば行動を速める事が出来るので、効果的ではある。
しかし、俺が今使ったのは前者の方、過剰なほうなのだ……
何故なら、そうでもしない限り意表を突けないだろうから。
適度であれば当然、魔法に精通しているニルブニルは何かしらの方法で対処する。
だから、その対処の暇を与えない速度が必要だった。
残り3分の1ほどの距離など一瞬だった。
斧はまだ振り下ろされている最中、そのがら空きの胴に擦れ違いざまに一太刀をいれ、通り過ぎる。
まさに奇襲による一撃だった。
それを成功させた興奮と共に、自身の現状をどうするべきか困った。
……止まらないのである。当然だ、止まれるわけが無い。
実を言うとそこまでは考えていないのである。
いかに有効打を入れるか……それしか考えていなかった……
「スピードスペル・ストップタイム」
だからそのニルブニルの魔法は助かった。
気が付けば、体の動きが遅くなっていた。
「リジィー様。とりあえず一度止めた後に、スロウタイムを重ね掛けして、加速の処理を上回る様にして置きました。1分後位にスロウを解除するので、それまでに加速を切っておいてください。」
ニルブニルの機転の御陰で、どうにか難を逃れた俺は。スロウタイムが切れたのを確認し、自身が思いの外善戦出来た事に興奮しながら礼を言う。
「いや~助かったニルブニル。あのままだと、体のあちこちを骨折するとこだった。」
「……するとこだった――じゃないでしょう!!僕が怪我を負わせるのならまだしも、自分から怪我を負いに行ってどうするんですか!!リジィー様!!もうこれ以上僕の……僕達の不安を増やさないでいただきたい!!」
「うん、すまなかった。それは謝罪しよう。だがなニルブニル、戦場とは何が起こるか解らない物なのだ……さっきの行動だって、予測出来なかっただろう?」
「……誰があんな特攻紛いの事をするんでしょうか?予測出来ないんじゃなくて、しなかっただけです。」
「それがそもそもの間違いだ。現に今する者が此処にいるではないか。」
「…………忘れてた。この人生粋の戦闘狂だったんだ……。リジィー様、昔の体ならまだしも、今の貧相な人間の体では昔の様な戦闘を控えてください!!お願いします!!」
……戦いに対する心構えを説いていたのに、気が付けば泣きそうな声で懇願されていた。
何がそんなに怖いんだろうか?強者と対峙し、その一撃で散る事が出来るのなら。これほど幸せな事は無いのに……
だが、俺に忠誠を誓う者からの進言を蔑ろには出来ない。善処しようと告げ、善処では無く約束してくださいと、未だに懇願を続けるニルブニルに背を向け、ブラウの下へ戻る。
彼女は未だに床に伏しながらも、その顔に興奮の色を浮かべていた。
その彼女の前に腰を下ろし、彼女に立てるか問う。
何度か体のあちこちを動かそうと、もぞもぞと動いていたが、答えは首を横に振る物だった。
ならばこれ以上出来る事は無いだろう。彼女の最低限の回復が終わるまで待つことにした。
「すごいです!!あんな……あんな風に戦えるんですね!?」
他にやる事も無かったので、計画の問題点などが無いか頭の中で再度確認していた時、ブラウのその声は掛けられる。
「当然だ。ブラウもいずれ、あれ以上に戦えるようになるはずだ。」
それはリジィーの色眼鏡の無い見解だった。
というのも、自身が人間になって解ったが。この体の成長速度は、魔王の体の比ではないのだ。ならばいずれは、昔の魔王の体すらも超えられるはずだった。
そして性別は違うが、ブラウも人間である。ならば経験を積めば相応の力量に成長するはずだった。
「はい!!頑張ります!!」
その考えを知ってか知らずか、覇気に満ちたその声は修練所に響き渡った。
遠くでは、ニルブニルが今日の鍛錬を終わらせる事に決めた様で、男子奴隷の全員に指示を出していた。
その光景を見て、今日のブラウの鍛錬も、終了にしようかと考えながら。
リジィーは、ブラウが回復するまでの間、他愛の無い会話を楽しむのであった。
という訳で、レイアウトの方はどうでしたでしょうか?
文句が出ない様なら、暫定的にこのままで続けてみます。あったのなら確認次第戻します。
今後とも、魔王一行の行動を楽しんでいただければ幸いです。
ではまた次回の機会に




