66話 双極の胎動(一歩ずつ進む道)
「……ふぅ。よし、もう一回だ」
シンの静かな決意と共に、その両手に眩い光が弾けた。
右手に握るは、燃え盛る赤蓮の輝きと飛竜の咆哮、そして爆発的な波動を宿す聖剣『日輪』。
そして左手に握るは、すべてを優しく凍てつかせる月の静寂と、鳳凰の治癒のオーラを宿す蒼氷の聖剣『月読』。
「そうだ、それでいい。お前の中の『飛竜の波動』は右の日輪へ、『鳳凰の静寂』と『暗黒闘気』は左の月読へ流し込め。そして、胸のアザにある最高神アデル様の聖光を、その二つを天秤のように繋ぐ中心軸にするんだ」
ジンの的確な指示が飛ぶ。
左手の月読から立ち上るのは、炎ではなく、絶対的な静寂を纏った美しくも冷徹な蒼き氷の気流。そこに、ジンから受け継いだどす黒い暗黒闘気が混ざり合い、相反する「光と闇」「氷と治癒」の不思議な魔力となって刃を包み込んでいく。
「急ぐ必要はねえ。5つの力をいっぺんに完璧に混ぜようとすれば、また体が拒絶反応を起こす。まずは右と左、それぞれの刃に力を『通す』ことだけを意識しろ」
ガイルが地を這うような姿勢でシンを鋭く見据える。
「行くぞシン! 最初は右からだ! 俺の突進を、右の日輪の波動だけで受け流してみろ!」
――ガルルルァッ!
ガイルが黄金の閃光と化してシンへと肉薄する。
シンは右足を踏み込み、右手の『日輪』に飛竜のオーラと波動を極限まで集中させた。
「――はぁぁぁっ!!」
ガイルの神速の爪撃に対し、シンは右手の『日輪』を振り抜いた。
ドゴォォォン!! と激しい衝撃波が裏庭の空気を震わせる。飛竜の波動がガイルの突進の威力を真っ向から相殺し、その巨躯を僅かに押し返した。
「チッ、いい威力だ! だが、お前の左側がガラ空きだぜ!」
押し返された反動を利用し、ガイルが即座に身を翻してシンの左死角へと回り込む。
普通の剣士なら体勢を崩して直撃を受けるタイミング。しかし、シンの左手には、すでに冷徹な魔力を湛えた『月読』が構えられていた。
「左手……『月読』、暗黒の静寂をここに……っ!」
シンが左手の蒼氷の剣を鋭く突き出すと、刃から放たれた暗黒闘気を帯びた氷の魔力が、ガイルの足元を一瞬でカチコチに凍てつかせ、その動きを完全に封じ込めた。
「おっとっと!? 動きを止めやがったか!」
「……そこだっ!!」
動きの止まったガイルに対し、シンは右の日輪(赤蓮の炎と波動)と、左の月読(蒼氷の闇と鳳凰の光)を胸の前で交差させ、アデルの聖光によって二つの刃の軌跡を爆発的に増幅させる。
――キィィィィィン!!!
シンの身体から、これまでとは全く違う、5つの色が美しく混ざり合う神聖なオーラが立ち上った。
「ジンさん……! 今、一瞬だけ、5つの力が完全に噛み合いました……!」
「ああ、見てたぜ。その二刀流の構え、お前の中に眠る5つの魂を目覚めさせる究極の型――名付けるなら、『五魂神醒・双極斬』だ」
ジンの言葉に、シンは自身の両手を見つめ、深く息を吐いた。
まだ完全な一撃を放ったわけではない。今回はほんの少し、その大技の「入り口」に触れただけだ。だけど、確実に一歩、新しい強さへの階段を上った実感がそこにはあった。
「ふふ、お疲れ様、シン!」
そこへ、ヒミコとの魔法特訓を終えてボロボロになりながらも、優しい笑みを浮かべたユイが、特製の冷たいお水を持って駆け寄ってきた。
モカとココアも「シン、今の一瞬だけすっごく強そうだったよ!」と、頭の上でパタパタと飛び回る。
「ありがとう、ユイ。……焦らずに、少しずつ、この技を僕のものにしてみせるよ」
夕日を浴びるシンの二刀は、世界の平穏を守るための新たな輝きを、静かに灯し始めていた。
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